第19話『毒薬とハイパーダイナマイトありがとう3』

 【カレン】

 テレビ番組で、お客さんを入れてのスタジオライブをやることになった。

 収録後の楽屋でユキが言った。

「ねえ、放送日にみんなで集まって観ようよ」

「それいいね、タコパとかしてさ」

「わたし、餃子パーティーがいいなぁ」

「誰の家にする?」

 キョウカの家は8人家族、ユキはお父さんと2人暮らし、ユリポンは姉妹3人暮らし、アオイ様のとこは実家。一人暮らしはミオタンと私とリナチー。一番広いし、集まるならうちかな。

「私の家にする?ホットプレートもあるよ。近所にスーパーがあるから買い出しもできるし」

「あたしんちにたこ焼き器あるから持っていくよ」

「じゃあカレンんちで、たこ焼きと餃子ダブルでやろぉ」

というキョウカの一言で決まった。


 【ミオタン】

 有希ちゃんはオレンジジュース、杏花ちゃんはほうじ茶ラテ、カレンと莉奈ちゃんとユリポンはジュースみたいなお酒、アオイ様はビールをいっぱい買ってる。

 私はもちろんこれ。澪。日本酒だけどアルコール5%で飲みやすいし、何より私の名前入りだから。

「たこ焼きの粉と天かすと紅しょうがとタコ、餃子の皮に挽き肉と白菜。にんにくは入れる?他は?」

「たこ焼きにチーズ入れようよ」

「じゃあチーズね」

「あっ、カレンがちゃんと手前取りしてる」

「これから食べるんだから賞味期限関係ないでしょ、ソースとマヨネーズと餃子のたれはうちにあるよ」

「餃子にクサヤも入れよう、ビールに合うんだよ」

「うちが臭くなるから却下!」

「ねぇ、食後のアイス買っていぃ?」

「いいね、私パナップのグレープにしよっと」

「パナップにチョコミントなんて出たんだね」

「私、ピノのアールグレイ味にする」

「えっ、みんな買うの?じゃあ私は担当カラーの雪見だいふく」

「私はパピコ」

「じゃあわたしはチョコモナカジャンボ」

 一人だけアオイ様がアイスじゃなくて、ミックスナッツをカゴに入れていたの、私見逃してないよ。

「ここがうち、全員初めてだよね」

「カレンの部屋広ーい。きれーい」

「間のブラインドカーテンを開けると14畳になるの」

「写真とか飾ってあっておしゃれだね」

「このカレンが写ってる大きいのいいね、ザ・写真集って感じ」

 砂浜から夕方の海を見つめるカレン。白のノースリーブが南国という感じだけど、表情は切なそう。

「これみんな同じカメラマンなの?」

「そうだよ、お気に入りなの」

 私ピンと来ちゃいました。


 餃子チームの杏花ちゃん、有希ちゃん、ユリポン、カレンが具を上手に包んでいくのを、たこ焼きチームの私とリナチーはぼーっと見ている。たこ焼きはタコを切って粉を溶かして終わり。焼き係のアオイ様はミックスナッツをおつまみにしてもう飲み始めている。手にはティッシュと割り箸で作った大きなマッチ棒みたいなものを持ってる。あれで油をひくのかな。

「できたよぉ、焼こうかぁ」

「あっ、アオイ様ひっくり返すの上手」

「まあね」

「はい、餃子いっちょ上がりぃ」

「よーし、じゃあ乾杯しよう」

「って、アオイ様、先に飲んでるじゃーん」

「改めて乾杯すれば、あたし的にはオーケーなの」

「何に乾杯するの?」

「Say Helloのヒット祈願?」

「いや、あたしたちの輝かしい未来に乾杯」

「あははは、酔ってる、かんぱーい」

「あっ、始まったよ」

『ボンバー!毎週話題のアーティストのスタジオライブをお届けするこの番組。今週のアーティストは……』

私たちのMVが流れている。

『今注目のアイドル、虹色ドリーミング』

ライブのシーンに変わった。

≪恋は毒薬 それを飲むと 私は死んでしまう≫

やっぱり。私はまたまたピンと来ちゃった。そうか。カレンもそういうことか。

「あっ、カカシとイーグルががいるよ」

「ココDとトラウトとラジオくんもいるぅ」

「全員集合だね」

「こっち側にはラビットちゃん率いる親衛隊がいたはず、ほら」

「あっ、アオイ様ドアップ」

「やめてー。はい、チーズ入り焼けたよ」

「虹の彼方への間奏でミオタンのバナナが発動するの、ほらね」

「ほんとだぁ、わたし反対側だから気づかなかった」

「一番被害に合ってるのリナチーだもんね」

いつもごめんね、莉奈ちゃん。でもこういうの楽しいね。

♪♪♪♪

放送が終わって片付け班とゲーム班に分かれた。私はバナナのお詫びだし、ゲーム苦手なのでカレンと片付け班。

「あー楽しかったぁ。カレンお邪魔しましたぁ」

『お邪魔しましたー』

「うん、またね」

なんとなくカレンが寂しそうな顔したの、私見逃してないよ。

次のライブは私、天野澪生誕祭。10月6日、場所は渋谷クラブクアッド。センター街の先の方にあって大きいからお気に入りのライブハウスなんだけど、唯一客席の下手真ん中にでっかい柱があるのが気になるところ。なぜか渋谷だと、EASTにもエッグにも邪魔な柱があるけど。

 私、カレンの気持ちがよく分かる。最近物思いにふけっていることがあるし、あの写真とあの歌詞。カレンはきっとそのカメラマンに恋をしてるんだなって。

 なぜ分かるかって、私もそうだから。

 でも私たちはアイドルだから、恋が恋愛になってはいけないの。

 カレンが歌詞に想いを託したみたいに、私も想いを込めてソロを歌った。

 あなたがあの子と過ごした時間は、私との時間より長いかもしれない。でもあの子は卒業してしまったの。今あなたを見ているのは私なの。諦めようと思ったこともあったけど、人の気持ちは簡単には変えられない。

 私は歌が下手だから、ちゃんと想いが伝わらないかもしれない。だから最前ドセンにいるあの人の目を見て歌ったの。『赤い糸』といつものチョコケーキのお返しに『ショコラ・ラブ』を。

 そしたらあの人が水色のバラの花束と、欲しがっていたBluetoothの防水スピーカーをくれた。なんでこれが欲しいって知ってるの?テレパシー?私のことは何でもお見通し?じゃあ私の気持ちも……と思ってたら、リナチーが物販中にネタバレをしてきた。

「その花束6万するんだってさ、水色ってほとんど売ってないから特注らしいよ。スピーカー?ああ、前に私のチェキ列に並んで『ミオタンの欲しい物リサーチしておいて』って。犬と洗濯機はあげられないからスピーカーにしたんだってさ」

そっか。私、超嬉しいから、水色のスピーカーはずっと大事にする。バラはドライフラワーにする。

「ニジドリ物販終わります、ありがとうございました」

パチパチパチパチ……パン!パンパンパン!

 私「天空の城」

 リナチー「ラピュタ」

 私「平成狸合戦」

 リナチー「ぽんぽこ」

 私「千と」

 リナチー「千と?せんと?」

 私&リナチー『セントクリストファーネイビス!』

 リナチー「からの、トリニダード・トバゴ!」

 アオイ様「だからどこやねん」

 リナチー&カレン『レボリューション!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る