第6話
【カカシ@ユキちゃムズNO.1】
なんでカカシって名乗ってるかって?小さい頃小児マヒで、左脚を引きずって歩いてたんだ。だからカカシって呼ばれた。一本足のカカシ。まあ、由来はそれだけじゃないんだけどね。手術したから今は普通に歩けるよ。
前はオレ、SBYのオタクだったんだ。でもある時ふと思ったんだ。俺のやってることになんの意味があるのかって。俺一人いなくなったところで、この子たちはテレビに出続けるし、CDはオリコン上位にい続ける。俺の代わりはいくらでもいるから、いなくなったって何も変わらない。そう考えると途端にむなしくなったんだ。
そんな時、CLEANっていう地下アイドルの配信を観たんだ。
メジャーデビューが決まって泣きながら飛び跳ねて喜ぶメンバーたち。
「もう地下じゃないんです。メジャーアイドルなんです」って言うスタッフ。それを観て思ったんだ。
「彼女たちといっしょにもっと上に行きたい」
当時は対バンなんてなくてさ、定期ワンマンやリリースイベントに通ったよ。そしたら彼女たちはどんどんメジャーになっていって、ご当地アイドルから全国展開を始めてさ。メジャーアルバムも出して。オレも周年ライブや生誕祭に向けて準備をしたり、オリジナル口上を考えたりして楽しかった。
ちょっと仕事が忙しくなって一年ばかりアイドル現場を離れたんだ。戻ってきたら、推していたメンバーはみんな卒業してた。理由は分かってる。SBYと同じ選抜制をとっていたから、選抜に入ることができない子はどんどんやめていくんだ。そうしたら選抜に入っている子もやめるってなった時に、選抜入りどころかそのグループを背負っていく子が0になるんだ。アイドルはグループ内で競っちゃだめだ。誰も得をしない結果しか生まないからね。
アイドルシーンもだいぶ様変わりしていた。ワンマン中心から対バン中心に変わっていた。色んな現場に出入りして探したよ、推せる子をね。どうせならさ、見たいじゃない。ストリートから始めててっぺん取った尾崎とかゆずみたいに、地下から這い上がって空高く舞い上がっていくアイドルの姿をさ。
最もピークの時で、全国に1万組以上のアイドルグループがいたらしいよ。今もそれくらいいるのかな。楽しくてやり甲斐のある現場をいくつか見つけたから、通ったよ。
「今度新宿レーニンでワンマンやるんです。ぜひ来てください」
「深夜だけど、一ヶ月限定だけどテレビで私たちの歌が流れるんです」
「新木場のメインステージに立つのが夢なんです」
「2年でフェスに出るのが目標です」
でも、みんな夢を叶えられずにつぶれちゃったよ。アイドルには寿命があるんだ。残るのは新しい子がどんどん入るメジャーアイドルだけなんだ。
よくBaSHやモモタロは地下から始まったとか言う人がいるけど、俺は違うと思う。SBYは最初のライブの客こそ10人ちょっとだったけど、業界関係者はその数倍はいたらしいし、そもそも専用劇場持っているからね。フェアリーサーガや覆面女子も劇場持ち。BaSHは、プロデューサーが直前に手がけてたアイドルの卒業ライブが横浜アリーナだぜ。それで、またやりますって売り込みだったらもう地下ではない。モモタロは車中泊で全国をドサ回りしていたけど、デビュー曲からネットで有名な音楽家を起用していたし、3曲目4曲目くらいからはアニメのエンディングで流れてた。本当に地下から這い上がったっていえるのは、俺が知ってる中ではベイビーレイズとCLEANぐらいかな。他はみんな最初から地下は地下の、地上は地上のレールを走ってるんだ。そしてメジャーになるアイドルは最初から空を飛んでるんだ。
飛んでる鳥の群れを観ることはできるけど、いっしょに飛ぶことはできない。どこにも連れて行ってはくれない。でももし飛行機みたいなアイドルがいたとしたら?いっしょに飛ぶことも、どこか遠くへ連れて行ってくれることもできると思うんだ。そういうアイドルを探していたことに気がついたんだ。
三年前、佐藤Yさんが仕切っているアキバのサーキットイベントでさ、物販会場の通運会館でフライヤーを配っているグループに出会った。ライブには出ていないけど、Yさんに頼んで階段の踊り場で配らせてもらっていた。
「デビューライブやります、良かったら来てください」
オタクだったらフライヤーなんか一日に何枚も貰う。普通なら「行けたら行く」で断るんだ。かわいい子もいたけど、無銭がっつきはみっともないからね。でもその七人の中に、以前推していたCLEANの妹分SMILESの子がいたから、気にはしていたんだ。
それで、その日入っていた予定がなくなったから、デビューライブ行ってみたんだ。
第一印象は「なんじゃこりゃ」
個性がバラバラの七人が、てんでバラバラのダンス踊ってた。でも妙に気になる。で、気づいた。
「そうか、逆にこっちなんだ」って
今考えたら、高梨社長の術中にはまった感じだね。
メジャーアイドルはモネ的同一造形で選ばれているから、みんな似たような子ばかりだけど、王道系と美人系とオタク系と歌うま系とロック系と天然系とカワイイ系、この七人に同じベクトルを与えられたらすごいことになるぞって。しかもこのグループのコンセプトは虹、七色=七人。これって最後まで誰一人欠けません、新メンバーは入れません、最初から完全体です、この七人でてっぺん目指しますってことだろ。意気込みを感じたよ。この子たちなら、俺をまだ見たことがないところまで連れて行ってくれるかもしれない。それがニジドリとの出会い。
箱推ししてたんだけど、ある日ユキちゃムと俺が同じ12月6日生まれだって気づいてからは、運命感じて箱推し寄りのユキちゃむ神推し。ガチ恋。
TOなのかって?トップオタとかそんなのは正直どうでもいい。オレはオレの推したいように推すし、オレが望むのはニジドリのライブが盛り上がって、ニジドリがより高みに行ってくれること、それだけ。
話変わるけど、101匹目の猿って話知ってる?芋を洗う猿が101匹になった瞬間に、全部の猿が芋を洗うって話。それってオタクにも言えるんだよ。その数はずばり2000。ゼッパクラスとか県庁所在地の市民会館クラス、これを超えられれば一気にバズる。まあ、まずは明日のシースタワンマン満員。その次の目標はTokyo Idol Fes、TIFだな。
今年のユキちゃム生誕祭も盛り上げていくんでよろしく。楽しめたら実質無銭だ。じゃあ。
「いやあああああああ!」
「有希!おい有希!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?」
「……うん、変な夢を見た」
やり直せたの?鏡の前に立ったら、ひどい顔の私が映ってた。まだあの嫌な臭いが鼻に残ってる。
小人は黄色の帽子の小人一人になっていた。
「あと一回」
みんなを助けなきゃ。
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