ランニング5:お姫様との相談
とりあえず、時速2kmになった早さで歩き回ったり、倍の時速4kmで1分ほど歩き回ってみて、その後1分間の時速1kmの落差を体感してから、まだ動き始めていないお姫様の方へと進み始めました。
今回は、合流後の事を考えて、おおまかに進む方角はそのままでも、これまで見かけていない兵士グループをなるべく視野に入れて、マップ上に表示させていく事を目標の一つにしておきました。
それでもなんとか一度も死なずに、次のレベルが見えてくる頃には、お姫様の初期位置を視野に納められました。けど、そのまま合流するのではなく、近くに潜んでる兵士達がいないか見て回り、数人の兵士をの近く物音を立てて別方向に誘導してから、姫様の側に近づいていき、声をかけました。
「こんにちは。いや、時間的には、こんばんは、かな」
答えは無かったけど、こいつ誰だと不審者を見る目つきで警戒されました。
まあ当然ですよね。
さて、どうやって信じてもらえばいいのかな。
「えーっと、これから近くに寄るけど、攻撃?とかしないでもらえると助かるかな」
「・・・・・」
お姫様は、裏路地の片隅に置かれた木箱の隙間に隠れていました。
ぼくは両手を掲げてゆっくりと近づき、彼女の正面に跪きました。
彼女は、魔法の杖に見える短い杖を構え、尋ねてきました。
「あなた、私が見えるの?」
「見えますけど?」
「・・・魔法が使えるの?魔法使いには見えないけど、でも、あなたも忌み子なの?」
「も?」
首を傾げてから彼女の容姿を見つめ直してみたら、彼女も黒髪黒目で。顔立ちは日本人みたいな東洋人顔ではなかったけど、年は自分より少し下に見えました。鈍く七色に輝くマントを羽織って、服はドレスとかの類には見えず、どちらかと言えば、黒色を基調としたブレザーの学生服と、研究所の制服みたいのをミックスした感じです。
自分が答えなかった事にいらついたのか、彼女は問いかけを重ねてきました。
「あなた、この辺りの人じゃないわよね?」
「そうですね」
「どこの誰に雇われたの?」
「あえて言うなら、この世界の神様?」
「へっ?」
自分の事情を説明しても良いかどうかは、事前に神様に確認してありました。答えは、問題ないとの事だったので説明しました。
どのみち、いくつもの集団が入り乱れて追われてる身で、見ず知らずの誰かに命を預けられるかって言われたら、ぼくでも答えはNo一択でしたし。
「・・・別の世界で死んで、この世界に転生させられた?それを信じろと?」
「そうだね。望むだけ外を走り回りたいって願いを叶えてもらう代わりに請け負ったミッション?が、君を救う事だったの。とりあえずは、この王都から君を連れて脱出する事が最初の
「あなたを信じないと、私はどうなるの?それも神様から教えてもらってるの?」
「このままいくと、もうしばらくしたら茶色のマントの集団に見つかって、逃げ回った後に捕まって、そのまま連れ去られるだろうね」
「見てきたように言うのね」
「さっき助けようとして殺されたばかりだからね」
「は・・・?」
というわけで、死んだりするとリスタートになる事とか、一度でも存在を捕捉した相手のマップ上の動きを把握できる事とかも伝えました。
「さっき君を捕まえてた、ひときわ大きな兵士は、他の兵士達とこちらにじわじわ向かってきてる。あと十分もかからないかな。虱潰しに手分けして探してる感じだけど、距離的にはそう離れてない。動き始めるなら、早めの方が良さそうだよ?」
そう言って、手を差し出してみました。
「ぼくの名前は、カケル。君は?」
「ポーラ。ポーラ・キゥオラだったけど、国が無くなってしまえば、ただのポーラになるわね」
手を取ってもらえたので、こちらに向かってる茶色マントの集団から遠ざかる方へと歩き始めてみました。
「それで、神様は、君が逃げるべき方向というか、脱出口を知ってると言ってたんだけど」
「この王都シャルロアには、東西南北に大門があるけど、どれも抑えられてしまってるでしょうね」
「ええと、王家秘伝の脱出口とかあるんじゃないの?」
「あるにはあるけど、入り口は王城にしかないし、そもそもお兄様達のクーデターがあったから、そちらも使えないだろうってお姉様が言ってたわ」
「クーデター云々の詳細はまた後で聞くとして、だとしたらどこからなら抜け出せそう?」
「北は、たぶんイルキハの連中が抑えてて無理。同じ様に、東はカローザとガルソナの連中が制圧してそう。西が本命だけど、そっちにもイルキハが手を回してるかも。もしだめなら南門かな。そっちならキゥオラやマーシナの兵が抑えてくれてるかも」
「えーと、つまり、イルキハとカローザとガルソナが敵で、キゥオラとマーシナが味方?」
「クーデターが起きたから、キゥオラが味方かというと怪しいのだけどね」
あちこちで敵兵を見かけてはやり過ごしたりしながら、とりあえず西門の方に向かってみました。
