第2話 水蘭帝国

 藍彩王国の王都風雅の都を出た凛華達は中間地点である場所【暁華国】の王都まで馬を走らせ続けた。そしてその日の昼過ぎ頃に凛華達含む黎明隊は中間地点である暁華国ぎょうかこくの王都へと辿り着く。


「皆、出発してから休むことなくここまで来たから疲れているだろう。少し休憩をとろう」


 黎明隊隊長である影虎大和がそう声を掛ければ凛華達は大和を見て頷き返す。


「了解だ」

「了解です〜!隊長」

 

 朝霧正宗と久我恭介は大和にそう返事を返してから、馬の手綱を近くにあった気に結びつけてから、使われなくなった店の階段に座り、休息を取り始める。

 凛華はそんな二人を横目に見つめてから、自身の乗っていた馬の手綱を正宗と恭介達と同じように木に結びつけてから、馬を結びつけた木の近くにあった銀色の手すりに腰掛けた。

 手すりに腰を掛けた凛華は斜めに掛けていた鞄から水が入った水筒を取り出して口に含む。

 口に含んだ冷たい水が凛華の乾いた口の中を潤す。


「凛華、大丈夫か……?」


 そんな凛華に近寄り声を掛けてきたのは同じ出動メンバーの一人である天野蘭であった。


「はい、大丈夫です」

「そうか、それならいいんだが……」

「天野先輩、もし、今回の任務で前回と同じように私の身が危なくなったとしても、任務を遂行してくださいね」

「助けずにか?」

「はい、お願いしますね」


 凛華は天野蘭に真剣な眼差しを向けて軽く会釈してから、隊長である大和の元へと行ってしまう。

 天野蘭はそんな凛華の後ろ姿を見つめながら、ぽつりと呟く。


「悪いが私は仲間思いなんだ。そんな簡単に仲間を切り捨てることなんて出来ないさ」


✴︎


 1時間の休憩を取り終えた凛華達は再び目的地である水蘭帝国の帝都【薄明】を目指して歩み始める。

 そんな凛華達が水蘭帝国と暁華国の間にある森へと入ったのはその日の夕方頃だった。

 茜色に染まる空が次第に暗くなり始めた頃、隊長である大和の命令によって、凛華達は馬から降りて、森で野宿する為の準備に取り掛かる為動き始める。


「準備って言っても火を起こして、持参した缶詰とかおにぎりをあっためるだけだけどな」

「まあ、そうだけどね〜、でもさ、恭介、なんかこういうのって楽しくない〜?」

「は? あっためるのがか? 全く楽しくないが?」

「あ〜、いやあっためるのは楽しくないよ〜」


 あまり会話が噛み合ってない正宗と恭介の会話を側で聞き流しながら、凛華はゆらゆらと揺れる焚き火をぼんやりと見つめていた。


✴︎


 その日の夜、凛華は夢を見た。

 幼い頃、化け物に襲われそうになった時の夢だ。目の前で人々が食い殺される恐ろしい光景に凛華は恐怖に身体が固まる。

 はぁ、はぁ、はぁ、と過呼吸になりつつある凛華であったが、『大丈夫だよ』と暖かい温もりと声を感じて、目の前に広がる恐ろしい光景は消えていく。


「大丈夫だよ、凛華。大丈夫だ」


 天野蘭は隣で眠る凛華のうなされている声で目を覚まし、身体を起こして凛華の頭を優しく撫でていた。

 同じく凛華がうなされていることに気付いた恭介も身体を起こして蘭に声を掛ける。


「凛華、大丈夫そうか?」

「ええ、呼吸も落ち着いてきたから大丈夫だと思うわ」

「そうか、よかった……」

「やっぱりまだ悪夢を見ているのね」


✴︎


 次の日の朝。

 凛華達は出発して再び水蘭帝国へと続く森の中を歩み始めた。

 凛華は馬に乗りながら、左隣を歩く隊長である大和に声を掛ける。


「隊長、もう少しで着きますね」

「ああ、そうだな。凛華、恐怖心は時に弱さにもなる。気を引き締めろよ」

「はい、了解です」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る