ランニング11:オークの村と、レベル10到達特典

ブクマ増えてきたのはうれしいのですが、できれば評価の方もお願いします!


====================================================

「オークも眷属化するの?」

「いいえ。数もそこそこいるし、眷属の強化にちょうど良い相手かな」


 そこはのどかな山村と言えなくもない場所でした。ただ住民がオークなだけで、畑もあちこちに見えました。

 オークは、身長が180cmから2メートルくらいあるのもいて、たくましいお相撲さんが、豚とイノシシの中間くらいのガワを被ってるような外見をしていました。

 棍棒などで武装してるのもいて、数頭がかりなら熊さんでも苦戦しそうな雰囲気がありました。


「どうしかけるの?相手の方がだいぶ数が多いけど」

「まずは、偵察かな。ボスみたいな要注意な相手がいないかとか、狩りに外に出てる連中がいるなら、把握して、先に潰しておきたいし」

「えっと、その間、自分はどうしてたらいい?」

「んー。村の中を私が、外を眷属達が影から偵察する間にカケルが見つかっても面倒なことになりそうなので、私と一緒に来て」


 ポーラに手を握られたと思ったら、また影の中にとぷんと沈み込んでいました。


「えっと、魔力消費とか、大丈夫なの?」

「うん。昨晩からで、私も結構レベルが上がったし、眷属も増えたから」


 話してる間にも、覗き窓の外は、村の外から中へと移り変わっていきました。建物の中も覗き見しつつ、やがて村の中央にある一番大きな家に忍び込みました。


 そこには幼いオークも何体かいたけど、長老的な年老いたオークもいて、影の中にいるぼくらに気付いたのか、こちらに振り向こうとしたところで、ポーラは建物の外へと、そして村の外へと急いで影渡りで脱出していました。


「気付かれたの?」

「オーク・メイジかその類かな。魔力の揺らぎとかで、気付かれる者には気付かれちゃうの。油断大敵ね」


 村から少し離れたところで影から外に出て、眷属の狼達が見つけたオークの狩人達の方へと向かいました。


 それは、皮鎧や毛皮、弓矢や剣や槍などで武装した一団で、すでに狩った鹿や猪ぽい獲物を担いで村に戻る途中のようでした。


「さて。ぼくはどうすればいい?」

「最初だけ、彼らの目を引くように逃げ回って」

「弓矢とか怖いんだけど、大丈夫?」

「うん。すぐに片づけるから」

「了解、よろしくね!」


 ぼくは、木の幹の背後から歩み出て、オーク達の正面から近づいていってみました。

 彼らにしてみたら、人里離れた森の中で、人間の手ぶらな少年が一人でふらふらと近寄ってきたら怪しさしかなかったと思います。


 先頭にいたオークの狩人が何やら合図を出すと、前衛がこちらを半包囲するように展開し、その背後に弓持ちのオークが矢をつがえ、狙いを定めようとしました。


 ぼくは思わず立ち止まり、彼らの背後を指さしてしまいました。


 後ろ、後ろ!

 とか声に出しては叫ばなかったけど、弓矢をつがえたオーク狩人二頭の背後に、ポーラの眷属熊さんがぬぅっと姿を現したと思ったら、その両手を上から下へと振り下ろし、狙われたオークの頭部を胴体へと陥没させてしまいました。


 熊さんコワっ!


 熊さんの咆哮を浴びたオークの狩人達は、仲間が一瞬で殺されたのにも気付いて混乱したけど、どうにか状況を立て直そうと声をかけ合いました。

 けれど、そんな前衛オーク達の武器を持つ手や足首とかに影から飛び出た狼達が攻撃して、何頭かが武器を取り落としたり、地面に倒れたりしました。


 まあ、このままでも熊さん無双できたのだろうけど、倒れたオークの足首や手首や首筋なんかに、ポーラも影から短剣で切り傷をつけていってました。


 さて、自分が何かやる事残ってるかなと立ってると、一団のリーダーらしき、ただ一人倒れてなかったオークが、こちらに向かって走ってきました。


 自分も黒髪黒目だし、熊さんや狼達の主だと判断されたのかな?

 それはともかくとして、構えた槍が突き出されてくる前に、静止状態から姿勢を低くしたまま加速状態へと移行。

 石を結んだ蔓草を、オークとすれ違いざまにその足に絡まるように投げつけてみました。


 直後。ぼきぃっという骨が砕ける音と、オークの巨体が地面に倒れる音が響きました。

 身長2メートルの鍛えてそうなオークが、走ってきたのと逆方向に絶対的な負荷がかかったら、最低でも転ぶか、足の骨が折れるかなって目論見はうまくいったみたいです。


 何が起きたかわからないオークは倒れたまま激痛に呻いてたけど、地面下の影から差し出されたポーラの短剣に首筋の血管を切られて、地面を赤く染めてやがて動かなくなりました。


