第23話
ナツの学校は昼からで、私の仕事は午後からだから、すっかり明るくなってから目を覚ました。
隣で裸で寝ているナツに視線を落とす。施設にいた頃より、肩の線が丸くなり、胸も前より大きくなったような気がする。ナツの体付きはすっかり大人になったのに、寝顔は子供のままで、アンバランスだ。
そして、私はアラサーで、もう自分が一番綺麗だったピークは過ぎたように思う。ナツを見ていると、いろんな意味で私はもう若くないと思わされる。
そんなことを思いながらナツの肩を撫でると、んん……とナツが唸りながら私に身を寄せる。
「……ユカちゃん、もう起きる時間?」
答える代わりに、額と鼻とこめかみと顎にキスを落とすと、唇にはナツの方からキスを返してきた。朝からちょっと幸せな気分になる。ナツもそうなのか、口角が上がって、にっこりして、横からキューッと抱きついてきた。
「……ナツ、今日のバイトのシフトどうなってる? バイトのあと予備校に来れる?」
「なんで?」
「模擬試験の結果を渡すから」
げ、っとナツは舌を出してしかめっ面をすると、素っ裸のままベッドから飛び降りた。
「ユカちゃん、ムードなさすぎ!」
素っ裸でキッチンまでズカズカ歩き、大きいペットボトルからそのまま水を飲んでる。そんな子供じみたことをするくせに、ムードとか気にするのかな。そう思うと笑ってしまう。
「何、何笑ってんの」
そう言って、キッチンから戻ったナツはペットボトルをベッドで体を起こした私にそのまま渡す。その動きでナツの口元からこぼれた水が、首筋を経て流れ落ちて、むき出しの胸へと流れ、窓からの光を跳ね返す。
そんなものまで綺麗だと思ってしまうくらい、私はこの子にベタ惚れだ。
「あ、ユカちゃん、コップいる?」
それはペットボトルを渡す前に言え。
__________
真夜中の2階建ての駐車場でカズキは非常階段から突き落とされた。そんな事件があってもオーナーはこの駐車場に防犯カメラも非常ベルも取り付けない。ここは事件が起きて警察沙汰になることが多いと言われてるが、売ってはならない筈のモノが売買される、さしたる理由はないのに人が人を傷つける、筋の通らない理由で人から人に金が渡される、警察沙汰にならない違法行為の方がずっと多い。
「なあ、お前、この薬どこで手に入れた?」
毛先だけが金髪のロン毛の若造に質問する。
「あああああ」
「ああ、じゃ分からんなあ」
地面を掻きむしっていた若造の手を踏みつけ、その指の方に体重を掛けてやると、悲鳴がわんわん響く。でも、悲鳴は誰にも届きやしない。この駐車場は便利だ。誰も来ないし、大抵は
こいつがさっき俺に渡そうとした財布を拾い上げて中身を確認すると、中身はスカスカだ。着てる服も付けてるアクセも安っぽい。貧乏な見窄らしいガキに過ぎない。財布の中にビニールに小分けして錠剤が5〜6錠入っていた。カズキがパクられてから、もう随分経つ。あれだけの量の薬だ、もっと真面目に売ってたら、こんなしょぼくれた財布の中身であるわけがない。
「あやあ、安く、安く、売ってもらいましたああ」
若造がヒイヒイしながら声を上げた。
「で、儲けはどうやって受け渡すの?」
声音は優しくしてやるが、指を踏む足に更に体重を乗せて、足首をこきこきと回す。踏み躙られた指の痛みに唸り声が上がる。
「いいらないて、いらないってえええ、好きに売れってええあああ」
「ふかすなよ。そんなウマい話があるわけないだろう? 」
顔を見られないように方向に気を付けながら若造の頭を蹴っとばした。
コインロッカーを使って薬を売ってる若造をようやく見付けたと思ったが、こんな三下がカズキを襲ったとは思えない。
つまり、このガキは偽装ってことだ。
こんなヤツに売人の役割を押し付けたのか、騙されるわけねえだろうが。
薬を持ってったヤツはバカなのか利口なのか、解らねえなあ。
ま、この若造はもう1発蹴って、口止めして放してやるか。
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