第8話
新宿駅の東口から出てアルトに向かう時、地上からだと駅前や横断歩道のところがすごく混んでいる。アルトのエレベーターも1階で待ってると、すでに満員で乗れないことがある。だから地下から行くのがベスト。
地下から一気に7階のシースタへ上がると、すでに飾り付けが終わっていて、シースタのスタッフさん以外誰もいなかった。
私の写真がポスターサイズに引き伸ばされて、あちこちに何種類も貼ってある。これはこの前の撮影会でカカシが撮った写真だ。メンバーと一緒に写ってるものには、メンバーからの直筆メッセージが書かれている。いつ書いたんだろう。一通り見て回って、正面入口からライブ会場に入ると、右端に黄色のフラワースタンドが置いてあった。しかも二本のフラスタがアーチでつながってる大きくて珍しいタイプ。
楽屋に行って準備をする。今日はサイドポニー、いやハーフツインにしよう。鏡に向かって笑ってみる。
♪♪♪♪
ソロで歌った『初恋サイダー』のカバーもうまくいった。一人だとハモリはないからね。
「以上、私たち虹色ドリーミングでした、ありがとうございました」
ファンの大きな拍手。って終わりじゃないのは、ワンマンではお決まり。
楽屋へ戻って、急いで衣装チェンジ。汗をふいて、髪とお化粧を直していると、カカシの声が聴こえてくる。
「みなさーん、まだまだいって、くれるかなー?」
『いいともーー』
あはははは。アルトだからそうきたか。メンバーもみんな笑ってる。
「まだまだユキちゃムを応援してくれるかなー?」
『いいともーー』
「よーしいくぞー!アンコール!!」
『アンコーール!』
「アンコール!!」
『アンコーール!アンコーール!……』
全員の準備完了。
アンコールの声が響く中、円陣を組んでミオタンが全員を見て黙ってうなづいた。私たちもうなづき返す。
よし、行こう!
『パチパチパチパチ……………』
おっ!という声。そう、今までと違う白いアーミー服に、担当カラーのラインが入った新衣装。
「アンコールありがとうございます、では聴いてください。シークレットラブ」
ダン!ダン!ダン!ダン!
『ミョーホントゥスケ!化繊飛除去!ジャージャー!ファイボー!ワイパーー!』
≪気づかれないようにいつも見つめてた 眼が合うと視線そらしてた 夕陽の中微笑む君が眩しくて 心が震えるこれが恋のサイン≫
全てのキングブレイドが黄色。更にキンブレを持っていない人も二本ずつ黄色のサイリウムを振っている。
蛍が1000匹いるみたい。菜の花畑が光ってるみたい。
よーし行くよー!
≪あなただけには隠しておきたかった≫
いつもより高い、二階建てみたいなリフトからのケチャ。
≪シークレットラブ 伝えたい秘密の気持ち 本当は本当は あなたが好き≫
『おれもー!』「せーの!」
『言いたいことがあるんだよ!やっぱりユキちゃムかわいいよ!好き好き大好きやっぱ好き!やっと見つけたお姫様!俺が生まれてきた理由!それはユキに出会うため!俺といっしょに人生歩もう!世界で一番愛してる!』「わたしもー!」
ガチ恋口上はいつ聞いても自分の名前で入れてくれると嬉しすぎる。
≪ずっと隠してく 気づかないフリをして シークレットラブ≫
『パチパチパチパチ……』
「それでは次の……」
『ちょっと待ったーー!』
定番のパターン。ユキちゃムズの姿は全員見えない。
オルゴールのハッピーバースデートゥユーが流れる中、モーゼの十戒のようにお客さんの塊が真っ二つに別れて、真ん中に道ができた。そこに現れる黄色の生誕Tシャツを着たユキちゃムズのみんな。
カカシが持ってきたのがケーキ。白い生クリームのケーキの上に黄色のバラがたくさんあしらわれていて、真ん中の板チョコに白いチョコで
Happy Birthday to Yuki.
