ランニング13:第二チェックポイント到達
ゴール地点でもある人物の首が曲がってはいけない角度に曲がってしまった直後にその体に触れた直後、王都を脱出した時と同じ空間に、ぼくとポーラはいました。
「チェックポイント到達、おめでとう、かな?」
前回までと同じく、ぼんやりと白く光る球体が、疑問符つきで問いかけてきました。
「えっと、あれでゴールと認めてもらえるんですか?」
「うん、まあ、やりようはあるからね」
「やりようって」
「私の眷属化ですね」
「そう。鉱山都市ボーヴェに向かい、そこを治めるアミアン一族に、王都の政変を知らせる事が目的だったしね。
当主であるドロヌーブは盗賊団の首領と戦い、名誉の戦死を遂げた。
このまま、アミアン一族だけでも時間をかければ彼らを駆逐できるだろうけど、君らが手を貸せばあっという間だろう」
「えっと、それはたぶんそうするとして、ここにいる間、世界の時は止まってるんですよね?」
「そうだよ」
「一つ前のチェックポイントで、次のチェックポイントをどうするかをその場で話し合って決めましたけど、ここから先どうするかは、ドロヌーブさんやその一族と話し合わないと決まらないと思うんです」
「この盗賊団がどこから来たのかとかも調べないと」
「確かにそうだね」
ポーラの意見にも頷けました。
ここが鉱山を任されてたのなら重要な領地だった筈だし、それなりの兵力も置いてたのに、その本拠地というか砦で大将を倒してしまうとか、普通には起こりそうに無い事の筈だし。
「向かってくる途中で兵力が分散させられてるのも見かけたし、単なる盗賊達の動きには思えないわ」
「じゃあ、それを次のチェックポイントにしようか」
「えっ?」
「ポーラの眷属化を使えば、黒幕を割り出す事は難しくはない。十日の間に、黒幕を突き止めてその本拠地に到達する事」
「神様がそう言うのなら可能なんでしょうけど。距離的にも」
「君が一日に移動可能な距離を考えれば、余裕過ぎるね。
それじゃあ、この場を閉じる前に、カケルとポーラに一つずつアドバイスをあげよう」
「ありがとうございます」
「カケルは、もうすぐレベル20になる。そこで得られる追加サブスキルを使いこなすと、今後ずっと楽になるだろう」
「わかりました」
「ポーラは、次のチェックポイントまでに、なるべく眷属を増やしておくと、今後が少し楽になる、かもね」
「なるべくというのは、どれくらいなのか、お伺い出来ますでしょうか?」
「そこは想像にお任せするよ。じゃあ、三分後にこの場を閉じて、君たちはあの場に出現する事になるから、それまでに相談を終えておくといい」
そう言い残して、白球電灯ぽい姿の神様は姿を消しました。
「えーと。先ずは盗賊団を潰さないといけないとしても、あのボスっぽいのからだよね?」
「あの筋肉、呪いの短剣でも血管をさくっと切れるか不安かも」
「切れても気合いとかで塞いで治してしまいそうな雰囲気まであるよね」
「そうね。だから、カケルの超加速で何とか隙を作ってもらえない?」
「超加速でぶつかれば、いけるかな。その前にポーに威嚇してもらえれば気もそらせるだろうし」
「ドロヌーブの眷属化も先に済ませてておこうかな。ポーと二対一なら、そうそう遅れは取らないだろうし」
まあ、その後は、眷属にするなら、なるべく五体満足な死体の方が手間はかからないって事で、ドロヌーブにもそこら辺を良く言い聞かせてもらうとかを話し合った辺りで、3分が過ぎたらしいです。
画面隅の辺りに、総合距離やレベルと次のレベルまでの距離(わずか240メートルくらい)は表示されてたけど、次のチェックポイントまでの距離や矢印は表示されていませんでした。
その代わりというか、王都の時みたく、盗賊は赤、キゥオラ兵士は青いカーソルでマップ上に表示されました。
そんなシステム周りの事を確認してる間に、床に転がっていたドロヌーブの死体が影に沈み、盗賊の首領は脇腹に食い込んでいた大斧を投げ捨て、部屋のカーテンを乱暴に千切って、胴体に巻き付けていました。
そして彼が一息付こうとしたタイミングで、
ぼわああああっ!
