第31話『あの日見た虹 ファイナルライブ』

 【ファイナルライブ】

 私たちの卒業のニュースは多くのネットニュースやメディアで取り上げられて、12000枚のチケットは即完した。

 11月4日はうろこ雲が浮かぶ秋晴れの良い天気だったけど、夕方から天気が崩れるという予報が出ていた。

 いよいよ泣いても……いやみんなで『泣かない』って決めたから、泣かずに笑って終えるライブが始まる。

 いつもの円陣。

「今日は完全燃焼、七色が真っ白になるくらい燃やしていこう!ニジドリ行くよ!」

『おーーー!』

『わああああああああ』

 大歓声の中、一人ずつポップアップで登場。私の番、台に乗った。

「行きます、はい!」

 ジャンプ。わっ!スゴい数のキンブレ。1階から3階まで7色。今まで観た景色が7色の平原だとしたら、今日は7色の宇宙空間にいるみたい。

≪さあ 走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫

『ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!あああああまだいかない!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!あああああまだまだいかない!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!パンパパパンパンさあいくぞ!タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!』

≪こんなに遠くへ来てしまった 隣にいつも君の姿≫ 『ユキちゃーーーむ!』

スゴい!12000人の割れんばかりのコール。

≪モノクロの景色が君となら 虹色に変わるそんな魔法≫

『リナチーーー!』

『オー!パンパン!オー!パンパン!オー!パンパン!オー!パンパン!……』

≪昨日までの風景はきらめく思い出 今日から始まる新しい未来 羽ばたけ≫

「みんな歌ってーー!」

≪Get the journy ready 一歩歩く Show us the way きっと見える≫

「みんな拳を上げろーー!」

≪高い(高い)高い(高い) あの空を目指してー さあ 走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫

『ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!パンパパパンパンさあいくぞ!虎!火!人造!繊維!海女!振動!化繊!』

≪どんなにくじけてしまっても 私のそばに君がいる≫

『アオイーーー!』

≪高い山深い谷どこまでも 飛び越えてゆけるそんな勇気≫

『ユリポーーーン!』

≪過去からの呼び声に耳を貸さないで 明日へ奏でる未来の音楽 進もう≫

『みんないっしょにーー!』

≪Take us higher もっと高く Fly up with us 連れて行って 遠い(遠い)遠い(遠い) 見たことない国へ さあ 走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫

 落ちサビ!

≪虹の向こうに何があるか分からない だからワクワク止まらない期待 輝け≫

「もっともっとぉーー!」

≪Get the journy ready 一歩歩く Show us the way きっと見える 高い(高い)高い(高い) あの空を目指して Take us higher もっと高く Fly up with us 連れて行って 遠い(遠い)遠い(遠い) 見たことない国へ さあ 走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫

『ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!ウーハイ!パンパンパパパンパン!さあいくぞ!チャペ!アペ!カラ!キナ!ララ!トゥスケ!ウィスペ!ケスィ!スィスパー!』


≪気づかれないようにいつも見つめてた 眼が合うと視線そらしてた 夕陽の中微笑む君が眩しくて 心が震えるこれが恋のサイン あなただけには隠しておきたかった≫

 私以外の6人がくちびるに指を当てて、シーッてやっている。

≪シークレットラブ 伝えたい秘密の気持ち 本当は本当は あなたが好き≫

 いくよ!

「せーの!言いたいことがあるんだよ!やっぱり私はあなただけ!好き好き大好きやっぱ好き♡ やっと見つけた王子様!私が生まれてきた理由!それはあなたに出会うため!私といっしよに人生歩もう!世界で一番愛してる!」

 逆ガチ恋口上。今日は今までみんなが驚かせて喜ばせてくれた分を、全部全部返してあげる。まだまだ始まったばかりなんだから!


『夢のレール』、『レレレレインボー』、『ドルビーサラウンド』、『ホワッツアップトウキョウ』、『The遊路美糸』、『ファイナルアタック-とどめの一撃』、『シークレットラブ』、『虹の彼方へ』、『ソウルスクリーム』、『Say Hello』。「オンリーミー」、『ドリームプラネット』、『真夏のアルタイル』、『HYPER BOUNDARY』、『桜花舞い散る月の夜に withプリズム』。「ミオタン、アオイ様、カレン、リナチーのコント卒業式」

 全部全力でやり切った。私たちの持ち曲はあと『一曲』


「ありがとうーー!」

「ありかとぉーーー!」

 一度退場。名前が書いてあるペットボトルを手に取って各自水分補給。

『アンコール!アンコール!……』

 これが最後の円陣。

「よしラスト行くよ!」

「オーーーー!」

『わああああああああ』

 登場と同時に大歓声。

「アンコールありがとうございます。あれ?歌う曲もうなくない?って方、心配ご無用。では聴いてください。『ダイバーシティオブセブン』スペシャルバージョンで『ブドーカンオブセブン』」

「タオルを持ってる人は出してー!」

≪さあ来たぞ夢のステージ そうこれが見たかった景色 今からが私たちの素敵な舞台 虹が夢が愛が恋が あざやかに光り出す 拳高く上げて みんなで振り回せ サーンクス サーンクス みんな大感謝 イエーイ ブドーカン ヤルゾー ブドーカン≫

