2話 リリイベに行こう②

 晩御飯の片付けが終わって、携帯の画面を見ると花林からメッセージが届いていた。

『今週の土曜、リリイベの参加券取りにいくぞ。四店舗に行くから付き合って』

 

 そんなメッセージが届いていたので、

『秋葉原と新宿だけ行く。大阪と名古屋は流石に行けない』

 と返信した。こういうのに全部行く人がいるというのは聞いてはいたが、身近にもいるもんだな。またすぐに返信が来る。


『こういうイベントって参加しておくと相手にも覚えられるし、今のうちしかこんなイベントやらないかもしれないよ』


 ふと考える。この生放送を抜かせば浅舞の姿や声を聴く機会をあるのだろうか。

 アニメに出演する情報もなければ、今回のような配信番組に出る情報もない。このイベントを抜かせば見る機会がないのではないだろうか。

 

 風呂に入りながら悩んだ結果、『行く』と返事した。まあどうにかなるだろう。


 土曜日、指定された時間に新宿の店舗に行く。時刻は八時、店舗が開くのは十時までなので二時間は待つことになる。

 なんでこんな時間から並ぶのかというと、早く次の店舗に移動する為らしい。それはそうなのだが、果たしてそこまでする意味があるのだろうか。


 店舗に着くと、それらしい人達がすでに十人ほど並んでいた。今まで開店前に並ぶという経験がなかったが、みんな考えることは一緒なのだろうか。


「おーい遅いぞ。早く並ばないと他の人にドンドン抜かされるぞ」

 ゼリー飲料を飲みながら花林に怒られる。いつから来ていたんだろうか。顔には少し汗が見える。


「悪い。こんなに並んでいると思わなかったよ。これって普通なのか?」

「普通かどうかは知らないけど、私にとってはよくあることだよ。後ろにどれくらい並ぶかはわからないけど、それなりの人数にはなるんじゃないかな」


 今日は帽子を被って、荷物も多いようでリュックも少し重そうだ。

 天候は快晴、八月下旬だが気温はいつも通り三十度を超えるのでスポーツドリンクとか着替えを持っているのかもしれないな。

 待ち時間は生放送の感想を話すか、今期のアニメについて話して過すか、携帯電話を触るか、そんなことをしながら待ち時間を過ごした。

 たまに後ろを見ると徐々に人が増え、お店のスタッフからも少し列を詰めるよう協力を求められた。開店時間の頃には後ろに三十人ほど並んでいただろうか。 

 店員に誘導されて店内に入る頃にはもう汗だくで、室内のクーラーが人生で一番と思えるほど快適に感じた。


 並んでいた順にレジでCDを予約していく。

 どうやら前に並んでいる人達は全員CDを二枚予約していた。二部共参加する人はそういう買い方をする用だ。

 俺と花林も同様に二枚予約し、代金を払った後に参加券を受け取る。書かれていた番号は両方十二番だった。


 その後は店を出てすぐに駅に向かう。クーラーが効いた店内を出るのは名残惜しかったが、俺達にはやるべきことがあるのだ。

 改札を通り、秋葉原へ向かう電車に乗る。十数分したら下車し、目的の店舗へ向かう。

 冷房の効いた空間と三十度越えの外を短い時間で出入りするのは少しだけ気持ちいい。服が汗を吸ってしまっているのは気持ち悪いが……


 この店舗でも列に並ぶことにはなったが、店舗の中で待つことができただけさっきよりはマシだった。

 列の前方には新宿の店舗で前にいた連中がいる。やはり考えることは同じようだな。

 九十番代の整理番号を二枚受け取り、東京都内で受け取れるお渡し会の参加券を確保できた。

 だが、俺達というより花林はそれだけで満足はしない。ここから新幹線に乗り大阪へと向かう。

 新宿に先に行ったのは東京駅へ行くには秋葉原駅から行ったほうが早いからである。

 時間としてはそんなに変わらないと思うが、あまり意見する気もないのでそのまま付いていくと決めているので、気にしないことにした。


 正午前の新幹線に乗り大阪へ向かう。ただ、その前にお互い着替えをした。

 炎天下で並んでいる最中、タオルで汗を拭いてはいたがシャツは汗を吸い重くなっている。


 一応着替えは持って来ていたのでトイレでシャツだけ着替え、ウエットシートで汗を拭く。

 これからの移動は冷房が効いた空間なので、風邪を引かないようケアはしておく。お互い着替え終わったところで合流し、新幹線の自由席に乗った。

 

 今まで現地集合、現地解散が当たり前で帰りの電車でも同じ車両に乗ろうとはしなかった俺達だが、今回ばかりは隣に座った。

「だって隣に知らない男が座ってきたら気持ち悪いじゃん。それならアンタが隣に座って、それを防いでくれる方がいいんだよね」

 理由としてはそうらしい。つまり魔除けってわけだ。

 お互い用意した昼食を食べ、モバイルバッテリーで携帯電話を充電する。

 俺はホームの売店で売っていた駅弁を買ったが、花林はコンビニで売っているパンを食べていた。朝の時点で予め買っていたんだろうか。レジ袋が駅にあるコンビニとは違うようだ。

「あっ、秋葉原の参加券枯れた。早く行っておいて良かったー。新宿もそろそろ枯れそうだね」

 花林が携帯を見ながらつぶやいた。

「枯れたってどういうことだ?」

「無くなったっていう意味。参加券とかグッズの在庫が無くなった時に使うけど、アンタ知らないの?」

 そんな一般用語のように言われれても困るな。オタクには知らない用語がまだまだたくさんあるな。


「でも、花林の言う通り参加券配布当日の朝に並んで正解だったな。この調子だと名古屋となんばもすぐに枯れるんじゃないか?」

「私の調べたところだと今時点でなんばは五十番代、名古屋はもう少しで三十番代までいくね。

基本的にオタクは関東地方に多いから都内の参加券は先にとっておいた方がいいの。

今回の優先度だったら大阪、名古屋の順番になるからその順番に回るだけ。

今はまだ余裕ありそうだけど、イベント当日、下手したら今日中には参加券は枯れてるでしょうね」


 昼食のパンをムシャムシャと食べながら花林はそう語る。俺よりもこういうことに対しての経験があるからわかるのだろう。ただ、こういう経験はこれだけにしたいのが本音だ。


「それにしてもブルームってそんなに人気のあるユニットなのか?お披露目イベントを見た感じだとまだまだって気がするけど」

「どうだろ。でも注目度は高いかな。次にブレイクする声優ユニットって言われてもいるし後は単純にメンバーと話したいっていう人もいるんじゃない?」


 そういう理由なのか。そういえば最近はあまり新しい声優ユニットって出てきていないな、とは思っていた。

 俺が知らないだけで注目の存在なのだと認識した。少しするとウトウト、としてきた。花林にもたれないように少し休もうか。

 疲れた。

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