第7話

 パパと夜の約束をして、直人にフライヤーを渡さ ないようにして、学校へ行って帰って、宮田先生と急いでカフェへ行って、真紀先生に

「ガス漏れに気をつけてください。もし玉ねぎの臭いがしたら、窓とドアを開けてホウキではいてガスを追い出してください。換気扇は絶対につけないでください」

とネットで調べた方法を伝えた。

♪♪♪♪

『以上、私たち虹色ドリーミングでした。ありがとうございました』

「明日は新宿アルトです、待ってます」

『はーーーい』

『ユキちゃーム!』

『カレン行かないでー』

『やっぱアオイ様だなあ』

『絶対結婚しようなー』

『杏花が!一番!かわいいよー!』

良かった。みんな無事で終われた。

私はまだ今日まで17歳だから22時までしか働けない。急いで片付けて帰らなきゃ。

帰宅して、明日のためにやったレッスンのDVDを見直す。特にこの曲はまだちゃんと覚えきれてないから何度も見なきゃ。

そろそろ22時。パパ定時って言ってたのに遅いなあ。テレビ番組に切り替えるとニュースがやっていて、アナウンサーが言った。

『なお発砲した容疑者は依然逃走中ということで、警視庁は緊急配備を……』

パパはこの事件の担当なのかな。

冷蔵庫を開けてケーキを出して見てみた。ありがちなイチゴのデコレーションケーキがパパらしい。一人分だけ切り出して、今夜はこれでいいや。

「いただきます」

これを最後まで倒さずに食べるのが苦手なのは私だけ?

24時になったので、お風呂に入って寝ることにした。おやすみなさい。

……………………!

♪♪♪♪

電話。誰だろう?あっ、今はまだ部下の登坂さんだ。

「はい」

『あ、有希ちゃん?寝てたよね、ごめんね。実はお父さん、今病院なんだ。今から来られるかな?○○病院。タクシー代ある?』

「はい、大丈夫です」

『お父さんの着替え持って来てもらえるかな?』

「はい、持って行きます」

スマホを見ると午前2時。パパは一体どうしたんだろう?

パパの部屋に入ってスボーツバッグに着替えを詰めて、タクシーを呼んで病院に向かう。

20分くらいで病院に着いた。一箇所だけ明るくなっている夜間通用口から入る。

「折原裕希の家族ですけど」

そう伝えると病室に案内してもらえた。

パパはベッドに寝ていた。心臓の鼓動と同じタイミングで機械が音を鳴らしている。両腕には点滴の管がつながっていて、口には緑色のマスクが当てられている。ベッドの横に座っていた登坂さんが立ち上がって言った。

「有希ちゃん、荷物はそこに置いて」

言われた通り、パパのバッグをベッドの横に置いた。

「パ……父は?」

「お父さんは銃で撃たれたんだ。弾は手術で取り除いたんだけど、まだ意識が戻らないんだ」

「……そうですか」

「お父さん、有希ちゃんの生誕ライブをとっても楽しみにしていたんだよ。あっ、そうか。せっかく来てもらったけど、あとは俺がみるから有希ちゃんは帰って休んで」

「でも」

「もうできることは全部やった。俺たちができるのは祈ることだけなんだ。有希ちゃんがきちんとライブができなかったら、後で俺が怒られる。だから……」

祈ることしか……いや一つだけできることがある。あと一回だけ。それには帰らなきゃ。

「わかりました。父をよろしくお願いします」

「うん」

帰ってすぐに小人に祈った。パパを助けてください。

でもやり直しは起きなかった。朝日の中で、小人は白雪姫を見て笑っていた。


パパがいない朝。

今までだって何度もあったけど、今日はなぜかすごく寂しい。パパがもう帰ってこないかも、と考えると鼻の奥がつんとした。でも

『辛い、寂しいと思ってる人を笑顔にするのがアイドルという仕事なんです』

私、行かなくちゃ。

準備をして、もう一度だけ小人にお願いをする。

「パパを助けてください。お願いします」

玄関で靴を履いて、ドアを閉めたので私は気付かなかった。

黄色の帽子の小人が、ことりと動いて消えたことに。

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