第3話
バスに揺られること30分、いつものように学校に到着した。あと二週間ちょっとで冬休み。それ以降は他の大学を受験する人は自宅学習期間になるから会えなくなっちゃう。この教室ともあと三ヶ月でお別れ、三年って長いようで短いなあ。そんなことを考えながら我がA組に到着。
「あ、有希。おはよぅ」
杏花ちゃんが何か隠したみたい。なんだろう。
「杏花ちゃんおはよう。それなあに?」
「あぁ、有希には関係ないよぉ」
怪しい。けど杏花ちゃんのことだから、本当に関係ないのかも。まあいいや。
「有希、昨日のテレビ観たよぉ」
私の前の席の子も振り返って
「あーわたしも観たよー、折原大活躍じゃーん」
私も、私もと、私の机に人が集まってきた。
「あーぁ、ユキちゃムズにはカカシっていう超太いオタクがいていいなぁ。今回のテレビだってそのおかげじゃん」
太いっていうのは体型じゃなくて、お金をたくさん使ってくれるって意味。
「最杏チームだってラジオくんがいるじゃん。いつもガンプラとかもらって。あ、この間ミルクフェドの服もらってたじゃん。この前杏花チェキ200枚達成ってツイートしてたよ」
「でもカカシなんてCD1000枚でしょ。カカシはサインチェキだから500枚ループだし」
CD一枚でチェキ一枚が撮れるけど、サイン入りチェキだとCD二枚で一枚。ちなみにノーマルチェキだと600円、サイン入りだと1200円のバックがあるのは内緒。
「えー、CD1000枚っていくらー?」
えーと、一枚1200円だから……。
「120万円、かな」
「えー何それー!超豪華なパパ活じゃーん」
「そんなのじゃないよ」
「ちょっと!その話詳しく聞かせて!」
パパ活という言葉に反応した子たちが、身を寄せてきた。私は昨日テレビでした話をかいつまんで説明した。カカシというファンがCDを大量に買ってくれたこと。そのおかげで『シークレットラブ』がオリコンデイリー5位に入ったこと。カカシがサインチェキを500枚全部私と撮ってくれたこと。そのおかげで、私は今センターができていること。カカシや他のファンが東京のリリースイベントを始め、全国各地に全通してほぼ毎日会いに来てくれること。
それを聞いた大物芸人が
「もう彼氏以上だね。彼氏だって全国どこにでも駆けつけてくれるなんてないよ。誰かその中から彼氏見つけようとは思わないの?」
「だってアイドルにとって恋愛は毒リンゴですから」
「寂しい時にも駆けつけて欲しいって人はいないの?」
「そう思っている人に寄り添って、その人を笑顔にするのがアイドルというお仕事なんです」
「若いのにご立派。お前ら弟子にしてもらえ」
「あ、弟子は募集してません」
拍手と笑い声の中、私のアップでCMへ。緊張でちょっとひきつってたかもしれない。
【宮田武一】
僕は昔から感情の起伏が乏しいというか、心がないブリキ人形みたいだってよく言われました。
なのであまり友達がいなくて、いつもパソコンで遊んでいました。
家の林業を継ぎたくなくて、東京の大学に入って、家庭教師のアルバイトを始めました。
最初の教え子が有希ちゃんでした。
彼女が「志望校に行きたい」とすごく一生懸命だったので、初めて
「この子を合格させてあげたい」
と思いました。
有希ちゃんが合格した時は一緒に喜びました。喜怒哀楽の喜です。
そんな喜びを知ったので、今も家庭教師を続けられています。
パソコン制作が趣味なので、秋葉原のドスパラ辺りによく行きます。その足で虹色カフェにも行きます。
最近彼女たち急に売れ出しましたね。ネットで、華蓮ちゃんのグラビアとか杏花ちゃんのガンプラ制作配信とか観てます。
リナチーでしたっけ?あの子なんかファイナルクエスト7リメイク版の公式アンバサダーじゃないですか。ヒロインのコスプレしながら、ゲームの実況配信をしているのもよく観ます。
他の子も応援してるので箱推しっていえばいいんですかね。
たまにまとめサイトとかで彼女たちの悪口が書かれていると腹が立ちます。喜怒哀楽の怒です。まあアンチがわくということは、有名になってきた証拠ですけどね。
今日と明日は家庭教師を振り替えてもらいました、有希ちゃんの生誕祭ですからね。
楽しみです。
あっ、これも最近わいてきた感情です。喜怒哀楽の楽ですね。
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