「スーバー!」「ハイパー!」「ウルトラ!」「ミラクル!」「スペシャル!「ダイナマイト!」「デラックス!」

≪サーンークース!!イエーイ ブドーカン スゴーイ ブドーカン まだまだ(まだまだ?)まだまだ(まだまだ!)私たちは止まらない≫

≪そう あこがれが切符代わりに 私たちを運んでくれる さあここが私たちの来たかったところ 今が声が空が海がきらめいて包み込む タオル振り回して踊りまくれ サーンクス サーンクス ホント超感謝 イエーイ ブドーカン ユメノー ブドーカン≫

「タイガー!」「ファイヤー!」「サイバー!」「ファイバー!」「ダイバー!」「バイバー!」「ジャージャー!」

≪ファイボワイパー イエーイ ブドーカン ヤルゾー ブドーカン どこまで(どこまで?)これから(これから!)私たちの大冒険≫

≪イエーイ ブドーカン ホンキー ブドーカン≫

「レッド!」「オレンジ!」「イエロー!」「グリーン!」「ライトブルー!」「ブルー!」「パープル!」

≪ニージーイーロー イエーイ ブドーカン ステキー ブドーカン≫

≪まだまだ(まだまだ?)まだまだ(まだまだ!)私たちは止まらない≫

≪どこまで(どこまで?)ここから(ここから!)私たちの大冒険≫

≪ホントに(ホントに!)ホントに(ホントに!)私たちからあーりーがーとーうーー≫


 私たちは一列に整列した。

「はい。赤色担当中川華蓮です。私はたくさんの夢を叶えることができました。モデル、グラビア、作詞、作曲、俳優、バンド。そしてアイドル。ちょうど七つです。みなさんのおかげです。本当に感謝しています。みなさんのことが大好きです。残っている最後の夢は大大大好きな人のお嫁さんです。卒業後はバンド活動と俳優を続けます。本当にありがとうございました」


「はい。橙色担当安達杏花です。私は小さな頃からアイドルになるのが夢でした。でもある時、家の事情でアイドルを辞めようの思ったことがありました。その時に言われたんです。私の夢は同時にファンみんなの夢でもあるんだ、私一人の風船じゃなくてみんなの風船なんだって。私一人の事情で割っちゃだめなんだって。みんなが膨らませてくれたから、たくさんのアイドルが目指しても来られなかったここに来ることができました。卒業後は普通の杏花ちゃんに戻ります。本当にありがとうございました」


「はい。黄色担当折原有希です。私はアイドルをやっていて気づいたことがあります。アイドルは、みんなに愛されてみんなを愛するお姫様なんです。昔マリー・アントワネットというお姫様がいました。『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』と言ったぜいたくでわがままなお姫様ぢと言われています。でも本当は違うんです。あの頃パンはすごく高くて、お菓子の方が安かったんです。『パンを買うお金がない人は、お菓子を食べてなんとかしのいでください』という愛のメッセージだったんです。どのお姫様も愛し愛されているんです。卒業後もアイドルを続けめす。もう少しだけみんなのお姫様でいさせてください。本当にありがとうございました」


「はい。緑色担当飯田莉奈です。私の夢ひ小さな頃から否定され続けました。『そんなもので生活していけるわけがない』って。私は私の趣味を認めてほしかった。私の夢を、私自身を認めてほしかったんです。みなさんのおかげで、夢を全部叶えることができました。もしみなさんの中で『夢なんかどうせ叶わない』と思っている人がいたら、どうか諦めないでください。口からプラスと書いて『叶』になります。叶わないではなく、叶うと口にしてみてください。そうすればきっと叶います。卒業後もバンドとゲーマーを続けていきます。本当にありがとうございました」


「はい。水色担当天野澪です。歌もダンスもそれほどでもなかった私がアイドルを続けてこられたのは、私のことを推してくれた人のおかげです。私、ちゃんと好きを返せたでしょうか?私はアイドルに必要なものは鏡だと思っています。好きに対して好きを、大好きに対して大好きを。たくさんの好きを返せる大きな鏡を持っている子が輝けるんです。どうかみなさんも好きって言ってくれた人に全力で好きを返してあげてください。卒業後も、文章を書く仕事やラジオを続けて、本を出版できたらいいな、と思っています。本当にありがとうございました」


「はい。青色担当寺嶋あおいです。私は、アイドルになると言う夢を叶えられなかった子の代わりに、その夢を叶えようと思ってアイドルになりました。いつからか、その子の夢が私の夢になって、二人の夢になって、みんながその夢を後押ししてくれていました。私は正直いうと、恋とか愛とかそういうのはよく分かりません。でも分かりたいとは思っています。卒業後もバンド活動を続けます。いつか素敵な恋の歌を作りたいと思っています。本当にありがとうございました」


