ランニング7:第一チェックポイント到達

「えっ、ここ、どこ?」

「神様の居る場所?」

「神界!?」

「さあ?」


 どう説明したらいいか迷ってると、ぼくたちの目の前に、テニスボールくらいの大きさの白い光の玉が現れました。


「お疲れさま、カケル。久々に走り回れて満足?」

「あんまりです。走り回れはしましたけど、こそこそ動き回ってる感じでしたし、障害物が多すぎました」

「そこは、このポーラ姫を助け出さないといけなかったからね。次はきっとお気に召すよ。外を思いっきり駆け回れるさ!」

「ならいいんですけど」

「あ、あのっ!」


 ポーラが覚悟を決めたような面持ちで、自分と神様の会話に割り込んできました。そういえばまだ背負ったままだったけど、走ってないと重かったので、背中から下ろしてあげました。

 神様は、そんなポーラが佇まいを直すのを待ってから問いかけました。


「何かな、ポーラ?」

「あの、あなたは、あなた様は、この世界を創造された唯一神様なのでしょうか?」

「そうだよ」


 まあ、神様とご対面なんて、ふつうに生きて死んだりすれば、信じられない機会だよね。物語によって宗教の扱いはぜんぜん違ってたし。

 驚いたポーラはよろめいたので、倒れかけた彼女をとっさに支えました。彼女は深呼吸を何度も繰り返してから質問しました。


「あの、そしたら、どうして」


 あんなクーデターとか争乱が起きるのを看過したのか訊くのかと思ったら違いました。


「どうして、カケルを遣わして下さったのでしょうか?」

「いい質問だ。とてもイイ。カケルもそうだったけど、やっぱり君も、当たりだよ」


 そうして神様は、虚空に、元の世界のぼくの姿を映し出しました。病院のベッドに寝かされ、いろんな医療装置を身につけさせられて、懸命な治療行為の数々も虚しく死に至ろうとする自分の姿でした。


 ショッキングな映像?

 悲鳴を上げかけたポーラにはそうだったかも知れないけど、ぼくはあの苦痛から解放された歓喜の瞬間でもあったしなぁ。

 それより、ベッドの傍に医師や看護士達の姿はあっても、両親はいなかったんだと、神様に見せてもらって初めて知りました。

 知ったところで、あまりどうとも思いませんでした。両親は両親で出来ることをしてくれてたし。ぼくが遂に死んだあの場に居合わせてなかったとしても。


 ぼくがそんな感傷?に浸っている間に、神様は淡々と、ぼくの境遇やユニークスキルについて、ポーラに説明してくれていました。


 その最後に、神様はポーラにも告げました。


「この世界を終わらせるかどうか、カケルが途中であきらめるかどうかで決める」と。


 ポーラはぼくをまじまじと見つめてから、神様に質問しました。


「どうして、カケルだったんですか?」

「何度殺されたり死んだりしても、あきらめないだけの気持ちの強さがありそうだったからね」

「・・・そうだったとして、どうして、世界を終わらせようとなされるのですか?やっぱり、人が愚か過ぎて見放されたのでしょうか?」

「それもあるけど、人はどこまでいっても不完全で、愚かだよ。後でカケルからも、彼がいた世界のことを聞かせてもらうといい。この大陸の人間達よりもずっと文明を発達させた後でさえ、人間の愚かさは種族を滅ぼし得る最大の脅威であり続けた。肌や髪の色や骨格が違う程度の人類しかいなくても、魔物などの脅威がいなくても、ね」

「わかりました。でも、人の愚かさだけが原因ではないとしたら、なぜ?」

「その答えは、先のチェックポイントのご褒美に取っておこうよ。まだ最初のチェックポイントに到達したばかりなんだしね」


 ポーラは静かにお辞儀をして一区切りがついたみたいだったので、ぼくも質問しました。


「で、次のチェックポイントとかはどんな感じになるんです?」

「どれにするかは、君たちに選んでもらおうと思ってね」

「ぼくと、ポーラにですか?」

「そう。カケルは思い切り走り回れるだけで気が済むかも知れないけど、それだけじゃ見てるこちらはつまらないからね。

 ポーラ、君は、何を望む?」

「世界の終焉以外でですか?」

「そうだ。君は殺された兄達の復讐を望む?」

「・・・いいえ」

「なぜ、望まない?」

「殺したのも兄達自身でしたし。それにアマリ姉様がまだ策があるような物言いをされてましたから。邪魔立てはしたくないかな、と」

「もし両親が殺されていたとしても?」

「父や母まで殺されていたら、悲しくはあります。けれど、両親でもどうにもならないような状況を、私自身がどうにか出来るとも思えません。王位に関心も興味もありませんでしたし、そんな私が変わるとも思えないので」

