第4話 あと一人
「それでもブーレイは一夜に一人、街の人間を殺し続けた。そしてついに運命の夜がやってきたのじゃ――」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
高台から街の風景を見下ろすブーレイを、満月が不気味に照らし出す。
すでに29日目、最後の夜となっていた。
「あと一人、あと一人だよ……メルフィア……」
ブーレイはメルフィアの姿が
冷たい風が彼の
「満月の夜、今夜で全ては終わるんだ……」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
満月の光が教会の十字架を照らしていた。十字架の影は、まるでブーレイの墓標を刻むかのように長く伸びていた。
ブーレイは最期の
「……妙だな、やけに静か過ぎる……」
その静寂を、
「やはり貴様か、ブーレイ! メルフィアをさらったあげく、今度は人殺しか!」
気付くと騎馬隊の一団が広場を包囲していた。騎馬隊は手に手に
「逃げ場所はないぞ、騎士の恥さらしめ!
「くそっ!」
そう吐き捨てると、ブーレイは背を向けて駆け出した。
騎馬隊の隊長は、手を上げ高らかに号令を掛ける。
「
その声と同時に
騎馬隊はゆっくりとブーレイを包囲していく。もはやどこにも逃げ場所はなかった……。
「いいざまだな、ブーレイ。貴様のような殺人鬼には相応しい最期だ!」
ブーレイは虚空を見つめた。
――あと一人、あと一人で、彼女は助かるんだ……!
教会の十字架の影が、彼の墓標のように影を伸ばす。
もはやここまでか……、そう
教会に隠れていた人々の一人が、外の喧騒を聞きつけ教会の扉を開けてしまったのだ。
それは幼い少女だった――
「馬鹿な!?」
騎馬隊の隊長の顔が引きつり、周囲に一瞬の緊張が走る。
だがブーレイはその一瞬の隙を見逃さなかった。
最後の力を振りしぼり、教会の扉の前に駆け寄ると、少女の首をつかみ地面に押し倒したのだ。彼はメルフィアの姿を
――これで最後だ、これでメルフィアは生き返るんだ――彼は剣を振り下ろしながら雄叫びの声を上げた。
その時、ブーレイにだけ、懐かしい声が聞こえた。
「もうやめて、ブーレイ!」
ブーレイは振り下ろしかけた手を止めた。
「……その声は君なのか、メルフィア……」
騎馬隊が手に
まるで時が止まったように、静寂が辺りを包みこむ。
さらにメルフィアの声が、ブーレイにだけ聞こえてくる。
「もうやめて、これ以上罪を重ねないで……」
ブーレイは剣を見つめ答える。
「だが、それでは君は、君は助からない……」
ブーレイには
「どうしてかしら、今の私はずっとあなたがよく見えるの。私、死んでしまってもあなたを想い続ける、この想いが変わらなければいいって――そう想えるようになって……。
でも、あなたは……あなたは変わってしまった。私はこれ以上苦しむあなたを見たくない。罪のない人々を殺すあなたを――」
メルフィアの言葉は彼の心を揺り動かした。だが……、それでも彼は
「……でも、それでも俺は君を失うわけにはいかないんだ!」
彼はそう叫ぶと再び剣を振り上げた。
その時だった――
振り下ろそうとしたとき、メルフィアの姿を
「な、何故……!?」
今度は
「ごめんなさい、ブーレイ……。私にもっと勇気があれば、あなたを傷つけることもなかったのに……」
彼女の幻は光に溶けるように、消えようとしていく……。
「さようなら……」
それが彼女の最後の言葉だった。
「メルフィアァァァ!」
ブーレイは少女をつかんでいた手を離して、メルフィアの幻をつかもうと立ち上がり、手を伸ばして叫んでいた。
「今だ!」騎馬隊はその隙を見逃さず、一気にブーレイに駆け寄ろうとする。
虚空を見つめるブーレイは呟く。
「すまない、俺は全てを見失っていたよ……。だが君を愛する想いだけは変わらない……!」
彼は空に向かって叫んだ。
「地獄の魔女カーミラよ! よく見ているがいい!」
ブーレイは叫びながら剣を振り上げると、一気に剣を振り下ろした――
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