ランニング4:目的のお姫様と合流は果たしたものの・・

 とりあえず切られた場所が元通りになって、痛みも消えているのを確認した後、マップを確認してみてぼやきました。


「障害物、多すぎません、神様?」

「今はまだ存分に走り回れるほど調子は戻っていないだろう。慎重に進むにはちょうど良いくらいさ」

「・・・だとしても、姫様と合流した後も、障害物で出会ったら、同じように殺されちゃいません?少なくともぼくは」

「殺されるだろうな。言い忘れていたが、君か対象の姫のどちらが殺されても、リスタートとなるので注意するように」

「うーん。そしたら、すべての障害物兵士達を先に把握しておいた方が良さそうな・・・」

「進め方については、君に一任するよ」


 死んだことで減速時間も終わっていたし、最初の赤と緑の兵士達の衝突が始まる位の間を置いてから、大通りをさくっと横切り、今度は加速せずに、さっきの道を進んでいきました。

 そのままオレンジ襷の二人組が行き過ぎてくれないかなーと思ってたんですが、自分のいる方に折れ曲がってきたので、脇道の窪みに体を張り付かせていると、今後こそ通り過ぎていってくれました。


 やれやれと、元の道へと戻り、北の方で点滅している、目的のお姫様の方へと向かっていきます。所々の曲がり角では注意してた事もあって、何組かの兵士達をやり過ごしました。赤鎧のもいたけど、灰色に金色の線が入ったのとか、茶色のマントを羽織ってるのとかも新たに見かけました。


 特に茶色のマント連中が、

「見つけたか?」

「いやまだだ」

「急げ!他の連中に見つけられる前に確保するんだ!」

 とか言ってたのが気になりました。


 時速1kmというゆっくり歩きにも慣れ、慎重に進んだおかげか、走行距離は500mを経過。マップ上でも、南方から中央付近へと到達。一番厄介ごとが集まってそうな中央広場付近は迂回しました。悲鳴混じりの喧噪が聞こえてきてたし、迂回しても何組もの兵士に見つかりそうにもなりましたけど。


 そうしていよいよ王都の北側を、より慎重に進み始めたんですけど、茶色のマント組を一番頻繁に見かけました。

 さらに進んで、もう少しで最初のレベルアップが見えてくるかなー、と思った頃に、目的の姫様のアイコンがマップ上を移動し始めました。


「どゆこと?」

 とぼやきながらも、進行方向に先回りするような方角に向かおうとしても、行き当たりばったりな感じに何度も曲がりくねるので、行き先の予想がつきませんでした。


「見つかって追われているのだろうな」


 そういう事かと納得しつつ、お姫様との合流を急ぐために足を早めました。加速はまだ使わないで温存。

 途中から、お姫様は北端から南西の方へと向かったので、迎えに行くように進んだけど、互いの距離が100mほどで、お姫様の動きは止まってしまいました。


 残り50m。茶色マントの兵士達の集団が見えて、その中心の大柄な兵士の肩に担がれた少女の姿が見えました。顔とかは見えなかったけど、マップ上の位置関係からは、彼女が目的のお姫様に違いありません。


 助けに出ようとする前に、改めて我が身を振り返りました。

 武器、ありません。

 魔法、ありません。

 スキルは、ユニークスキルのみ。

 分かってたけど、ランニングというユニークスキルしか与えられてないのだから、それで何とかするしかない、ですよね。

 決心がついた後は、姫様を担いで移動する集団に堂々と近づいていきました。


 残り30mを切るくらいで、集団の外側にいた兵士に見つかって、呼び止められました。


「止まれ!それ以上近づけば切るぞ!」

「えー、それは痛いからイヤですね」

 とは言いつつ足は止めず、むしろ加速しました。

 ノロノロ歩きが、ゆっくり歩きくらいの速度の変化だとしても、まさか警告が無視されるとは思っていなかったらしくて、振り上げられた剣が下ろされる前には懐にたどり着いて、その体を圧すように鎧に触れて進み続けました。


 体格で言えば、大人と子供。

 自分はまだ15歳くらいの体格だけどひょろひょろと言ってよいくらいで、筋肉なんてぜんぜんついていません。対する兵士さんは、普通に鍛えてそうな体格でした。

 まさか圧されてそのまま押し切られるなんて予想してない驚きの表情のまま、背後の集団の方へと押し込まれていきました。


「お、おい、止まれ!」

「何奴だ!?」

「かまわん、切れっ!」

 みたいな怒鳴り声が飛び交ったけど、自分が圧してる兵士さんの体が別の兵士の体のどこかに触れると、同じ方向に圧されて進み始めて、まるでドミノ倒しのような状態になっていきました。


 そう。

 逃げ続けるのは出来たとして、誰かを連れて逃げる、それも周囲から狙われる誰かを助けないといけない、今みたいな状況をどうしたら良いか考えてて、偶然見つけた手段がこれでした。


 家みたいな固定された建造物は移動できないけど、それ以外の道ばたの荷物とか死体とか、それが生きてる兵士でも、触れてさえいれば、自分の進む方向に強制的に連行できました。確かめる為に何度も追加で殺されましたけど。


 そんな訳で。30人くらいの兵士の集団に、最初に圧した兵士と、他に呆然としてた兵士の腕も掴んで引きずり(進み続けてる限り重さは感じません)、さらに多くの兵士も巻き込みながら、お姫様を担いでる中央の兵士やその背後の兵士まで押し倒したところで、背後に周りこまれた兵士に切りつけられました。


 担がれてたお姫様と目が合って、あ、黒髪で黒目かな?、と思った時には、他の兵士達にも滅多刺しにされて、スタート地点に戻されていたけど、レベルは2に上がっていました。


総走行距離:1013m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る