「では、この国を荒れるに任せると?」

「キゥオラ王国は、国土の広さこそ小さめでしたけど、商工業や金融業で栄えて、周辺諸国へ影響力を振るってきました。

 東岸諸国の統一を巡る争乱には、カローザ王国やガルソナ騎士侯国の様に介入はしてきませんでしたけど、統一後に成立したドースデン帝国から援助の申し出を即座に断らず検討する為に保留したことが、今回のクーデターにつながったとも聞いております。

 兄達の思惑が、カローザやガルソナやイルキハに利用された根っこにも、キゥオラ自身の判断がありました。その意味では自業自得ですし」

「国や民が根こそぎ滅ぼされても全く気にしないと?」

「・・・全くとは言いませんが」


 神様、というか白く光る球体は、しばし考え込むように黙り込んで揺れ続けた後に、次のミッション内容をのたまいました。


「決めた。カケルにポーラ。君たちは、キゥオラの西端辺りにある鉱山都市ボーヴェに向かい、そこを治めるアミアン一族に、王都の政変を知らせるんだ」

「アミアン・・・。確か今の当主は」

「ドロヌーブ・アミアン。キゥオラ屈指の強兵だったけれど、とある激闘を経て隻腕になり、一線を退き、ボーヴェへと引きこもった。彼に急報を知らせたところで、次のミッションは完了したことにしよう」


 自分の視野の左上隅には、目的地である鉱山都市ボーヴェまでの距離だろう184kmという表示と、視野に半透明の矢印カーソルまで表示されるようになりました。カーナビみたいな感じかな? 車乗ったこと無いけど。


「移動中は疲れないしお腹も空かないし喉も乾かないし眠くもならない。それでも休もうと思うなら、必要な何かはポーラのアイテムボックスに入ってるしね」


 ぼくは、このチェックポイントを去る前に訊いておかないといけないことを思い出したので、質問しました。


「城門から追っ手はかかってるんですか?それが馬とかなら、さすがに逃げきれないような」

「追っ手はかかってるけど、心配しなくていいよ。暗闇に紛れながら、必要に応じて加速を使えば十分」

「真っ暗な夜道も、ポーラの魔法でなんとかなるか」

「任せて。追手の妨害も出来るだろうし」

「カケルのレベルもあと少しで4に上がるしね。さあ、心の準備が出来たら声をかけてくれ」


 心の準備と言われてもなぁ、と悩みかけたら、ポーラが尋ねてきました。


「あの、さ。城門から走り出た時は、背負ってもらってたけど、できるなら両手は空いてた方が走りやすいよね?」

「うん。それはそうだけど、体の前でお姫様だっこしながら走るよりはマシ・・・。だけど、ええと」


 自分がまだ幼く外で少しは動けて遊べてた頃、縄跳びの縄とかを使って、そう、列車ごっこ!


「ポーラ。ロープみたいの、アイテムボックスに入ってない?」

「あったかしら・・・? あったけど、これをどうするの?」


 縄跳びの縄と勝手は違ったけど、長さはぐるぐるに巻いて輪っかを所々で結んで調節。二人がすっぽり入って走れるくらいの内径を確保しました。


「それを、どうするの?」

「説明よりは、やってみた方が早いかな」


 ぼくが輪っかの内側に入って先頭に立ち、輪の後ろ側にポーラの体をくぐらせて、しっかりとロープを両手で握ってもらいました。


「神様、ここで少し慣らし運転をさせて下さい」

「いいよ。ポーラが転んだのを気付かないまま地面を引き摺って死亡とか、死に方としてだいぶ間抜けだしね。二人が無意識に歩調を合わせられるくらいのおまけはしてあげるよ」


 見た目は、うん。お察しの通り。

 小さい子供が列車ごっこする絵面そのままです。

 白く光る神様の周囲をぐるぐると何周もしたけど、ぼくが速度を変えたり急に止まったりしても、ポーラが足をもつれさせて転んだり、ぼくの体に激突したりすることも有りませんでした。


「神様、大丈夫そうです」

「それじゃ、次のチェックポイントへスタートだね。行っておいで」

「「行ってきます!」」


 そうして、ぼくとポーラは、第二のチェックポイントへと走り出したのでした。

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