1話 オタクなんて辞めてやる②
駅に着き、改札前で懐かしい顔を見かけて思わず声をかける。向こうは俺の顔を見た瞬間に険しい顔を向けた。
「なんでそんな顔をするんだよ。別にやましい事はないだろ。成人式の同窓会以来じゃないか」
「あー、それ以来だっけ。なんか年齢を重ねると昔から知っている人に会いたくなくなったんだよね」
中学までの同級生で、小学生の時は同じ登校班として六年学校に通った同級生はそう答えた。どうやら俺とはあまり話したくはないようだったので、電車に乗ってどこに行くのかも聞かず、簡単に別れを告げ、改札を通り電車に乗った。
電車を二回乗り継ぎ、イベント会場付近で軽く昼食を済ませた後、会場に向かう。会場に着いたらすぐに入場する。イベント開演まではあと十五分、今までは開場とほぼ同時に入るようにしていたが、モチベーションが低いこともあってか少しゆったりとした行動をしてしまった。
チケットに書いてある自分の座席を確認しながら座席を探す。前方の通路側という事前に確認した場所にたどり着くと、俺の席には誰かが座っていた。
たまに自分の席を間違えて座っている人がいるんだよな。悪気がある人もいるから念の為強めに言っておこうか。その人の肩を二回叩き、声をかける。
「すみません、席を間違えていませんか?僕の座席ここなんですよ」
そう言って自分のチケットを見せながら、相手の顔を見る。その瞬間、お互いに思わず変な声が出てしまった。それはそうだ。つい数時間前に地元の駅で顔を合わせた彼女と顔を合わせたのだから。
まさか彼女がアニメイベントに参加しているとは思わなかったし、こんなところで顔を合わせることなんて想像もしていなかった。
彼女は、「すみません、すみません」と言いながら荷物を持って席を移動した。顔も知らない他人を装っているようだった。そこまでされると少し寂しいような気もする。
イベントはいつも通り楽しかった。ご報告について少し触れる場面もあり心が少し痛む場面もあったが、最後に元気な姿を直接見れたのはファンとしては嬉しかった。
イベントが終わり、席を立とうとすると、肩を二回叩かれる。振り向くと席を間違えた彼女がいた。
「やあ。席を間違えてしまったお礼にご飯でもおごらせてくれないかな?少し話したいこともあるんだ」
少し怖い笑みが含まれたその言葉に逆らえず、ご飯をおごってもらうことにした。
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