第2話 愚者 【2024年9月7日 土曜日】
「おい! 本当にこっちであってんだろうな?」
「間違いないよ! ここは一本道だし! 山の
真っ暗な森中。時刻は二十二時を回ったところだ。
負けじと声量を絞り出すも、語尾に力が入らない。
二十代の男女ペア四人が赤のオープンカーに乗って低山を時速二十キロで登っている。
タイヤが枝葉や隆起した木の根を踏みつけ小刻みに左右に揺れる。
「スゴいね、近場でこんなスポットあったなんて知らなかった。メッチャ雰囲気出てて怖すぎ」
「本当にこんな低い山にアレがいるの?」
運転席の後ろに
「
「そんなの心霊スポットにもならないじゃない。たかが目当ては大きな木一本であって幽霊じゃないんでしょ?」
数々の心霊スポットをこの四人で巡っては夏の
今回はその一環で最近人気YouTuberのソレさんが話題に出したところ、すぐさまトレンド入りしたのが今回のスポットとなった経緯がある。
インフルエンサーの一声にはネット民を巻き込む大きな力があり、
闇バイトで同僚の
彼の本心はどこにあるのだろうか。
恐怖を克服した先の
それとも己の欲望を満たすための
「わっかんない。ただ運がいいのはこの辺まだ電波が届く範囲内だからさ、見る者聞く者色んな情報を残してくれるんだよ。ま、ありがたいのは山々なんだけど、うーわ、大分気味悪くなってきたなぁ……」
「なんだよ。ビビってんのか?
運転席の
目が合うと少し口角を吊り上げてから再び前面に視線を据え置く。
肋骨内部の
手元の落ちそうな灰色を慣れた手つきでトントンしてからバックミラーで
「お、お前に言われなくても分かってるよ。さっきから横ばかり見てよ、ちゃんと前見て運転しろよな」
「一本道だしさぁ、同じ景色だから飽きてんだよ。なんなら運転変わるか? 気ぃ
適当に返してから助手席に目線を
なんで、こんなビビりな
ホント不釣り合い。マジで腹立たしいわ。
ま、今回の肝試しイベントでマウント取ってちょっと口説き落とせば楽勝っしょ。
そんな
ギアをセカンドからサードに入れる。
彼は視界の左側からそれを感じ取っていた。
そして
「やっぱりマニュアル車ってカッコいいね。オートマとは全然違う」
「フッ――
「えっ、
「こんなのスピードに任せりゃ
ヴォン!!
エンジンの猛り声。
計器類の激しい右振れ。
ギアをサードからトップへ。
一気に加速していく。
わずか一秒で倍以上の速度へと爆速する
「これやばいって
「黙って見てろよ! このビビりがぁ!」
「キャアアアーッ!!!」
鼻先で笑いたくなるような立入禁止と描かれたA型看板。
左右へ勢いよく弾き飛ばす。
その後方に金網フェンス。
切れ目を狙っていく。
ガッシャアアアン!!!
激しい衝突音。
受ける鋭い振動と衝撃。
フロントグリルがドリルで
フェンス上方に
侵入者を
大きく形を崩したフェンスの金属片は局所的に働いた力の反動を受け、鈍い音を垂れ流しながら正気を失ったように
赤のスポーツカーはフロント部分を損傷したが、目立った破損はない。
ライトもボンネットも通常稼働している。
「なんだぁ? やわなバリケードだなぁ。普通にブチ破れたぞ」
「危ねぇだろ! 何かあったらどうすんだよ!」
「みんな、大丈夫か? ケガはないか?」
「もうやめて! 危険すぎるわよ。マジ迷惑!」
「すっごぉい! 映画のワンシーンみたい!」
「だろ!? この山のバリケードなんて楽勝だって」
対する後部座席の
若気の至りで躍起になるのはわかるが、度を過ぎていないだろうか。
ある意味、強引にでも高揚感を引き立て、受ける恐怖感を
そんな
「みんな、悪りぃな。あのバリケードの金網……五メートル以上あって、てっぺんには有刺鉄線もあったんだ。みんなで登るのキツイから強引に破ったんよ。説明不足でごめん」
重厚な有刺鉄線も含まれているため重機で破る方法もあるが、車での強行突破が
闇バイトで稼いだ軍資金を投入すればこの車の修理代など安いものだ。
最悪、同僚の倉田から前借して姿をくらませればいい。
「そうだったのか……てっきり
――コイツ、バカだな。少し反省の色を見せたらこのザマか。甘ぇんだよ。もう心理戦は始まってんだぜ?
闇夜に染まる四つの丸いテールランプが愚者の
それを尻目に見て
同調するように
古の
そこにはこう書かれていた。
『危険! 立ち入るべからず。
これより先、命の保証なし』
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