「見事な手並だったわ」


 ポーラがぼくの傍らに現れてほめてくれた時には、全てのオークが死体になっていて、熊さんや狼達が魔石を取り出す凄惨な光景が展開されてました。


「無理に見る必要はないわ」


 そうして体の向きを変えられて視野からは外れたけれど、音は聞こえてくる訳で。ゴブリンので慣れたと思ってたけれど、一日二日で慣れるようなものでも無いらしいです。

 ゴリゴリグチュグチュブチュン!とか、R18待った無しなグロさで。

 魔石取り出し現場から少しだけ離れたところへ移って待っていると、狼と熊さん達が、取り出されたオークの魔石を運んできました。


 大きな熊と、狼七頭を前に、ポーラはしばし考え込んでから言いました。


「この際だから、済ませておこうかしら」

「何を?」

「魔石は七個。分配すれば強度はわずかだけど、まとめればそれなりになるし。そこに名付けまで重ねれば、さらなる効果が望めるから」

「でも、しばらく動けなくなるんじゃなかった?」

「オークの村が寝静まるまで待つ必要があるから、それまでには復活できると思う。その間は、眷属達やカケルに守っていてもらえれば」


 彼女の眷属に比べて、ぼくはだいぶ貧弱なんだけどな。


「というか、動けない間は、影の中で休んでた方がずっと安全じゃないの?」

「それは、そうなのだけどね。影潜りや影渡りができる闇魔法使いの何人もが、影の世界の安寧に浸り過ぎて、やがて日の当たる世界に戻ってこれなくなったとも伝わっているから、あちらで長時間休む習慣はあまり身につけたくないの」

「こわっ!それ、短時間でも頻繁に出入りしてるのでもやばいんじゃないの?」

「どこまでならという明確な一線は無くて、黒髪黒目の忌み子なら、並の闇魔法使いとは別格とも言われてるから、ずっと入り浸らない限りは大丈夫じゃないかな」

「まあ、それなら・・・」


 なんと言っても、ぼくは魔法の事なんか、これっぽっちも分かってないので。大丈夫だと言われたら、それを信じることにしました。


「じゃあ、熊を名付けて強化するとして、カケル。あなたに名前を考えて決めてもらえない?」

「どうしてぼくが?」

「異世界から神様に連れてこられたカケルに名付け親になってもらえるなんて、とても特別な事が起こりそうだもの」


 特別な熊って言ってもなぁ。

 某国有名アニメのはちみつ大好き熊さんくらいしか知らないし、あれは別に強いとか無かった筈。


 オーク狩人集団殺害現場は、村の誰かが探しに来るかも知れないという事で、そこからさらに離れた森の一角で、ポーラは熊さんの口にオークの魔石を詰め込んだ状態で、その額に手を触れ、ぼくが考えた名前を告げました。


「あなたの名前はポー。その存在が消えて無くなるまで、私に仕えなさい」


 うん。例の名前をちょっと変えただけだよ。

 でも、かわいらしい名前だし、良くない?

 たった今、ポーラの魔力をそそぎ込まれて、口にしていた魔石を飲み込み、黒い影の渦を身に纏い、雷鳴とかのエフェクトは無かったものの、影の渦が消え去った後には、体格がふた周りくらい大きくたくましくなり、毛並みもふっさふさになった熊さん、ポーがいました。


 顔つきは倍くらい凶暴に、ただし目元はくりっとしたかわいらしさが生まれたのはポーラの趣味なのかな。

 それはそうとポーラがまたふらついたので抱いて支え、地面に体を横たえたポーのお腹に彼女を委ねました。

 ふっかふかのソファの背に体を埋める感じで、自分も並んで味わってみたかったけど、夜を迎える前に、もう少し走り回って、レベルを10の二桁に乗せておきたかったので、その場を離れました。


 七頭の狼の内、六頭はポーラの護衛に残り、もう一頭が自分の影に潜ってついてきてくれる事になったのは、心強かったです。


 太陽の高さからすればまだ昼頃で、レベル10までまだ3/4くらいの距離を走らなければいけなかったけど、変なイベントさえ起こさなければ余裕の筈です。


 という訳で、オークの村とは逆方向に、時速9キロで走り始めました。これでもまだフルマラソンを走る選手達よりはずっと遅いというのが信じられませんでした。

 なんせ、42.195キロを、2時間ちょっとくらいで走りきってしまうのですから。


 少数のゴブリンの群ならお付の狼に片付けてもらったり、やばそうなのがいたら警告してもらって迂回したりして、やがてレベル10に到達しました。


 脳内にファンファーレが鳴って、ステータス画面を確認してみると、ユニークスキルのランニングに、新しいサブスキル、超加速が追加されていました。


超加速:レベルの上限速度xレベル数の2倍の早さで、レベル数と等しい秒数の間走る事ができる。その後、超加速していたのと等しい秒数の間、動けなくなる。

(例:レベル10の場合、上限速度の時速10km×レベル10x2=時速200kmで10秒間移動可能。10秒間連続で超加速していた場合は、その後10秒間動けなくなる)

制限:

・レベルが上がるまでの上限時間を使い切った場合、レベルが上がるか、死亡するか、日付をまたぐまで、使用不可になる

・加速と超加速の重複使用はできない。加速後の減速時間に超加速は使えないし、超加速後の移動不可時間に加速も不可能


 時速200kmって・・・。

 ちゃりんこ立ちこぎしてた人が、その何倍もの早さに加速されたら・・・。

 うん、深く考えないでも大事故起こす将来しか見えないね!

