第3話 ファスナー

 私は個室のお客様ではなくて、主に結婚披露宴で使われるホール担当の仲居でした。

 結婚披露宴の来賓は、受付の準備が整うまでは、喫茶室で待っていて頂きます。


 ドリンクのサービスは普通にドリップコーヒー、紅茶、緑茶、オレンジジュースなどのソフトドリンクでしたけど、場所柄もあってか、緑茶を所望するお客様が多かったですね。

 ですけど、紅茶も緑茶もティーパック。

 アイスコーヒーやアイスティー、ソフトドリンクなどは業者用です。

 冷たいドリンクの賞味期限は三日です。

 賞味期限が切れたものはパントリーで自由に飲ませてもらったりしたのですが、さすがは業務用。

 ティーパックの緑茶よりも、ずっとおいしかったです。


 そして準備が整い、受付の時間になったら、来賓のお客様は会場へと案内されます。


 そのあとカップやグラスを下げて片付けるのはもちろんのこと、クッションのファスナー部分が上になっていると怒られました。働き出して四年目で、ベテランさんですけれどまだ大学生のお嬢さんに叱られる屈辱に日々耐えていましたよ。

 ファスナーは上下かみしもでいうところのしもにあたるというのが理由のようです。


 ちなみに座布団は表を上にしてしつらええます。

 座布団の中央にあるしめ糸の房がある方が表です。

 両面使えるように、しめ糸がない座布団や両面にしめ糸がある座布団を用いるお店もありますが、ここでは座布団にも片面だけにしめ糸がついていましたね。


 建物の二階は座敷になっていて、靴を脱いであがる畳の個室もあったため、座布団の置き方にも作法があると叱られました。知らんがな。私なんて庶民やし。料亭に行ったり家にお客様をお迎えする機会なんてないですし。

 でも、勉強にはなりました。

 ちなみに個室の座敷はお部屋ごとに下足箱がありました。


 料理屋で椅子にクッションが置かれていたり、座布団が敷かれていた際、上記の作法がなされているかをチェックするのも意地の悪い一興です。

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