第32話
1LDKのアパート。
寝室のベッドにはいつものように、私とナツが一緒に布団に入った。
寝室の隅っこに客用の布団を敷いて、そこにヤヨを寝かせた
ヤヨは何かに怯えて体を震わせるばかりで、自分と桜のことについて、何も説明できなかった。これまで、誰にも明かさなかった秘密を話してしまったのだから、さぞや怖くて仕方ないに違いない。
親は、弥生と桜の入れ替わりに気付かなかったのだろうか。親なら双子の顔の違いくらい見分けられる筈、そういうものだと思っていた。ヤヨと桜だって、並べてみれば決して全く同じではない筈なのに。
しばらくは震えているヤヨを、ナツと二人で見守っていたが、30分もしないうちにヤヨは眠りについてくれたので、私とナツも寝ることにした。
「ヤヨ、ピンクの髪で、メイクも割と濃くって、あたし、今日、初めてヤヨの素顔を見た。全然違う子だったから、さっきからずっと驚いてる」
私の隣で私の腕にしがみつきながら、ナツがつぶやいた。
「高校に入って1年半も、あたしは自分と一番仲良しなのはヤヨだと思ってた」
「でも、あたし、ヤヨのこと全然知らなかったよ、ユカちゃん」
「あんなに、助けてって、ヤヨが言ってたのに」
「聞こえなかったなんて」
「気付いてなかったなんて、あたし」
ナツの頭を抱え込むように抱きしめてやった。
甘ったれの狂犬は、友達のことをちゃんと慮れる子でもあって、私は嬉しかった。
「……ナツ」
小さな声で名前を呼んだ。
「何?」
「あんた、自分で言ってたよね、言わなきゃ助けてあげられるか分からないって」
うん、と小さくナツは頷いた。
「ヤヨが、今日、自分と桜が入れ替わっていたことを私たちに話そうとしたの、それこそ命懸けなくらいの覚悟だったと思う。……だからね、私は、ヤヨを強い子だと思った」
うん、ともう1度ナツが頷いた。
「ナツも、そろそろ覚悟を決めて、私に話しな。あんたが私に話せないでいること。私だって教えてくれなければ助けられないよ」
ぴくりとナツが震え、私の胸元にあった、その手が強く握り締められた。
ナツにも抱え込んでいる秘密がある。
「ナツには、入れ替わるような双子の姉妹はいないって知ってるけどね」
そんな風に少し茶化してやって、今の緊張をほぐしてやった。ナツの拳が緩んだ。
「ヤヨのことが落ち着いてからでいいから」
ナツは返事をする代わりに私の胸に額をぐりぐりと押し付けて甘えてきた。私は私で、ナツのサラサラの金髪に指を差し込んで、髪を梳くようにしながら頭を撫でてやる。頭を、肩を、背中を撫でてやる。
「ナツ、あんたの秘密がどんなんでも大丈夫。私は一緒にいるよ」
微かに、ナツは頷いた。
_______________
「あ、金谷、悪い。今、大丈夫?」
昼休みに県警県民安全課の婦警である金谷に連絡を取ってみた。
『昼休みだから、大丈夫だよー。もうご飯食べたし』
一晩家に泊めたヤヨが、もう帰れない、と震えるのだ。連絡を取るのも怖いらしい。
「いやあ、ナツの同級生を行きがかり上、家に無理やり泊まらせてさあ」
『県条例法違反の次は、掠取誘拐か』
「そんな感じー。事情をうまく話せないんだけど、正直、虐待とか疑っててさ」
『子ども相談所に通報する案件かな』
少なくとも双子の妹との関係性に問題はあるらしいが、親との関係性まではよく分からない。下手に親と連絡を取ってヤヨがまたキツい思いをするのではないかとか、あれこれ考えてしまう。何かいいアイデアがないかと思って金谷に連絡を取ったのだ。
『侑佳、ちょっと待って、友達って名前分かる?』
「個人情報」
『青島弥生?』
「……」
沈黙は肯定になる、のだが、黙ってしまった。
『侑佳、怒らないで聞いて欲しいんだけどさ、棗ちゃんさ、クス……』
「ナツはクスリなんてやらない!!」
被せ気味に怒鳴った上に、電話を切ってしまったので、慌ててすぐにリダイヤルした。
ナツの短気が感染したかもしれない。
『侑佳、切んないでよぉ。話の途中なんだから』
「ごめん、でもナツは、やんちゃな格好してて、乱暴で、無愛想で、最近甘ったれにも程があるとか思うけど、タバコも吸わないし、酒も飲まないよ。あれは、ただのファッションパンクもどきだから」
『……余計な情報が多いけど、分かった』
「本当に?」
『施設帰りで、目立つ
金谷はなんだかんだイイヤツだ。私は頷いた。
「うん、分かった。気を付ける」
『問題は、青島弥生ちゃんの方なんだよ』
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