ランニング12:オークの村長との交渉(?)とか

 村は、ひっそりと静まり返っていました。


 その他村人の死体からはすでに魔石を抜き取ってあるそうで。ポーラの気遣いがうれしいというかなんというか・・・。


 困った事に、オークとの間に言葉は通じないそうです。ゴブリンとの間に会話が成立しないのと同様に。自分もさっき狩人の集団倒した時に、彼らが何言ってるかわからなかったしね。


 さてと。ジェスチャーで要求を伝えるのにも限度があるよねって事で、いくつかの工夫を絡める事にしました。


 まずは、村長宅の入り口を軽くノック。

 当然の様に反応は無かったので、もう少し強めにノックしつつ、呼びかけてみました。


「村長さん、いるんでしょう?子供達まで犠牲にしたくなかったら、出てきてくださーい!」


 神様特典でオークにも通じるようになってくれないかなー、と薄く望みながら何度か呼びかけてみたけど反応無し。


「仕方ないか。ポーラ、狼さん達と熊さんポーの出番だよ」

「わかった」


 ぼくが扉から誰がどう出てきても不意打ちを受けないくらいには離れてから、狼さん達が村長宅を取り巻いて、あおぉぉぉーん!みたいな吼え声を連唱してもらいました。

 建物の中では騒動が起きてたのかも知れませんが、外から変化は見られなかったので、今度は子供達が寝てるであろう部屋の壁を、ポーにどすどすと張り手で揺すってもらいました。


 それでもまだ誰も出てこなかったので、ポーにも一際大きく吼えてもらってから、扉をノック。


「村長さん、これがラストチャンスですよー。これを逃すと、子供達もろとも皆殺しになりますよー」


 通じるかどうかはわからないけど、これでもだめなら、ぼくの超加速の勢いでポーに建物にぶちあたって崩してもらってからの全殺しルートが確定してました。


 狼やポーが吠えるのを止めたおかげか、建物の中から、オークの子供達が泣き騒いでる声が聞こえてきました。

 その声に背を向けて、再び扉から距離を取って誰かが出てくるのを待ちました。


 3分待ち、5分待っても変化は無く、そろそろポーラが決断を下しそうな雰囲気が影越しに伝わってきた時、扉が開いて、オークの老人と、その息子夫婦らしきオークが、赤子のオークを腕に抱いて外に出てきました。


 オークの老人が、息子夫婦達に下がっているように声をかけて数歩前に出て、話しかけてきたけど、相変わらず、何言ってるかはわかりません。


「ごめんね、夜押し掛けるだけじゃなく、村人をほぼ全員すでに殺しちゃってて。で、用があるのは、おじいさん、あなただけ。あなたがここで死んでポーラの眷属になってくれれば、他のオーク達は見逃すよ」


 わかりやすいように、老人オークを指さして、首を掻き切るジェスチャーをしてから、息子夫婦と孫の方を指して、しっしと追い払うような仕草を繰り返してみました。


 それで、老人にも、息子の方にもだいたい伝わってみたいだけど、老人の説得を息子は受け入れたがってないみたいで、こちらを睨みつけて、駆けだしてきました。

 およそ30メートルの距離を一秒で三分の一近く駆け抜けてたから、決して遅くはなかったと思います。ただ、そう来るかなってわかってれば、こちらにも十分な準備が出来てた訳で。

 自分が背中に回してた盾を正面に構えるまでの間に、息子オークは距離の三分の二近くを埋めてました。

 狼さん達が影の中から噛みつく事を提案してきてくれてたのは伝わってきてたけど、ここは任せておいてもらう事にして、断りました。


 うぉぉぉーっっ!みたいに吼えて、走り寄ってきた相手に向かって、最初の一歩を踏みだしながら、最大限で超加速。直後にはもうぶつかった衝撃?というか感触があったのですぐに超加速を切って立ち止まったけど、息子さんの方は走ってきた距離をそのまま吹き飛んで村長宅の壁に激突し、気絶したのか地面にずり落ちて動かなくなりました。