「茶色マントと、あれはキゥオラの兵なの?」
「鉄鎧に金色の線が入ってるのはそうね。タミル兄様が手を回した連中だと思う。南門の方に行ってみましょう」
そうして移動中、赤や橙が緑の兵士達が衝突してるのを避けながら、クーデター騒ぎについて質問してみました。
「私も、アマリ姉様から聞いたので人伝の情報なのだけど、元々今日は、この国、キゥオラ王国の第一王子で王太子のアルクス兄様と、南のマーシナ王国第一王女のイドル姫様の結婚式が行われる予定だったのよ」
「だったって事は、途中で邪魔が入ったの?」
「第一王子と第一王女の結婚式だから、東岸諸国を統一したドースデン帝国はともかくとして、西岸諸国からはお祝いの特使達が招かれていたわ。その護衛の兵達も一緒にね」
「その特使や兵が騒ぎを?」
「アルクス兄様の弟の一人、次兄のマルグ兄様が、アルクス兄様に祝福を述べるふりをして刺殺。花嫁のイドル姫様を、来賓で来てたカローザの第一王子に引き渡して、お忍びでついてきてたカローザの第三王女とその場で結婚を宣言したらしいわ」
「らしいとかって、兄の結婚式に出てなかったの?」
「ほら、私は忌み子だし。結婚式みたいな退屈な儀式よりも、魔法の研究の方が優先だし、両親にもそれで看過されてたわ」
「
「別に両親に見放されてたわけじゃないわ。普通に接してもらってたけど、忌み子を目出度いお祝いの場に出すのを嫌がる人達もいるって事で、ね」
「それもどうかと思うよ」
話し込みつつ、だんだんと南門に近づいていくと、マーシナの兵とカローザやガルソナの兵が衝突してる場面に何度も出くわしました。もちろん全部迂回したけれど。
「カローザ王国の支援を受けて、縁組みさえしてしまえば、アルクス兄様を殺しても、このキゥオラ王国を抑えられると、マルグ兄様は踏んだのでしょうね。ガルソナ騎士侯国もカローザ王国に同調してたみたいだからなおさら」
「えーと、そこに茶色マントのイルキハだったっけ?そこはどう絡んでくるの?」
「アマリお姉様によるとだけど、第三王子であるタミル兄様が、マルグ兄様とその花嫁を殺して、即位を宣言。イルキハ王国の第一王女との婚姻も内密に成立してて、イルキハとキゥオラの連合王国の樹立というか共同統治まで宣言したそうよ」
「無茶苦茶というか、ごちゃごちゃな混乱だね。その場を見てたらしいアマリお姉様とやらはどうなったの?」
「アマリお姉様は、東岸諸国を統一して王国から帝国になったドースデンの支援を受けて、いずれタミル兄様を排除して、幽閉されたお父様お母様を解放して、二人にこの国を任せると言ってたけど、どうなるかわからないから、私には逃げなさいと言ってきたわ」
「・・・お姉さんは信じられるの?」
「お姉様がずっと優しかったのかというとそうでもないかも知れないけど、忌み子としてアルクス兄様以外の兄様達は私にあまり近づかなかったのと比べれば、それなりに優しくしてきてくれたわ。今回も、逃げるのに必要だろう魔法の道具とかも渡してくれたし」
そろそろ南の大門が見えてくる手前辺りの入り組んだ路地に隠れて、辺りの様子を伺いながら尋ねました。
「どんなアイテムとかを? できれば、あの門から出ていけるような何かがあればいいんだけど」
「この魔法のマントは、魔力を流し込んでる間は姿が見えなくなるの。あなたにはなぜか効かなかったし、看破の魔法がかかってる何かには見破られたりするけど。大門には看破とかの魔法以外にも、かかってる魔法を打ち消す魔法がかけられてて、そのまま突破するのは難しいと思う」
「うーん、他には?」
「王族の身分を証明するティアラとか、アイテムボックスとか。後は私が魔法を使えるくらいかな」
ちなみに、アイテムボックスには、一週間分くらいの食料とかと、一年くらいは過ごせるだろうお金。いくらかの衣服などなど。
使える魔法は、黒髪黒目の忌み子設定せいなのか、闇属性の魔法が使えるとの事でした。
「闇属性の魔法って、どんなのがあるの?辺りを暗くしたりとか、眠りをばらまいたりとか?」
「良く知ってるわね。やろうとすれば出来るかな。それが大門付近でなければ」
「打ち消されちゃうのか。だとたしら」
「だとしたら?」
「騒ぎを起こして、どさくさ紛れに脱出するしかない、かな」
それからぼくは、ポーラと脱出の為の方策を練って、ランニングのレベルを3に上げつつ、下準備をして、王都脱出を図ったのでした。なるべく、死んだり、痛い思いもしないで済むように。
ちなみに、マーシナ王国を頼るのはどうかという提案については、
「嫁がされる筈だった第一王女を
というわけで、マーシナを頼る案は
次の更新予定
2024年11月30日 07:00
ランニング ~ 動けずに死んだぼくは異世界を縦横無尽に駆け巡り、最速な最強になる ~ @nanasinonaoto
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