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1 君に惹かれた理由はさ
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最初から自分が人と違うことには気がついてた。
物心ついた時からそれは顕著で、でも表立って騒がれるほどの特異性ではなく、ただ自分一人「何かが違うんだなぁ」って感じるほどにはっきりしていた。
一番最初は何てことはない妹が泣いていた時。
公園で転んで、膝から血がたくさん出ていた。
洗って、消毒してあげなきゃ、と思った。
でもそれは違うらしくて、他の子達が妹の鳴き声につられるようにして泣き始めた。公園で起きた大合唱。悲鳴が悲鳴を呼び一種のパニックに陥ってしまって珍しく母が戸惑っていたのを覚えてる。
そんな中、僕は濡れたハンカチを持ってただ呆然と首を傾げていたんだ。
ただの誰にも共感することはなく、ただの誰にも理解されることない。
母は「ありがとう」と言ってハンカチを受け取ってくれたが、それが僕にとって嬉しいことなのかどうなのかわからなかった。
ただそうすべきだったからそうしただけだし、求められてなかったのであれば必要なかったのだと思っただけだった。
そのあとも同じようなことが何度かあった。
人と違う、人と共感できない。人の気持ちが理解できない。
否、だからといって社会生活を送れないかというとそういうわけでもなく理解できないなりに知ることはできる。人に対する対応策なんてものは大体パターン化されていて、シチュエーションによって組み替えることで難なく実生活は送ることができるし、それで実際問題ない。
腹を割って話す友達がいないわけではなく、割った腹が偽物だっとしてもそれはそれを本心なのだと言い張ればやっぱりそれは本心となる。あんがいい加減なものだ、人間なんてものは。
自分自身が満たされれば物事の本質なんてどうでもいい。
必要なのは相手に自分が共感されているか否か。自分の気持ちを汲み取ってくれているか否かだ。そういった点では母親の教育に狂いはなく。分け隔てなく人と接することのできる性格は役に立った。
少し変わり者だと言われる所以はそこにあるんだろうけど、何かの標的にされるほど変わっているわけでもないからやっぱり僕はその他多数、小市民の一人なんだろう。
人の気持ちは理解出来るが、共感することができない特異性を持った一般人。
だから、本物の特異性。マイノリティーを抱えた彼女に惹かれたのかもしれない。
ありえない非日常に身を投じ、その身自体が非日常に染まっている。
猫に囲まれ猫に懐かれ、猫をそれなりに愛している美少女。
物語のヒロインとしては申し分なく。若干のデレ要素があればラブコメだって可能な存在。
ただ漠然と惹かれ、ただ漠然と巻き込まれただけだけど、そんな彼女のために身を投じるのであれば、こんな非日常も全然ありだろう。
つまり僕は、
「あなたと対峙することにしました」
今夜、僕は非日常と向き合う。
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