とポーが影から姿を現して盗賊の首領を威嚇しました。
ぼくは大男の注意が完全にそちらに向けられたのを見て取ってから、彼の死角の影から外に出て、部屋の壁に彼を叩きつけるべく一瞬だけ超加速を起動。
体重200キロは軽く越えるだろう彼を弾き飛ばしても、自分にはほぼ何の反動もありませんでした。何かに触れたってくらいにしか。
ただ、誤算もあって。
「だああああああぁぁぁっ!?」
弾き飛ばした勢いと、弾き飛ばされた側の質量が圧倒的だったせいか、大男は壁を突き破って建物の外へと落下していってしまいました・・・。
「カケル・・・?」
影から伝わってきたポーラの声から静かな憤りが伝わってきて、思わず謝・・・言い訳していました。
「いやだってほら!まさかあんな重そうなのが壁突き破って飛んでいっちゃうとか思わないでしょ!?」
ポーラは一つため息をついて、眷属化されたらしいドロヌーブと共に影から出てきました。
「名付けしないでも会話出来るみたいだし、今は盗賊の掃討を先に済ませなさい。眷属化する際に少しは強化しておいたから、盗賊達に遅れは取らない筈です」
「ハッ、カシコマリマシタ、ヒメサマ」
なんか今までで一番アンデッドぽい仕草というか口調だったけど、彼は床に転がっていた獲物を拾って何度か振って体の具合を確かめると、さっそうと部屋から走り出てあちこちで盗賊を狩り始めたようです。
「砦内に入り込んだ盗賊はドロヌーブだけで十分だろうから、ぼくらは盗賊のボスの方を先に確かめにいこう」
「身動き取れなくなってれば楽なのだけど」
マップ上で探してみると、他のより若干大きなのがゆっくりとだけど動いてて、位置と方角的にも当たりだろうという方へと向かってみました。
少なくとも千人単位の兵士が詰めてられそうな砦の三階の壁をぶち破って、一階建物の屋根を突き抜けて落下。今はそこの壁を壊して、砦の外へと逃げようとしてました。
よろよろとした足取りは普通に歩いてても追いつけそうだったけど、早足くらいの速度で砦の外壁を駆け下り、大男の背後を取ると、また盾を構えて超加速で突撃です。
19x19って、ええと? 暗算できないけど、20x20よりは少し遅いくらいだよね。あ、でも超加速はさらに倍になるから、時速800㎞未満くらい?!
それはちょっと怖くて、時速400キロでも十分過ぎるので、大男の腰裏辺りめがけて加速を起動!自動車とかでも時速200㎞で衝突したら偉い事になるよね・・・?そりゃ、さっきの一瞬の超加速で飛んでってしまった訳です。ていうかそれで3階の高さから落ちても歩けるくらいの状態って頑丈すぎない?
一秒の半分も経たずに衝突して弾き飛ばすと、地上を何十メートルか低い弧を描いて飛んだ大男は、顔面をざりざりと地面で削りながらしばらく進んで止まりました。
「適当な速度で彼の上へと跳躍して」
とポーラから頼まれたので、時速19キロで走って大男を軽く飛び越すと、自分の影から垂直に飛び出したポーラが大男の背中から心臓の辺りに呪いの短剣を突き立てました。
それだけでも充分致命傷になってそうだったけど、ポーラの体をがっちりホールドする感じでポーまで一緒に落ちてきてたから、そっちの方だけでもトドメになってたかも。
二人の合体パイルドライバーが決まって、ぐべぇっ、みたいな叫び声が上がって、大男はぴくりとも動かなくなりました。その死体が影に沈み込んだので、あとはポーラが良いようにしてくれるでしょう。
ボスがやられた事によって、近くで戦ってた盗賊達も我先にと逃げだし始めてました。
「じゃあ、こっちは任せたよ。ぼくは、レベル上げて新しいサブスキルを試すついでに、盗賊達を倒して動けないようにしていくから」
「では、カケルに狼の二頭とマッキーをつけておくわ。大丈夫だとは思うけど、気をつけて」
「ありがと。ポーラもね」
うん、とうれしそうにうなずいたポーラを後に残し、手近な盗賊達の背中から追突するだけの簡単なお仕事を何十回となく繰り返している内に、レベルが20に上がりました。