と書かれている。
次は黄色のバラの花束。100本はある。こんな大きいの今までもらったことない。
その次は箱。開けてみると銀色のハイヒールの上に黄色いバラが一輪のせてあるものが入っていた。
最後は黄色い表紙のアルバム。中を見てみると、500枚くらいのメッセージカードの中にメンバーや高校の友達の名前があった。いつの間に。あっ、そうか。杏花ちゃんか。
「じゃあ記念撮影しまーす」
客席もみんな写るように、客席に背中を向けて座って、高梨社長が構えたスマホに向けてポーズ。これはあとでツイッターのヘッダーにしよう。
ケーキはユリポン、花束は杏花ちゃん、靴とアルバムはミオタンが楽屋に置いてきてくれた。さて。
「それでは……」
『ちょっと待ったあー!』
えっ?まだ何かあるの?カカシたちもキョロキョロしてる。何?
『有希』
このマイクの声は……パパ!パパが来てるの?どこ?
『心配をかけてすまなかった。この通りパパは大丈夫だ。まだお医者さんが付き添っているけどな』
良かった。PAさんのところにマイクを持ったパパ発見。
『有希、誕生日おめでとう。18歳といえばもう大人だ。これからはパパに気兼ねなく、自分の責任の元で、自分の思ったように生きなさい。そして有希がそうだったように、他人を笑顔にしてあげられる、そんな人になってくれるとパパは嬉しい』
アイドルでも、ステージの上でも、嬉しい時は泣いてもいいんだよね。
カレンが右肩、杏花ちゃんが左肩に手を添えてくれた。
パパはよく「ママがいた方がいいか?」って聞くけど、私はパパだけで平気。だってよくできましたの二重丸をつけた『はは』は『ぱぱ』だもん。
『そしてドリーマー、でいいのかな、の皆さん。これからも有希をよろしくお願いします』
大きな拍手。
『ユキパパ最高ー!』
「それでは次の曲いきます」
暗転。メンバーが決まったポジションにつく。
「このフォーメーションは!?あれ?これ何?」
それはね。
「これは私たちからの皆さんへのサプライズ。聴いてください。新曲『虹の彼方へ』」
『うおおおおおお!』
≪さあ走り出そう 君となら行けるさ 虹の彼方へ≫
全員がキンブレの色を推しの色に戻す。七色。これが私たちのいつもの風景。
初めてだから、カレンが踊りながらかわいく先導する。
「三連MIX、さあーいくぞ!」
『タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!虎!火!人造!繊維!海女!振動!化繊!チャペ!アペ!カラ!キナ!ララ!ウィスペ!ミョーホントゥスケ!』
Aメロの歌い出しは私。
≪こんなに遠くへ来てしまった≫
最前ドセンが空いて、カカシやユキちゃむズが横から入ってくる。黄色のキンブレを振っていた直人と宮田先生が、他のドリーマーに背中を押されて恥ずかしそうに前へ来る。
≪隣にいつも君の姿≫
『ユキちゃーーム!』
ありがとう。私みんなのことが好き。みんなみんな大好き。
≪モノクロの景色が君となら 虹色に変わるそんな魔法≫
『リナチーーー!』
≪昨日までの風景はきらめく思い出 今日からはじまる新しい未来 羽ばたけ≫
≪Get the journy ready 一歩歩く Show us the way きっと見える≫
「みんな拳をあげてー!」
≪高い(高い)≫
私たちは拳を高く突き上げる。
≪高い(高い)≫
客席もみんな拳を高く上げる。
≪あの空を目指して≫
≪さあ走り出そう≫
そう。私たちは。
≪君となら行けるさ 虹の彼方へ≫
どこまでも高く飛んでいける。
家に帰るとドレッサーの前には、七人の小人に囲まれた白雪姫が幸せそうに笑ってた。
【????】
女の子の夢のような不思議な二日間のお話はこれでおしまい。
【ユキ】
でも私たちの物語はまだ終わらない。
虹色ドリーミング ともなん @tomonan16
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