22. 廃棄王女、王弟に月桂樹を示す
「今回の婚姻を強引に進めた父王の思惑にはロオカを支配下に置く陰謀があると私は推測しております」
カザリアの諜報機関『梟』が握っている情報から推察するに、ギルス殿下の女性関係や
「ロオカを支配下に?」
どうやらアルバート殿下は少し懐疑的なようです。カザリアだけを見ればロオカを支配下に置くのは地政学的にあまりメリットは小さいのですから。
「軍事に明るい殿下なら現在ロオカが置かれている状況もご理解なさっておいでのはず」
「ええ、ロオカの去就一つで戦況は大きく傾くでしょう」
やはり、アルバート殿下はお気づきだったのですね。表情が曇ったところを見るに、今のまま嵐が過ぎ去るのを待つ姿勢が拙いともご理解しているご様子。それでも軍人である己の分を弁え政治には口出ししないのはご立派な判断です。
しかし、今はアルバート殿下の清廉な性格が仇となってロオカを最悪の方向へと向かわせてしまっている。いえ、悪いのは優柔不断に状況に流されているジョルジュ陛下やデュマン卿の方ですね。
「今やロオカの動静は帝国とカザリアのみならず各国が注目しております。既にご存知かもしれませんが、王都ベリーズには我が国や帝国だけではなく各国の間諜が水面下で蠢動しているのです」
シャノンから聞いた話では日を追うごとに抗争が激化しており、血で血を洗う様相なのだとか。『梟』にも少なからず被害が出ているそうです。
「父王はロオカが帝国の傘下に入るのを恐れておいでなのです」
このままではロオカは確実に帝国の支配下に入ります。その情報を得たお父様は多少強引にでもロオカを傘下に収めようと動かれたのでしょう。
「私が言うのも何ですが、我が国は事なかれ主義で戦争を対岸の火事と見ており参戦する意図はありません。それは無用な危惧ではありませんか?」
王都にいないアルバート殿下はまだ自国の状態に対し認識が甘いようです。
「いいえ、ロオカの中枢には既に帝国の息がかかっております」
「まさか」
「ロオカに入国してすぐに私は帝国の正規兵から襲撃を受けました」
「まことですか!?」
アルバート殿下が驚いておりますが、それも当然でしょう。自国に同盟関係にない国の兵が侵入しているなど主権に関わる重大事なのですから。
「詳しくお伺いしても?」
「はい、あれは国境を越えて街道を数刻ほど進んだくらいでしたでしょうか……」
国境付近での戦闘と内容についてつぶさに説明をしていくとアルバート殿下の顔はみるみる険しくなっていきました。
「国境警備の兵までもグルだったのですか!?」
「証拠はございませんが、彼らの反応からほぼ間違いないかと」
「それが事実ならば由々しき事態だ」
「ええ、何せあの辺りはトラバニ伯爵領ですから」
「ご存知でしたか」
シャノンを通して『梟』の情報を引き出した私は襲撃を扇動した者の正体を知りました。
「それはソレーユ王もご存知なのでしょうか?」
「私でもすぐに分かったのですから当然承知しているでしょう」
私の回答にアルバート殿下は苦々しく顔を歪められました。それに気づかぬフリをして私は一口お茶を啜る。
――カチャリ
間を置いてティーカップをソーサーへと戻し、改めて私の赤い瞳をアルバート殿下の青い瞳を真っ直ぐ向けました。殿下ならこの僅かな間で私の言わんとする事を推測できたでしょう。
なにせトラバニ伯爵こそがカザリアの名宰相エドガー卿が仰っていた月桂樹。
「ご理解いただけましたでしょうか?」
「ソレーユ王のご懸念は理解した」
「我がカザリアには……いいえ、東方諸国にはもう一刻の猶予も無いのです」
トラバニ伯爵は現在ギルス殿下が恋人として付き合っているリアム様の父君なのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます