第3話「狩る者から、狩られた者へ」
頭にのしかかるような重い痛みによって、男は眠りの底から無理矢理引きずり出された。
瞼を開けようとして、あまりの眩しさに顔を顰める。
背中から伝わる硬さと、体の痛みから、自分が寝かされている場所はベッドではなく、木の板か何かで作られた台の上に直接寝かされていることがわかる。
ここがどこなのかを把握するために、男は体を起こそうとして顔を強張らせた。
手も足も、何かで固定されているらしく、まったく身動きが取れない。
頭をできる限り上げ、顎をひき、自分の体がどうなっているのかを恐る恐る確認する。
「は?」
服どころか、下着すらも身に着けていない。しかも、大きく足を広げられ、足枷で固定されていた。
「なんだよこれ」
両手も万歳の格好のまま動かすことができない。足と同じように手枷で固定されているようだ。
首を動かし左右を見る。辺りは真っ暗で何も見えない。
室内はシンッと静まり返っているが、いやにたくさんの視線を感じる。
男は言いようのない居心地の悪さを感じた。
天井に備え付けられたスポットライトによって、自分だけに光が当てられている。
『今から何が起こるんだ? それより……どうしてオレはここに?』
男は心を落ち着かせようと、大きく息を吐いたタイミングで部屋中の照明が点灯した。
真横に誰かが立っている。その誰かがマイクを使って声を響かせた。
「LADIES AND GENTLEMAN!」
どこかで聞いたようなハスキーボイスだ。彼のひと言で四方八方から歓声が沸く。
男が寝かされている台の周辺には、ボクシングのリングのように四方をロープで囲ってあった。
ロープの向こう側には、タキシードやドレスといった正装をした紳士淑女が大勢集まっている。彼らは全員、目と口の部分にだけ小さな穴を開けた黒頭巾を、頭から肩までスッポリと被っていた。
「これは何かのショーか? それとも宗教団体の儀式か?」
男は自分の横にいる司会者を見上げた。
「ひっ!」
目に飛び込んできたのは、耳まで裂けた真っ赤な口だった。恐怖に頰を引き攣らせながらも、男は自分を見下ろす顔を凝視する。
自分よりも遥かに若い。
年の頃は十代半ばくらいか。
やけに冷めた目はカラーコンタクトをしているのか赤い色をしている。
鼻筋の通った綺麗な顔立ちと、ライトに照らされキラキラと輝く白髪と相まって、まるで妖精のようだ。
けれど、その美しい容姿にはそぐわない醜悪な部分にどうしても目がいってしまう。
男の視線に気が付いた少年は、耳元まで裂けた口から真っ赤な舌を出して、舌なめずりをした。
その仕草を見た男は背筋に寒いものを感じ、ぶるりと震える。少年は怯えたような顔を見せた男の姿に満足したのか、顔をあげてマイクを口元へとあてがった。
「
裂けた口から微かに空気が漏らしながら、少年が異国の言葉を放った。それと同時に、割れんばかりの拍手と、大歓声が沸き起こる中、部屋の四隅に天井からモニターが降りてきた。
厳かな儀式というよりも、これからショーが始まるといった雰囲気だ。
男は困惑した表情で少年に尋ねた。
「なあ。いったい今から何が始まるんだ? オレはいったい、何をされるんだ?」
男は縋るような目で少年を見つめた。少年は自分の着ている真っ黒なスーツの内ポケットから一枚の紙きれを取り出した。
紙に書かれている内容を見せてくれるかと思いきや、少年は軽やかな動作で台の上へと飛び乗った。そして、大股開きにされている男のあられもなく曝け出されている股間を隠すかのように足と足の間に立つ。
「その紙に何が書かれているんだ?」
男の問いに答えることなく、少年がマイクを使って声を響かせる。
「罪人、樫村 遊馬。罪状、強姦致死傷罪」
高らかに告げられた自分の名前と罪状が男の――樫村の鼓膜を震わせた。
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