 奥さんオークも、長老オークも、息子オークに駆け寄ろうとしたけど、奥さんとお孫さんと息子オークを狼達が囲い、長老との間には熊のポーさんが立ちはだかりました。


 長老オークがポーの吼え声に硬直した瞬間。

 ポーラが長老オークの背後に現れて、喉笛を短剣で掻き切って、またすぐに影に潜って姿を消しました。

 なんでもシャーマンとかは呪術を修得してる事があって、殺される間際にかけられると効果が相当やばい事になるそうな。


 って事で、ポーラの眷属達はみんな影を潜って離脱してたし、自分も超加速で村の外まで脱出してました。


 そのまま、ポーの名付けをした後に休んだ場所にまで戻ってくると、ポーラとその眷属達が待っていたし、彼女達の目の前の地面には、さっき殺されたオークの長老が横たえられてました。


「カケル、大丈夫だった?」

「うん。そっちは?」

「こっちも大丈夫そう。今のところは、だけど」

「そっか。それで、これから眷属にするところ?」

「うん。眷属にすれば、言葉というか意志疎通は可能になるから」


 ポーラは、オーク長老の死体に手で触れようとして、直前で思いとどまり、近くに落ちていた木の枝越しに触れて眷属化しようとしたら、その枝が長老の死体に触れた辺りからぼろぼろと崩れ落ちてしまい、ポーラは慌てて枝から手を離して後ずさりました。


「死んでなおって、すごくない?」

「相手にしてるのが闇属性の魔法使いで、自分が狙われた理由もわかっているなら、その末路を辿らないよう保険をかけていたんだと思う」


 ポーラは何度か枝越しに試したんだけど、三回目くらいでも同じだったので、狼さん達に野鼠っぽいのを何匹か生きたまま捕まえてきてもらって、それをおおぶりの枝の途中にくくりつけて、再度眷属化を試しました。


 今度は、枝の途中に縛られた野鼠の二匹目までが黒ずんだ何かになって、最後の三匹目が生き残りました。

 ポーラはその無事な野鼠を鷲掴みにして、魔力か何かを叩きつけると、大きく息を吐きました。


「えっと、終わったの?」

「うん、何とか。ちょっと予想外の結果にはなったけど」

「もしかして、それが?」


 ポーラの手のひらの中で、じたばたともがき続けてる野鼠が、オークの長老が眷属化されてしまった姿、らしいです。

 ま、まあ、魂とか呪術とか、よくわからないものだしね!


「なんか、おとなしく言うことを聞いて無くない?」

「もともとの魔力も強めで、私よりだいぶ老練な魔法使いでもあったせいかな。メイジじゃなく、シャーマンの類だったみたいね」


 野鼠がちゅーちゅーっぽい抗議の声を上げて、ポーラは面倒くさそうにまたため息をつきました。


「このままだと話が進まなさそうだから、名付けまで済ませてしまうわ。カケル、また名前を決めてもらえる?」

「じゃあ、ミッ・・、はヤバいから、マッキーで」

「では、あなたは今からマッキーよ。私に服従し、心の底から仕え続けなさい」


 マッキーと名付けられた野鼠は、口の中にいくつもの魔石を詰め込まれて口をふさがれ、まるでリスの様に頬を膨らませながらかみ砕いたかして飲み下すと、ポーの時の様に黒い影の渦を身に纏いました。


 またポーラがふらふらになったので横から支えました。

 ポーラの手から地面に落ちた野鼠のマッキーは、やがて影の渦が姿を消した時には、後ろ足だけで器用に立つだけでなく、オークの老人が着ていたようなローブを身に纏い、なにやらそれっぽいごつごつした木の杖まで手にしてました。


