ランニング3:よーい、どん!
とりあえず、今いるどこかの裏路地から、ちょっとした大通りぽいところに出てみようと考えました。
王都のマップは、全体がひし形ぽい地形で、縦横が1.5kmくらいかな。自分が南の端の方にいて、お姫様は北の端の方。
時速1kmなら、まっすぐ向かえば一時間半かもなんですけど、
「うわっ」
また足が絡んでしまって、転んでしまいました。
10メートルを進むまでに、もう三回目。
「焦る必要は無いから、落ち着いていこう」
ありがとうございますと心の中で神様にお礼を言って立ち上がりました。
体はどこも痛くないし、怪我もしていない。異常が無いのなら、慣れの問題だと、リハビリのつもりで、壁に手をついてたら、転ばずに進めました。
足の平で地面を踏み締める。足首に体重がかかる。その足を軸に体重をかけて、逆の足を踏み出す。
健康な人なら意識することなく死ぬまで繰り返すだろう、なんて事のない筈の動作が難しくて。
ても、嬉しくて。
難病にかかる前の体の感覚を、一歩、また一歩と取り戻していきました。
壁に手をつきながら、一歩ずつ歩んでたら、大通りがだんだんと近づいてきました。
距離にして20メートルくらい?
ようやく表通りに出られたと思ったら、ちょうどそこに歩いてきてた、赤い鎧を身につけた一団にばったりと出くわしてしまいました。
みんな強面の男性ばかりで、怒鳴るような大声で質問されました。
「お前、ここの住人か?」
「え、えーと、はい?」
「あやしい奴め、顔を良く見せてみろ!」
がつっと髪を掴まれ、取り囲まれてしまいました。
「こいつ、黒髪黒目だぞ!」
「忌み子か?」
「だとしても、今は関わってる暇は無いぞ」
そんな口論してる最中に、赤鎧の連中の後方から緑鎧の連中がやってきて大声を上げました。
「いたぞ、カローザ王国の連中だ!」
「ちっ、マーシナ王国の奴らだ」
「イドル姫を返せ!」
双方の間に戦いが始まったと思ったら、ぼくの髪を掴んでた赤い鎧の兵士に、戦いに加わるついでのように首を剣で切られてしまいました。
ひんやりとした鉄の感触が首筋を撫でて痛みを感じたと思ったら、ブワッと血が噴き出て・・・。
っ!?
・・・・・?
えええええっ!?
ふと、意識を取り戻したと思ったら、元のスタート地点に戻っていました。
どうやら、初めての死亡を体験してしまったようです。元の世界のを含めれば2度目ですが、死ぬのと殺されるのって、全く違う体験なんだな、と学んでしましました。
「首、つながってる・・・」
首をさすりながらぼやくと、神様が答えてくれました。
「それはそうだよ。リスタート時に、体の異常などは元通りに戻る。それより、マップを見てみるといい」
言われた通り、視野上に展開される半透明な地図に意識を集中すると、さっき通った通路ははっきりとした輪郭で表示されているだけでなく、赤と緑の兵士の集団の位置まで色分けされたアイコンで表示されていました。
「なるほど、こういうのに出くわさないように慎重に進んで、マップ上の障害物(?)を割り出していけってことですか」
「そういう事だね」
「・・・ちなみに、こういう神様の声って、他の誰かに聞かれたりは?」
「しないよ。君がそう望み、私も許可した特別な存在でない限り」
「えーと、そしたら、あとは、そうだ。ここじゃ黒髪黒目って、珍しいんですか?」
「珍しいね。ほぼ存在しない」
「忌み子っていうのは?」
「そちらの世界でもあったんじゃないかな?珍し過ぎる存在は、排斥されるか珍重されるかどちらかだ」
とりあえず、さっきの通路の方へと踏み出しながら、もう一つ聞いてみました。
「緑色の鎧の人達が言ってた姫様は、自分が探してるのと同じ人なんです?」
「いいや、違うよ」
「つまり、だいぶややこしい状況?」
「詳しくは、君が助け出す予定の姫様から聞くんだね」
さっき赤鎧の兵士達に見つかった通りの手前で止まって、壁に張り付いてたら、見つからずに済みました。数分も経たずに緑鎧の兵士達が彼らを追いかけていって、騒ぎが少し離れたところで起きてから移動したら、通りを安全に渡り切れました。
「まだ、50mくらいしか進んでないのか。まだまだ先は長いな」
大通りから離れて静かになっていったけど、細い路地のあちこちに、怪我人や死んだ兵士が転がってたりして、びくびくしながら進みました。
やっと移動距離が100メートルを越えた辺りで、神様が提案してきました。
「そろそろ歩くのも慣れてきただろう?」
「うん、まあ」
「辺りが落ち着いてる間に、加速も試しておくといい」
「レベル1の今なら、時速1kmじゃなくて、倍の時速2kmで歩けるんでしたっけ」
「1分間は。その後の1分間は、時速1kmではなく、上限が半分の500mに減速される」
辺りを見回してみて、特に物音も喧噪も聞こえてこなかったので、心の中で、加速、と唱えてみました。
「お、おおっ!?」
時速2kmなんて、とても早足なんて云えないだろうけど、それでも普通の人がゆっくり歩くくらいの速度にはなっていたので、ぼくはとても感動しました。
なものだから、1分が過ぎて体が重くなって、直前までの1/4の速度に落とされた途端、バランスを崩して転んでしまいました。
ちょうどその時、曲がり角から現れた二人組の兵士に見つかってしまいました。今度は、無地の鉄鎧に、オレンジ色の
「おい、お前は現地住民か?」
「いや、よく見ろ。黒髪黒目だぞ。顔立ちもここらの者達とは違う。どこぞの間者か?」
「いえ、違います!」
違うものははっきり違うと言わないと、さっきみたいに勘違いされたまま殺される!、と思ったので即座に否定しました。
「間者が間者だと答える訳も無いか」
「口調からはどこの訛りとも感じられんが。どこの出の者だ?」
「どこって、ええと、異世界?」
その二人組の兵士さん達は顔を互いに見合わせたと思ったら、腰の剣を抜いてばっさりと切りつけられてしまいました。
上半身を斜めにざっくりと切られ、血がどくどく溢れ出て、とっても痛い・・・、とか思ってる内に地面に倒れた直後には、再びスタート地点に戻されていました。
総走行距離:142m
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