1話 オタクなんて辞めてやる④
翌日、待ち合わせ場所に向かおうとしたら駅の改札口でばったり花林と会った。というより、ずっと同じ電車の違う車両に乗っていたのは知っていたので、会場の最寄り駅で会ってしまうのはだいたいわかっていた。
「まあ、こうなるよね。地元が一緒だと面倒臭いわ」
ため息交じりにそう言われる。それはこちらも同じだ。昨日も結局、せっかく現地解散したものの同じ電車の別車両に乗って、家までも別々に帰ったんだ。
「ったく、面倒だな。まあ、でもこれで最後だよ。ところで、今日のユニットメンバー、昨日のイベントに出てたよな
「あーそうそう。声優デビューして3年目くらいで、メインキャラはあれが初めてだったんだよね。言ってなかったけどあの娘目当てで昨日のイベント行ったんだよね。なんか行動一つにとっても目が離せなくてさ」
「あーなんかわかる。配信番組とかでも人気出そうだよなー」
今は声優の映像付き配信番組は数え切れないほど多くある。動画配信サイトでの生放送、もしくは収録番組も年々増えていっている。
アニメやゲームの活躍で注目される声優だけでなく、そういった配信番組から注目されて人気が出ていった声優も少なくはない。市川は恐らくアニメの出演も増えてきているので、いずれラジオやら映像付きの配信番組を持つことになるだろう。アニメやゲームだけでなく、多方面に人気が出る声優になるのではないだろうか。
話しているうちに本日の会場であるライブハウスに着く。キャパシティはオールスタンディングで二百人程度、お披露目イベントとしては少し大きめな会場のような気もした。整列番号は三十番代なので何事もなければ客席の前方で見れるはずだ。すでに入場列の整列時間になっているので自分の番号を伝え、列に入れてもらう。
五分もすればチラホラと俺達に視線を向けられる。視線を集めている理由は恐らく花林だろう。髪は短め、パンツスタイルではあるが、女性というだけでこういった場所では気にしてしまうものだ。当たり前だとは思うが女性声優が多く出演するなら男性ファンが多く集まり、男性声優が多く出演するなら女性ファンが多く集まるのが基本だろう。もちろん、それにあてはまらないケースもある。それが花林というだけだ。やはり俺含めて女性慣れしていない人にとっては気になるし、気を使ってしまうものなのだ。
その事を花林に話すと
「えっ、そうなの?私はあんまり気にしないけどな。あー、でも両隣の人は私に近づこうとはしないかな。少し遠ざけられているような、そんな気はする」
と本人にも少し覚えがあるようだった。
俺が逆の立場になったら変な意味で視線を向けられるのかもしれないな。
入場時間になり、順番に入場し、ドリンク代を払ってメダルをもらい、そのメダルでドリンクに交換してから客席に入る。ドリンクと言っても交換してもらったのはペットボトルの水だ。ドリンクをもらったことによる遅延で三十番代よりも少し後ろの順番になった気がする。ドリンクをもらうかもらわないかはその人の自由なのでその辺は気にしない。
入場した後は花林との会話は特になく、お互い携帯の画面を操作しながら過ごした。会場直後に客席の後方を見ると、半分以上は埋まっているようだった。事前情報だと多くは市川のファンで他のメンバーのファンも勿論いるが少数で、残りは新人声優の青田買いで来ている人のようだ。これから動き始める新人女性声優四人組ユニット、このユニットが人気が出たら『お披露目イベントに行っていた』と言えるわけなので先行投資をしたい人達もいないことはないのだ。
開演時間になると、ビーっと長い音が会場に鳴り響く。これは今回のイベントが開始されるという合図だろう。その音が流れると周囲の人間は手に持っていた携帯をしまい、ペンライトを手にし始める。一分もしないうちに暗いステージに四人が集まり、数秒後音楽が流れるとほぼ同時に四人にライトが当てられる。その瞬間、歓声が上がる。
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