飛び道具や魔法に狙われるのが怖いので、適当に走り回りながら新しいサブスキルの内容を確かめてみました。
空中走行
・何も存在しない空間に足場を形成して走れる
・高さは、レベル数x10メートルが上限
・高さ制限は、加速や超加速を使ったとしても変わらない
・逆さ立ちの状態で走り続ける事も可能だが、生理的な制約はかかるので注意
最後のは、まあそうだよねという事で、早速試してみました。
「お、おっ、おおっ!?」
一歩ずつ、わずかに地面より高い空間を踏みしめて駆け上がるのは新鮮な体験でした。
地上数十センチから1メートルくらいの高さで駆け回るだけで、かなり背が高くなった気分がして爽快でした。地面の高さよりも見通しも良くなって、体当たりもしやすくなったし。
兵士さん達から見れば、空中を駆け回り、目にも止まらぬ速度で盗賊達を弾き飛ばしまくる不審者だったろうけど、間違いなく味方だというのは伝わって、敵対行動を取られる事も無く、弾かれた盗賊達を拘束していってくれました。
砦の壁の内側はだいたい片付いたので、領都に散らばって逃げ出そうとしてる盗賊の中でも、一番外側にいる連中から標的にしていきました。
狭い街路を逃げてたり潜んでたりするようなのは、狼さんに足が千切れない程度に噛んでもらって足止めして回っておきました。
蚊取り線香、自分で使った事はなかったけど、火をつけて虫除けにする何かっぽく、外周からだんだん内周へと、マップの赤いマーカーを突き飛ばしたり、転ばせたり、歩けなくして回っていると、赤いマーカーがだんだんと消えていってるのに気付きました。
きっと、ポーラが死体を影の空間にでも回収していってるのだろうと思い、気にするのは止めました。
昼過ぎくらいに到着してから、赤いマーカーがマップ上から一掃されるまでには辺りは暗くなってきてました。
「カケル。チェックポイントだった執務室に来て」
そうポーラに影の中から声をかけられたので、砦の三階の外壁に空いた穴へと駆け上がって入っていったら、注目を浴びてしまいました。
荒らされた執務室には、上座ぽい位置に置かれたソファにポーラが腰掛け、その脇に外見がちょっと禍々しい雰囲気になったドロヌーブが護衛の様に立ち、少し似た感じの二十代半ばくらいの男性と、一回りくらい年下の女性が対面のソファに腰掛け、何人もの兵士がその背後を守っていました。
「来ました。彼が、私を王都から連れて脱出してくれたカケルです」
ポーラの紹介で、全員の視線が一斉に向けられました。
当たり前だけど、他人から注目されるのなんて慣れてません。王都でも散々な目にあったりもしたけど、あれはまた違うしね。
落ち着いた場所で、黙って視線と関心を寄せられるのって、思ったより緊張しました。というか固まって動けなくなってしまいました。
ポーラは、すっと立ち上がると、ぼくの手を引いてソファへと誘導し、彼女の隣へと腰を落ち着けさせてくれました。
さっきよりもさらに視線が集中して、なぜお前がそこに?みたいなアウェー感が半端無かったので、ポーラの影の中ででも待機させてもらいたかったのだけど、ぼくの目の前にいる若い男性が、一度咳払いをして空気を区切って注目を集めてから、発言しました。
「さて。ポーラ姫。当事者も揃った事ですし、王都で何が起きたのか、お話し頂けますでしょうか?」
この人誰だろ?って見つめてたのが悪かったのですが、視線の意味を察してくれて、名乗ってくれました。
「ああ、名乗っていなかったね。私はイグール。盗賊団の首領に殺されてしまったけれどアンデッドになってそこに立っている父ドロヌーブの長男だ。
隣に座っているのが妹のカーシャ。
神の意向も絡んでいると聞いたが、姫を助けるだけでなく、この領都の窮地をも救ってくれた事を、アミアン家の新当主として礼を言う。助かったよ」
お貴族様としては、平民に面と向かって礼を言ったり、ほんのわずかにでも頭を下げるのは避けるっていろんなラノベで読んだりしたけど、この人はとても良い部類のお貴族の一人らしいです。
