第2話

 朝の準備ができて、リビングへ行くと、パパが新聞を読みながら、テレビのニュースを観ながらトーストをかじっている。そんなことができるのかって?できるみたいよ、パパが毎朝やっているから。

 こんなんだけど、パパは一応警視庁の警察官やらせてもらってる。長年働いて警部補みたいだけど、春から研修に来ている登坂さんも警部補。なんで新人に並ばれてるのって聞いたら、パパ曰く、登坂は管轄が違うからって。登坂さんはどうやらエリートみたい。

『復興支援の予算案が……』

『中国が遺憾の意を……』

『内閣支持率が……』

 最近、毎日同じニュースをやってる気がするのは私だけ?

「有希、今日は定時だと思うから、今晩はお寿司とケーキでお祝いしよう」

「その組み合わせありえなくない?」

「何言ってる。お祝いの定番だろう。ケーキはもう買ってきて冷蔵庫に入ってるから、今晩お寿司を買ってくるからな」

「うん、わかった」

「広瀬さんには晩御飯はいらないと伝えておいてくれよ」

「うん」

 私もトーストにかぶりつく。パパはそろそろ出かける時間。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」

「今日と明日、がんばれよ」

「うん、もちろん」

生誕祭は一年に一回だけ、その子がお姫様になれる特別な日。それが今年は前夜祭も含めて二回も。私は幸せ者。気合いだって入りまくり。

 さて、朝食の後片付けしたら、私も学校へ行かなくちゃ。家の戸締りをしていると、いつも通り、隣の直人と顔を合わせる。

「有希おはよう」

「おはよう」

「これお弁当」

 いつもの緑のかわいい巾着袋に入ったお弁当箱を受け取る。

「おばさんにありがとうって伝えて。あ、今日ね、晩御飯はいらないから。パパがお寿司買ってくるんだって」

「ん。母さーん、有希、今日晩御飯いらないってさー」

 部屋の奥から直人のお母さんの「はーい」って声が聴こえる。

「昨日テレビ観たよ。お前ら最近すごいな。カレンちゃんを本で見たし、緑の子やオレンジの子の配信なんかみんな観てるってさ」

「うん、でもまだまだこれからだよ。あ、直人は明日の生誕祭来られる?これフライヤーだけど」

「うん。観に行くつもりだからそれいらない。がんばれよ、お姫様」

「うん。バス停まで一緒に行く?」

「ばか、誰が見てるかわかんないだろ。昨日言ってたあれだろ」

「そうだね」

 私が前を歩いて、直人が他人のふりをしながら後ろからついて来る。大通りに出て、私はこちら側のバス停、直人は向こう側なので横断歩道の信号が変わるのを待っている。

 今日も寒いなあ。手をこすりあわせる。あ、フライヤーを落としちゃう。

 私は大通りに飛び出していた。大きなクラクションの音が響く。黒い大きな車がすぐ目の前に迫っていた。ヤバい。

「有希ッ!」

 一瞬何が起きたのかわからなくなった。からだがあちこち痛い。

 見回すと私は通りの真ん中に尻もちをついているようだった。黒い車の前に直人が倒れていた。私は慌てて起き上がり、直人にかけ寄った。

「直人?直人!」

 揺すっても直人はピクリとも動かない。

「直人!起きてよ!ねえ!」

 誰か。誰か直人を助けて。夢なら覚めて。お願い。


[有希の部屋の赤い帽子を被った小人の人形がコトリと動いた。]



 わっ!あれ?

 夢?なんかリアルな夢だったなあ。

 準備をしてリビングへ行くと、いつものようにパパが新聞を読みながら、ニュースを観ながらトーストをかじるという器用なことをしている。

『復興支援の予算案が……』

『中国が遺憾の意を……』

『内閣支持率が……』

 毎日おんなじニュース。

「有希。今日は定時だと思うから、今晩はお寿司とケーキでお祝いしよう」

「ねえ、パパそれ昨日も言わなかった?」

「いや、なんだ寝ぼけてるのか?」

 あれ?

「広瀬さんには晩御飯はいらないと伝えておいてくれよ」

「うん」

「じゃあ行ってくる。有希、今日と明日がんばれよ」

「うん、行ってらっしゃい」

 さて私も学校へ行かなくちゃ。鍵をかけて、と。

「有希、おはよう」

「おはよう」

「これ、お弁当」

 見慣れた緑の巾着袋。

「ありがとう。今日ね、晩御飯いらないから。バパがお寿司だって」

「ん。母さーん、有希、今日晩御飯いらないってさー」

 奥から「はーい」という声。

「昨日テレビ観たよ。お前ら最近すごいな。カレンちゃんを本で見たし、緑の子やオレンジの子の配信なんかみんな観てるってさ」

「う、うん」

 なんか変な感じ。デジャヴってやつ?

「有希どっか悪いのか?生誕祭大丈夫か?」

「うん、大丈夫。直人は来られるんだよね」

「もちろん。がんばれよ、お姫様」

「うん」

 渡そうと思っていたフライヤーをカバンにしまう。

 私はこっち側のバス停、直人は向こう側だから横断歩道待ち。

 寒いなあ。手をこすりあわせた。

 そういえば。

 夢で見たのと同じような黒い大きな車が、大きな音をたてて通り過ぎていった。

 なんだ、やっぱり夢だったんだ。

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