 ポーラは、横になったポーのお腹に体を埋めると、ほとんど気を失う間際にマッキーに伝えました。


「明日の朝にはここを発ちます。それまでに心残りは無くしておきなさい」

「・・・ははっ、お心遣い、ありがたく」


 そしてマッキーは影に潜ってどこかへ行ってしまい、ポーラは気を失っていたので、自分も彼女の隣に寄りかかり、夜も遅い時間になっていたので、すぐに眠りに落ちました。


 翌朝。目覚めた時には、ポーラが肩に寄りかかった状態で眠っていて、身動きできませんでした。


 しばらくはそのままでいいかと二度寝した後でもまだポーラは起きてなかったけど、マッキーが目の前の地面にいて、こちらを見上げてたので、尋ねてみました。


「出発は、出来そう?」

「はい。お心遣い、ありがとうございました」

「そっか。良かった。面倒事に巻き込んじゃって、ごめんね」

「・・・オークと人は、殺し殺される間柄です。魔物の間でも人と人の間でも、同じ事は起きます。その中で、私は子や孫達を見逃して頂きました。その恩には報いたいと思います」

「これから、もっといろんな面倒事に巻き込まれるかもだけど、その時はよろしくね」


 よろしくされても困るだろうけど、と思った通り、マッキーは苦笑いしていました。


 ぼくの隣で寝ていたポーラが目を覚ますと、マッキーはぼくの時よりは他人行儀な挨拶を交わした後、ぼくとポーラは朝食などを済ませて、三日目の行程にとりかかったのでした。



 そして第二チェックポイントまでチェックポイントまで残り200キロ未満を、昼間は狩りをしつつ、夜間はしっかり休む感じで、それでもほぼ一日半ほどで走破していきました。

 レベルは19まで上がり、次のチェックポイントまでに20に到達しそうな勢いだったけれど、目的地付近がだいぶきな臭そうな雰囲気に包まれていました。


 基本的に列車ごっこという人目につきやすい逃避行なので街道を避けて進んできたのだけど、街道も、その周辺の森の中にも、兵士の姿を頻繁に見かけました。


「戦争? だけど、王都で見かけたような他国の兵士の姿は無くて、いるのはみんなキゥオラの兵士ぽいよね?」

「そうね。王都の変事が伝わってるかは微妙そうなタイミングだし、兵士達は王都からの進軍を待ちかまえているというよりは、見つからない敵の姿を探しているような」


 いったん、進む速度を落としてでも、ポーラやマッキー達に情報収集を優先してもらったところ、どうやらこの辺境の地に大きめの盗賊団がやってきて、ここの領主であり、この第二チェックポイントのゴールでもある人物との間に激しい戦闘が起きているらしいことがわかりました。


「という事は、急いだ方が良さげ?」

「そうね。ゴール間近で、判定対象が殺されて振り出しに戻されるとか、避けたいし」


 というわけで、そこからは急いだんですけどね。

 情報収集をした辺りから一時間も進んだ頃には、マップ上にもゴール地点となる人物の位置が表示されて、人目につくのも構わずに、なるたけ直線距離で向かっていきました。


 到達した領主の館兼砦みたいな建物は、盗賊の集団に入り込まれたらしくあちこちで絶賛戦闘中。いちいち構ってられないので、ポーラの影潜りと影渡りで目的人物のいる位置まで移動していってもらったのですが、最上階の広い一室では、大斧を片腕で操るたくましい隻腕の戦士と、身の丈が2.5メートルはありそうな全身筋肉の固まりな大男とが死闘を繰り広げていた、みたいで。


 というのも、影渡りでたどり着いた直後。

 分厚い斧の刃を脇腹に深く食い込まされても、大男はすれ違いざまにラリアットを隻腕の戦士に放ち、第二チェックポイントのゴールである人物の首は曲がっちゃいけない角度に、めきょっと曲がってしまっていました。ぼくは慌てて超加速して、彼の体を受け止めようとその体に触れた瞬間、第二チェックポイントのゴール地点に到達。周囲の景色はいつもの暗闇に切り替わったのでした。

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