20. 廃棄王女、二匹の猫に慕われる
「とにかく、今後の私達の行動指針を決めなければいけないわ」
「ロオカに帝国を攻めさせるのがメディア様の目的なのですよね?」
「それは最終目標ではあるけれど、今の状況ではいきなりそれは無理ね」
謁見の間で貴族が私に向ける目で分かりましたが、予想以上にロオカの王侯貴族が抱くカザリアへの感情は良くなさそうです。
「ギルス殿下や彼の取り巻き達には最初から期待はしていなかったけれど、ジョルジュ陛下や宰相のデュマン卿までもが非協力的では帝国と戦ってくれと言っても無駄でしょう」
こうなってくると牽制さえしてくれるか怪しいものです。
「それでは当面の間は、お味方探しをされるのですか?」
「そうね、それも必要ではあるわね」
ロオカで基盤を築く為にも、立場ある者の協力は絶対不可欠。謁見の間にいた貴族はどうせギルス殿下の息がかかった者達だけでしょうから、国内を探せば親カザリア派の貴族もいるかもしれません。
「でも、それは既に『梟』がリストアップしているでしょう?」
「はい」
私の視線を受けてシャノンは微動だにしない顔のまま頷きました。
「でも……それほど味方……多くない」
「そんなに帝国の手はロオカの奥深くまで入り込んでいるの?」
「いえ……帝国の息がかかった貴族も……少ない」
今度は首を横に振ってシャノンは否定しましたが、それならいったい?
「ロオカの貴族は……帝国を脅威と……捉えて……ない」
「ああ、つまり楽観的でどこかに与する必要を感じていないのね」
「はい……みんな日和見主義的……ほとんど中立」
「最悪の事態は避けられているってわけね」
ロオカの貴族には帝国の侵略に対して危機感が希薄すぎて、他国と手を結ぼうとすらしていない。その愚かさに私は助けられたようです。なんとも皮肉な話ですね。
「そうすると、カザリアへの敵意は今回の婚約をお父様が無理強いしたせいなのかしら?」
「はい……でも、それもギルス殿下と……その取り巻き貴族達……だけ」
あの場にいたのは、ほぼギルス殿下の近くにいる者のようです。そうなると帝国に繋がっている者もあの中にいたのでしょう。
しかし、国を支える宰相デュマン卿までもが、私を敵視していたのは何故でしょうか?
「まずは中立の者を味方にすることとが優先だけど、ジョルジュ陛下やデュマン卿がカザリアに反目する理由も探る必要があるわ」
「それから国境襲撃に加担した貴族の調査もですね」
「よく覚えていたわね」
「えへへ」
灰色の頭を撫でるとマリカは嬉しそうに破顔する。
「これからマリカには私の侍女としてだけではなく、色々と動いてもらうことになるわ」
「お任せ下さい。メディア様の為ならたとえ火の中水の中です!」
ちょっとそそっかしい所もありますが、マリカの能力はとても頼りになります。
「私も……姫様のお役に立ちます」
「私は嬉しいけれど……良いの?」
「頭の許可……ある」
頭とは間諜機関『梟』の長アウル・ナイトメアのことです。
「頭……姫様を……心配」
「そう……彼にも苦労をかけるわね」
公僕のアウルは私個人に肩入れはできないけれど、何とか便宜を図ってくれたようです。彼なりの好意なのでしょう。
「今度お礼をしなくちゃ」
「……頭に……伝えて……おく」
「うん、ありがとうシャノン。これからよろしくね」
私が頭を撫でると無表情なシャノンが微かにすり寄ってきました。いつもは距離を置いているのに、こんな時は甘えてくるところが猫みたいで可愛い。
「う〜、シャノンばかりズルいです」
対抗心を燃やしてマリカがずいっと頭を差し出してきました。小柄な
「マリカも頼りにしてるわ」
思わずくすっと笑いを漏らして、私はマリカの頭も優しく撫でてあげました。マリカは目を細めて私の手にすり寄ってくる。なんだか大きな子供みたいです。
カザリアから連れてきたマリカ以下三名の侍女とアルト率いる十数名の騎士。そこにシャノンが加わりました。
これが今の私が持てる全ての戦力。
だけど、私は何も恐れません。
だって……
「シャノンなんかより私の方がメディア様のお役に立ちますぅ!」
「マリカには無理……絶対……私の……方……」
私に頭を撫でられながらいがみ合うこの二人も、別室に控える他の家臣達も、みんなとても頼もしい仲間ですから。
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