隣のカーシャは兄の態度が不服なのか、言葉にも態度にもほとんど何の意志表示も見受けられなかったけど。いや逆か。お前なんぞに礼は言わんてか。まあいいけど。
「いえ。ぼくは、好きで走ってるだけで。ポーラを助けたのも、盗賊達をやっつけたりしたのも、そのついでって感じですから」
「そうかも知れないけど、カケルは謙虚過ぎるわ」
「成り行きと偶然とかもいろいろ絡んだ結果だしね。その、当主様の件は、ぎりぎりで間に合わずにすみませんでした」
「いや、父は隻腕といえど強者としても知られていた。負けたとはいえ、相手はこのアミアン一族の領都ボーヴェを落としかけていた。ならず者だとしても一角の存在だったのだろう。
さて、ポーラ姫。そろそろお話を聞かせて頂けますか?」
「かまいませんが、今夜はさわりだけで。みなさま今日はお疲れでしょうし、詳しい話し合いは、ドロヌーブと、盗賊の首領だった男を眷属化して名付けまで行ってからの方が二度手間になりませんから」
そうしてポーラは、ぼくに説明してくれたような、キゥオラの第一王子とマーシナの第一王女の婚儀の場で何が起こり、ポーラが逃げ出すはめになり、ぼくと出会い、王都から脱出し、ここに至るまでを淡々と簡潔に語って聞かせました。
いくつか質問に答えたりもしたけど、そのやり取りはイグールさんだけがポーラと行ってて、隣のカーシャさんはずっと険しい目でポーラを見つめていました。
それから夕食までの休憩として部屋に案内される時にいったん解散となったのだけど、カーシャさんが退出していく間際、ぎりぎり聞こえるかどうかという小さな声でつぶやいたのが、自分には聞き取れてしまいました。たぶん、隣にいたポーラにも。
忌み子のあなたのせいじゃないの?
ポーラの表情をちらりと横目に見たけど、特にショックは受けてなさそうに見えました。
その理由は、ぼくらの部屋に案内してもらってる途中でポーラが囁いて教えてくれました。
慣れっこだから、と。
部屋に案内されて、スイートルームって言うの? ベッドルームがいくつかついてる客室らしいのだけど、そのメインの大きなベッドに倒れ込みながらポーラが言った言葉が、ぼくの胸に突き刺さりました。
「忌み子は、生まれた時点で殺されて当然な存在だとも話したでしょう?
だから・・・」
だから、何なのでしょう?
事情を聞いた限り、王都のクーデター騒ぎにポーラは一切関わっていません。それこそ、通りを横切った黒猫に全ての不幸の原因を押しつけるような言いがかりでしかないのは明白です。
神様だって責任を認めはしないのに。
でも、そんな事はポーラだってわかっていて。
わかっているからこそ、あの場では言い返さなかったのでしょう。言い返しても、何も得るものがない事もわかっていたから。
だから、ぼくに何が言ってあげられるのだろうと考えてみて、特に思いつけませんでした。
それでも、側にはいてあげったかったから。
ベッドに倒れ込んで腕で目の上を覆ってる彼女の隣に腰掛けて、言いました。
「だから、何?」
「・・・・・」
「ぼくは、ポーラと出会えてうれしかったよ? 一人だけで走り回れても、さびしかったり、いつか飽きてしまったかも知れないしね」
ポーラから、言葉は返ってきませんでした。
しばらくしてから、目の上を覆っていた腕を動かし、ぼくの手の上に、彼女の手を重ねてきました。
彼女の目の周りは少し赤く腫れていた様にも見えたけど、彼女がほほえみかけてきてくれて。
自分は少し気恥ずかしくなって視線をそらしてしまったけれど、彼女が絡めてきてくれた指先の感触がうれしくて、にやついてしまっていたかも知れません。
そんな静かな時間が過ぎてから、夕食の準備が出来たと声がかけられ運び込まれてきて、盗賊団に襲撃を受けた当日にしては充分手を込んだ料理を堪能させてもらいました。
本来なら夕食の席を共にする筈が、さっきのカーシャの一言で、こちらに気を使ってくれたのだろうとポーラが説明してくれました。
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