第20話『毒薬とハイパーダイナマイトありがとう4』

 【ココD@リナチーズ】

 最初に見た時、彼女は物販で手持ち無沙汰な感じで立っていました。次に見た時は、物販中に他のグループのオタクにフライヤーを配っていました。

 リナチーのチェキ列に並んだのは三回目からです。まだ方言が抜け切っていなくて

「上京して1人でがんばっているんだな、応援してあげたいな」と思いました。

 アニメ好きだっていうので、共通の話題を持つために彼女がおすすめするアニメは全部観ました。

 ある時

『今月、私目当てのお客さんが60人行かなかったら、全身タイツ姿を公開します』

ってツイートをしていました。

 もう必死にみんなで全通したり、一度入場してから会場から出て、また入場したりもして、なんとか無事に達成できましたけどね。全身タイツ姿を見たいのか、誰かに見られたくないのか、よく分かりませんでした。

 その頃からアイドル以外の活動も力を入れられるようになって、彼女の表情も明るくなってきました。

 デッドバイデイライトだったかな。それの実況配信でチャンネル登録者数が増えてきて、コスプレで配信するようになりました。

 それが今やファイクエ7リメイクの公式アンバサダーや超会議に参加するまでになって、うちの局……あっいや、周りにも俄然すすめやすくなりました。e-sportsのチームにも入っていますし、ゲーミングチェアの広告もやっていますし、今やゲーム、配信、そしてアニメ好きのアイドルで、何足わらじを履くんでしょうね。

 次のライブはいよいよリナチー生誕祭です。有給取らせてもらうの大変でしたが、僕はまだ下っ端なのでなんとかなりました。盛り上げますよ。

『ナマステスネークを練習してきてください』

ってツイートしていたので、あの曲ですね。LiSAは僕的には『OATH SIGN』の方が好きなんですけど、まああの曲の方が盛り上がるのでいいです。

 プレゼントもリナチーズ全員でアレを贈ります。


 【飯田莉奈(緑色担当)】

 本当、何度地元に帰ろうかって思って、母親に「それ見たことか」って言われるのが嫌で思いとどまったか分からない。

 私がここまで続けて来られたのは全部ミオタンのおかげ。ミオタンも上京組だから気持ちを分かってくれたのかも。

 ミオタンは本当に心が強いっていうか、折れないっていうか。

 リナチーちゃんねる開設当初は、いっしょにメントスコーラをやったり、渋谷でわらしべ長者企画をやったり、コスプレイベントにもいっしょに出て歌ってくれたりもした。「エヴァ練習してきたよ」っていうから聴かせてもらったら、「どのエヴァ聴いてきたの?」って感じだったけど。

 相談もよくのってもらった。ミオタンんちにお泊まりしたりして。結局私の方が先に起きて、ミオタンはいつまでも寝てるから、黙って帰ったり。

 最近はちょっとだけ(ホントにちょっとだけ)ウザかったりして(笑)LINEで済む用事や、用事がないときでも「今、ととのってる?」って電話してくるから。

 でも、アイドルもゲーマーも軌道にのれてホントに良かった。アニメも最近

「リナチーのおすすめはホント外れない。今期のおすすめは?」ってよく言われる。

 今日は私の生誕ワンマン。場所は白金高輪セリーヌ。みんな告知通りナマステスネークやってくれるかな。

 あと告知していな……あっとこれはまだ内緒。

 さあスタート。地下一階のライブ会場の飾り付けやフラスタも大好きな緑で感無量。

 ソロは新調した緑色のドレスを着ての『Rising Hope』。緑色の生誕Tシャツを着たリナチーズやカカシやイーグルがナマステスネークをキメてくれた。ココDは私のトップオタだから、最前ドセンで立ちナマステスネークだった。

「以上、私たち虹色ドリーミングでした、ありがとうございました」

 さて汗を拭いて。お化粧と髪の毛を直してっと。ココDの声が聞こえた。

『ありがとうございましたー!』

 嘘ー!えっ?アンコールは?えっ?

 マイクを持ってきて

「ちょっと待って。嘘でしょ?もう、やめてよー」

 シーーン

「えっ?あれ?待って。やだ。アンコール、アンコール、アンコール」

 なんで私、自分でアンコールしてるの?メンバーがみんな爆笑してる。その内に

『…………アンコール!アンコール!アンコール!……』って聞こえてきた。もうビックリさせないでよ。

 パチパチパチパチ……。

「アンコールありがとう、ってそういうサプライズいらないから。では……」

『ちょっと待ったー!』

 そうでしょ。でもリナチーズが誰もいない。

 インストゥルメンタルのハッピーバースデートゥユーが流れる中、会場後ろのドアが開いてリナチーズのみんなが入場、先頭はケーキ……あれ?参勤交代の大名行列のように、はたまたお相撲の千秋楽結びの一番みたいに、ダンボールをもった人の列が途切れない。これは一体何?

 ちょ、ダンボールは全部緑モンスター。一体何箱あるんだー!私はこれをどうやって家に持って帰ればいいんだー!でもありがとー! 記念写真の後、箱を片付けて

「それでは聴いてください、虹の彼方へ」

 見てろー。お返ししてやる。聞いて驚け。ビックリし過ぎてみんなひっくり返っても知らないからな。

≪モノクロの景色が君となら 虹色に変わるそんな魔法≫

『リナチーー!』

≪昨日までの風景はきらめく思い出 今日からはじまる新しい未来 羽ばたけ≫

……………………。

 無音と静寂。一時停止を押したみたいに静止してる私たち。

『お!』

『あれ?』

「12月……28日」

「ダイバーシティトウキョウ、ワンマンライブ決定ー!」

『おおおおおおお!』

≪Get the journey ready 一歩歩く Show us the way きっと見える 高い(高い)高い(高い) あの空を目指して≫

≪さあ走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫

「ダイバーシティのライブチケットは今日から発売です、ぜひお求め下さい」

「番号順入場だから、今日買った方がいいよぉ」

「あと今日からニジドリタオルも販売します、こちらです、こちらもよかったらぜひ」

 ニジドリタオルは白に金文字で虹色ドリーミングと書かれていて、四つ角に虹が描かれている。近々必要になるので、売り切れない内に買ってほしい。

『ニジドリ物販終わります、ありがとうございました』

 パチパチパチパチ……パン!パンパンパン!

 ミオタン「ニジドリはオワコン」

 私「くそぉアンチめ、くらえ!」

 ミオタン「ぐわ!」

 ユキ「バーブー」

 ミオタン&私&ユキ『アンチグアバーブーダ!』

 私「からのトリニダード・トバゴ!」

 アオイ様「いいかげんにしろ」

 私&カレン『レボリューション!』

 高梨社長「今後レボリューション禁止」

 私「え?ちきしょーーー!」

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