34. 廃棄王女、カルミアを思う


「アルバート殿下?」


 アル様が横から会話に割り込んでくると、デュマン卿の顔が険しくなりました。彼の鷹のような目が、さらに鋭さを増しています。


「シヴァ殿下がロオカに外遊されていることを、メディア王女殿下がご存知だった理由については私から説明しよう」

「どうしてアルバート殿下が?」

「王女殿下がその事実を耳にした現場に、私も居合わせていたからだ」

「それはいったいどうして?」

「ここで話せる内容ではない」


 アル様は場所を変えようと、デュマン卿に扉の方に視線を送って見せる。デュマン卿も会場を見回して、黙って同意するように頷いた。


「シヴァ殿下もご同道願えるか?」

「俺もか?」


 アル様の申し出に、シヴァ殿下はいとうような素振りをみせました。が、シヴァ殿下はどこか狙いすましていたようにも私には見えます。


「軍事演習の件も絡んでいる。貴殿にも話に加わっていただきたい」

「俺は貴殿らと色気の無い談合をするより、美しきカザリアの花を愛でていたいのだが……」


 色気たっぷりの微笑みをシヴァ殿下が向けてくる。私はぷいっと視線を外しました。どうにもシヴァ殿下の黒い瞳を見ていると、ペースを乱されそうになるからです。


 ですが、花ですか。


 そう言えば、カルミアには野心や野望などの花言葉がありましたね。それに、シヴァ殿下は何故かカザリアの国情についても良くご存知の様子。


 もしや、お父様と繋がっているカルミアとは……


 横目でちらりとシヴァ殿下を窺い見れば、彼は苦笑いして肩をすくめられました。


「ふふ、花の方からは拒絶されてしまったか」


 仕方がないとシヴァ殿下もデュマン卿と共に、アル様について会場から退出されました。


 途端、私の周囲から人が去っていく。


 私の周りは騒ぎの渦中にあったとは思えぬ静けさです。先ほどのご婦人方も懲りたのか、近づいてくる気配はありません。


 ただ、敵意は未だ衰えず、私を遠巻きにする彼らの視線をかんじます。まったく戦場に一人取り残された気分ですね。私もアル様について行けば良かったでしょうか?


 いえ、何を話されるかは想像がつきますし、私が彼らの中に入ってもあまり有意義とは言えないでしょう。さりとて、このまま壁の花となるのも時間の無駄です。


 できれば、目星を付けている貴族と知己を得たいところですが……アル様がいなければ紹介してもらえる人がいません。


 だからと言って、こちらから彼らにアプローチをかけるのは良い手段ではありません。私はロオカの王族から忌避きひされているのです。そんな者から公然と接触されれば、相手の迷惑になるでしょう。


 そのせいで心証を悪くすれば、倦厭けんえんされるだけではなく、彼らも私の敵に回りかねません。


 さて、どうしたものでしょう。


 このまま無為に過ごすのも時間をの無駄ですし、人脈を得るせっかくの機会をふいにするのもはばかれます。


 さてさて、何か妙案はないものでしょうか……


「突然お声をおかけするご無礼をお許しください」


 そんなふうに思案していると、私に救いの手が差し伸べられました。


「私はルッツ・ヤウロ。ロオカ王家より伯爵位を賜わっております」


 それは年齢は六十前後くらい。かくしゃくとされた初老の男性でした。

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