「はい。紫色担当香月ゆりです。私は、知っている人もいると思いますが、三つ子の三姉妹の長女です。私は三人の中で私だけを見てくれる人が欲しかったんです。たくさんの女の子の中から私を選んでほしかったんです。私のファンでいてくれた人、私を見つけてくれてありがとうございます。卒業後は実家に帰って家業を継ごうと思っています。私だけを見てくれて、いっしょに家のお仕事をしてくれる素敵な人を、今度は私かわ見つけ出したいと思います。本当にありがとうございました」


『今まで私たちを応援してくれた全てのみなさんへ』

『本当に。本当に。ありがとうございました!』

 全員でお辞儀。

 ……………………。

 ……………………。

 長い、長いお辞儀。

 ニックネームを呼ぶたくさんの声が響く中、私たちは静止したまま。

 ……………………。

 ……………………。

「はい。カット!」

 ミオタンの合図でメンバー全員が頭を上げる。

「配信や中継は終了しました。ここからは未公開です」

「ここから先は、卒業ライブのDVDやブルーレイにも収録されません」

「これから歌う曲はCDにもデジタル音源にもなりません。配信もされません」

「今日ここにいる私たちと12000人のみなさんの記憶にだけ残る曲です」

「この日この時この場所で歌うために作られた、たった一度だけ歌われる曲です」

「そんな曲があってもいいと思います。私たちが歩んできて確かにここに立ったという証の曲」

「虹はいつか消えますが、記憶には残ります。どうか語り継いでください。あの日見たよと

「聴いてください。ファイナルナンバー『虹色ドリーミング』」


≪ドリーミング 七つの夢が一つになったから デコボコだって乗り越えられたの≫

≪ドリーミング みんなの夢が重なり合った時 それは星より大きくふくらむ≫

≪どんな夢でも君のおかげで 狙い撃てた魔法 ドリーミング≫

≪夢は虹色 どんな色にだって 光り彩りあざやかに輝く≫

≪今日の景色をどうか思い出して 君がこれから歩く道しるべ≫

≪迷い探し歩き疲れたら 見上げてごらん 虹色ドリーミング≫


≪ドリーミング 君の光が私を導く 鏡に映る銀河の恋人≫

≪ドリーミング 恋にさまよう魂が叫んで 君の声と共鳴していく≫

≪見つけ出してねたくさんの中 私のことを奇跡 ドリーミング≫

≪恋も虹色届いてこの想い 恋し憧れ抱きしめあいたい≫

≪今日の気持ちを絶対忘れない 君と再び出会えるその日まで≫

≪涙流し恋に疲れたら 思い描いて 虹色ドリーミング≫


≪君の愛が私を照らして 輝いていた ウィーワードリーミング≫

≪愛は虹色 愛し愛されて 光放って高く羽ばたく≫

≪今日も明日もこれからだって 君と私はずっ。といっしょよ≫

≪愛の心を見失ったら 見つめ直して 虹色ドリーミング≫

≪一つの虹が七つになっても 光り輝く 虹色ドリーミング≫


 ステージからはけた瞬間に杏花ちゃんが泣き出した。

 それが伝染するように、全員の心の水門が決壊した。

「やだよぉ。まだアリーナもドームも球場もホールも、出てないとこいっぱいあるじゃん。紅白だって出たいよぉ」

「…………」

「……そうだね」

「…………」

「……虹はいつか消えちゃうの」

『そう。虹は期間限定なの。だから綺麗だし貴重な体験なの』

「この七人の道が一つになった時、たまたま虹みたいに見えたんだよ。この七人だからそう見えた」 「七人とドリーマーが集まったからここまで来られたんだよね」

「そんなの分かってるよぉ、この七人じゃなきゃダメだったんだって」

「アイドルでいえばやっぱり神7?」

「えー、私あそこまで輝いてないと思う」

「あと、ウルトラセブン?」

「ミオタン、ウルトラセブンは一人だよ」

「えー、誰それ」

 みんないつの間にか笑顔になっている。

「もういっしょのステージには立たないかも知れないけど。私たちいつまでも友達だよね?」

「親友じゃない?」

「いや、永遠の仲間」

「結婚式絶対呼んでね。誰が一番早いかな?」

「そりゃ年齢的にいってミオタンじゃない?お相手もいるみたいだし」

「ええ?バレてたの?」

「そりゃ物販であれだけイチャイチャしてたら誰だって分かるよ」

「毎年チョコケーキでお祝いする七夕もあったしねぇ」

「あたしは一番最後かな。子供は欲しいけど」

「子供が産まれたらママ友になろうね」

 コンコン……。

「そろそろ撤収するぞー」

「はーい」

「ねえ。七人で写真撮ろうよ」

「私のが一番画質がいいし、盛れるから私ので撮ろう。はーい撮るよー。えっ?そのポーズでいいの?いくよ。はい、リナチー」

 武道館を出ると道路が濡れていた。雨は止んだみたい。

 夜の冷たい空気が「もうすぐ冬が来ますよ」と教えてくれる。

 九段下の駅で東西線組と都営新宿線組に別れた。

 最寄り駅で一人になってふと思った。これからはこの道を一人で歩かなきゃならないんだなって。

 寒い。明日から少し厚着をしよう。

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