第1話 新兵(ベイビィ)③
「ええ?
僕は正直困惑した。今まで「任務」――Bot撃破のことで頭がいっぱいだったから。
「そりゃあ、ウチがこの戦闘データ、リアタイで送信してるからだゼ☆ 通信アプリでね」
「よくこの距離で送信できたね」
「今さ、クルーザーのリスクオフで戦艦が進出して来てて。いやあ、みんな心配してたんだよね。Bot3体。暖斗くんが『排除できない』となると、この先の旅が難しくなるし、やっぱDMT戦闘は危険がともなうじゃん?」
「‥‥『パイロット枠』で選ばれたのは僕だけ、16人中男子は僕だけ‥‥いいよ、こういう荒事は僕がやるから、あんまり気にしないでって言っといて」
麻妃は、大げさに声をあげる。
「うお! 聞いた? 聞きました今のセリフ? 皆さん。どうですか。ウチの幼馴染みは男気があるでしょう?」
ちょっとディスられてる気が?
「ってちょっと待った! ‥‥僕の音声まで聞こえてんの? ‥‥そっちに」
「そだよ? ‥‥うんうんみんな感謝してるって。『どうかご無事で帰ってきてね』って。あ、音声だけじゃなくって映像も送ってるから。ウチの
「な‥‥!? 早く言ってよ」
僕は動揺した。今まで初陣に上手く集中できていたつもりだけど、15人の女子に注視されていたとすると、やっぱり気恥ずかしいよ。だいたい僕は、注目されて圧がかかるとしくじるタイプだ。
「暖斗くん!」 「うおっと!」
ビームに反応してギリ躱した。
もう戦闘は終わりかと思ったけど、生き残りのBotが砲撃をしかけてきた。さっき岩壁に叩きつけてやった2機目が、復活してるよ。
「シールドダメージ微小。暖斗くん。
「よっし! うおお! おぉぉ‥‥」
麻妃の声と同時に、回転槍を構えて突撃した――――んだけど!?
Botに避けられてしまった。ヒラリ、とかなり華麗に‥‥。
サリッサの三角錐の大きな刃部が、虚しく空を泳いでいく。
うっわ。やっちまった。なんか‥‥めっちゃ恥ずかしい!
とりあえず
「‥‥暖斗くん? 今『うおおお~~!!』って雄叫びあげようとしてためらったでしょ」
「な、なんだよそれ。お、俺、雄叫びなんかあげねーし‥‥」
「いや、さっきのアサルトで言ってたじゃん普通に。‥‥あと一人称が『俺』になってるゼ。そんなに女子の目線を意識しなくていいって」
「べ、別に、してね~し。きょ、興味ね~し。っていうか、戦闘中に何言って‥‥」
「あっ来た!」
先程のBotが、距離をつめながらビーム射撃をしてきた。僕は盾でそれを防ぎつつ、敵の懐に飛び込んで長槍を繰り出す。雑な突槍が何度か虚しく空を切った。
あ、当たらない、って焦ったけど、かすめる刃部の回転が徐々にBotの装甲を削っていって、敵の反撃は止まっていった。
ガギン!!
僕の繰り出した最後の一撃が、Botの急所であるスリットの溝をとらえた。よっし!
そのまま地面に押し付けて回転を叩きこむ。
装甲が研削される白煙の後、金属同士がぶつかる甲高い金斬り音、大量の火花とともに、Botは爆発四散した。
僕は撃破を喜びつつも、心中複雑だったよ。思わず独り言。
「思ったより手間取ってしまった‥‥。まだ
‥‥‥‥あ、この発言も聞かれてるんだった。‥‥‥‥女子みんなに。
「やったね。暖斗くん。おつかれさま」
麻妃は、僕にそう声をかけてきたけど、同時に、母艦のIT解析部門にも呼びかけてた。
「どう? 解析できてる?」
「ああ、暫定値だけど出たよ。結論から言うと、咲見さんはやはりギフテッドで、『アレ』が発症する率は100パーセント。あれだけDMT本体に被弾したのに、エネルギー残量が多すぎる」
麻妃の耳につけたインカムに、すぐさま返答の声。声の主は幼いけど、利発そうな口ぶりだった。ん? ギフテッド?
それを確認した戦艦の艦長が、号令を発した。
「わかった。ありがとう。それじゃあ出番が確定ね? 医務室の
「‥‥‥‥はい」
僕のインカムに、
***
「あ~~良かった。何とかBotを撃破できたよ~」
戦艦「ウルツサハリ=オッチギン」へ帰艦する、DMTの操縦席の僕は、安堵の気持ちでいっぱいだったよ。
なにせ初任務、初戦闘だったからね。
「途中、グダったけどな」
「それは
「でもまあ、良かったよ。Botが排除できるんなら、このエリアの掃空ができる。そうすれば先へ進める。このガンジス島にある、わが軍の戦略物資集積基地、ポイント=カタフニアに」
ガンジス島――この島のことだよ。直径15キロくらいの、鉄板の上にお好み焼きが乗ってるような形の、かなり大きい島。本土からはけっこう離れている。そして。
ポイント=カタフニア――僕らが、そこに行くように、と指示された場所だ。基地があって、きっとプロの正規軍人さんがいっぱいいるはず。
そこまで行けば、安全だろう、と。
だけど。
そこに行くまでの航行は、この戦艦に乗艦する中学2年生16人、本当にこれだけのメンバーで行わなければならない。
そして、男子は僕ひとり。
僕らは理由があって、「男子ひとり、女子15人。全員中学2年生」で、ガチの戦艦に乗って旅を始めた。その中でパイロットができるのは「その枠」で選ばれた僕だけなんだよ。今のところ。
「この戦艦を、みんなを、守らなきゃ。この僕が。‥‥‥‥なんとしても!!」
本日2回目。
インカムに声が拾われないように、こっそりと心に決意する。
程なくして、僕のDMTは無事着艦したんだけど。
この後、僕のささやかな決意が。
本当にささやかなこの決意が、成層圏にぶっ飛ぶくらいの事態が起こる。
僕の身体に‥‥‥‥異変が起きたんだ。
それはムチャクチャ唐突で、訳もわからない事態だった。
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ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、女医見習いの君と、空飛ぶ戦艦の医務室~ いぬぅと※本作読んで作者への性癖認定禁止 @inu-to
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