 ただ、この超加速は、加速と違って、レベル数分の使用制限が無かったので、オンオフでいろいろ工夫できそうでした。

 一瞬だけ加速して、一瞬で停止。また一瞬停止はするけどその次の瞬間には最大速度とか。

 ただ、筋肉とか骨とか大丈夫なのだろーか?、と心配になったけれど、あのオークの質量とかが自分に全くかかってなかったし、馬を弾き飛ばした時も反動とか無かったし、神様ユニークスキルのおかげ!という事で気にしない事にしました。


 さっきのオークの一頭が持っていた盾が、自分の上半身とかをすっぽり隠せるくらいだったので背負って運んでたのだけど、走ってる間は重みを感じてませんでした。感じてたら持ち運ぶのをそもそもあきらめていたのは間違い無いです。


 盾を構えて超加速で突進!とかも試したかったけど、何か一つ間違えて、王都の外からやり直しも避けたいのも正直なところ。

 だから、森の中でも木にぶつからずに走り回れるくらいの超加速のオンオフを練習してる内に、日が暮れてきたので、暗くなる前にはポーラのところに戻って、自分もポーラの横で仮眠させてもらいました。

 ポーの毛皮というか毛並みは最高の寝床でした。


 起こされた時には辺りは真っ暗で、またレジャーシートを敷いたポーラがその上で夕食の準備を整え終えてくれてました。オークの獲物を利用したシチューは美味しかったです。ジビエって言うんだっけこういうの?


 夕食後は、新しく身につけた超加速について話したり、村を襲う手筈を確認したりしたけど、そこで念を押されました。


「カケルは、襲撃に加わってもらわなくて大丈夫だから」

「どうして?」

「カケルは、優しい人よ。そしてあの村には、まだ幼いオーク達もいる。私はこれから彼らを皆殺しにするつもり。魔石を取り出して、眷属を強化する為に」


 ポーラの眼差しは強く、揺らいでいませんでした。

 もう決断しているのは伝わってきたけど、どうしても、一言だけは訊いておきました。


「それは、ポーラにとって、必要な事なんだよね?」


 必要なら殺していいとかもどうかと思うけど、魔物の子供なら助けて大人は殺すとかいう道理も無いのは、ぼくでも分かります。大人だけ殺して子供を残しても、彼らだけで生き延びられるかもわからないのだし。幼子だけなら尚更です。

 それでも、訊いておきたかったのは、彼女ではなく、自分が納得したかったから。無理にでも。


「ええ。これから、どんな未来が展開されるのか、まるで読めないから、なるべく備えておきたいの」


 そう言われたら、ぼくには受け入れる判断しか出来ませんでした。


「わかった。そしたら、ぼくは、ここで待っていたらいいの?」

「そうね。村の警戒具合を確かめつつ、眠っているオークの首筋を切って、出血死させていくつもりだから」

「ポーラに気付きかけたオーク・メイジも?」

「あれは要注意かな。危なそうなら、手を貸してもらってもいい?」

「いいよ」


 そうしてもっと夜が更けてから、ポーラは狼二頭だけを連れて影に潜って出発しました。一人の方が身軽に動けるらしいから、自分はお留守番です。


 ポーのお腹に寄りかかっていると眠くなりそうだったので、木の幹に背中を預けて待つこと30分くらいで、ポーラが戻ってきました。


「おかえり」

「ただいま」

「うまくいった?」

「おおむね。でも、あの長老宅は警戒されてしまってるみたい」

「あきらめるという選択は?」

「あれがオーク・メイジでなく、シャーマンの類だった場合、程度は不明にしろ、回復魔法が使える筈。私は使えないから、カケルが怪我で走れなくなった時に治せる手段があるかどうか、文字通り致命的な違いになると思うの」


 そうか。ポーラ自身も出来ることなら死にたくないって、当たり前だけど言ってたしね。自分も死なないにこしたことは無いし。


「でもさ、アンデッドになっても、治療系の魔法って使えるの?そういうの、光系統で、アンデッドが使うと自分にダメージ受けたりしないの?」

「闇魔法使いも死ぬまでは生きてるからね。光属性の治癒魔法を使える相手を眷属化した場合、自身はダメージを受けずに、引き続き光属性の魔法を使える事が確認されているの」

「はあ、そしたら、やるしかないのか・・・」


 気乗りはしないけど、その長老さんが子供達を大切に思っているのならなおさら、卑怯かも知れない手でも、なるべくお互いに精神的ダメージが少ない方策を検討しました。


 ほら。自分とこの村を壊滅させて子供達まで皆殺しにした相手を、魔法的には隷属させられてもさ、気分的には、ほんの少しでも違いそうじゃ無い?


 もう村人オークの大半は殺害済みだったとしても、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る