第4話 料亭のお化粧事情
仲居として働き始めて、先輩からも支配人からも「ちょっとお化粧が薄いかな」「もっと口紅を赤くしたら?」と言われました。
私は、会社勤めしか経験がなかったものですから、料亭に転職した当初は「えっ?」と思いました。
会社では無駄に化粧がケバイと悪口を言われるOLはいても、薄いと叱られるOLはいませんでした。
登録文化財の数奇屋造りの古い家屋でしたので、照明も当然薄暗い。化粧が薄いと顔がぼけてしまいます。
しかしながら、今の化粧の何がダメで、どうすればいいのかが、わからない。
私は百貨店の化粧品売り場に行きました。
化粧のプロフェッショナルの販売員さんに事情を話し、私の顔にもTPOにも最適な化粧を教えて欲しいと頼みました。
目が大きくて目力がハンパない自覚がある私の場合、目元に凝ると宝塚歌劇団みたいになりかねない。
販売員さんは「お仕事柄、華やかさの中にもキリッとした印象も加えた方が、仕事がデキる女に見えますよ」ということで、アイシャドウはブラウン系のグラデーション。
アイラインはしっかり引きますが、マスカラは控えめ。
アイシャドウにはキラキララメを仕上げに乗せます。アイシャドウにラメなんてつけたのは初めてです。
目元の化粧は控えめにした分、リップは派手なローズ系。
こちらも上唇にグロスを乗せます。
どうやら着物に負けない華やぎは、キラキラと、しっとり艶感が決め手のようです。
私は販売員さんに奨められた化粧品一式を購入。
翌日、言われたままにお化粧をして出勤したら、仲居さん方に、どよめきが。私に何事が起きたのかと。
「やっと、お化粧してきたの?」
「あんた、今までスッピンだったじゃん」
とりあえず、この濃ゆいメイクは仲居さんや支配人から歓迎されました。ですが私、ちゃんと化粧してました! そこまで非常識じゃありません!
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