6 僕と私の関係
「……殺処分。実行です」
ぶちぃっと、聞いたこともないような音と共にその首が握りつぶされた。
「ほいっ」
細くなった線を一閃が走り、ねじれた胴体はちぎれて地面に落ちた。
「まさにメデューサってところですか」
小さな頭は手のひらの上にちょこんと鎮座する。その顔は苦痛に歪んでおり、見ているこっちの顔まで歪みそうになる。原型をなんとか止めているだけのさっちゃんの首。先ほどまで動いていた髪はただ風に靡かされるがままに揺れ、意思は感じられない。そのことが彼女の終わりを嫌という程に突きつけてくる。
「さ……ち……さち……!!」
ふらふらと駆け寄り、首のなくなった胴体を抱え起こすが自分の妹とわかる部分は秋堂の手の上だ。痛みや怒りに震えながら見上げた彼の目には、一体どのように映っているんだろう?
「政府の方から改めて通達が行くとは思いますが、ご両親は彼女が殺害した……ということで構いませんね? はい、こちらは返しておきます」
世間話をするかのように、そしてまさにサッカーボールでも返してやるかのように妹の首を兄の元へと返す。……それはあまりにも残酷すぎる光景だった。
「ぼくはっ……!! ぼくはっ、あなたを許さない……!!」
激しく、怒りで燃え上がる瞳。
どうしようもない現実と、どうすることもできなかった事実。
少年には似つかわしくない憤怒の感情と相手を殺してやるという殺気――、
「ぉ?」
――……の半分は篠乃枝さんから発せられていた。
彼女が動けない理由は僕にあるのだけど、恨みの対象は秋堂に向かったらしい。
あとあと八つ当たりされそうな予感はあるけど、でもまぁそれはそれでいいかな。結果的に篠乃枝さんは無傷で終わりそうだし。
「ここで私を刺し殺すというのであれば私は警察を呼びます。あなたは少年院行きです。そうなれば妹さんが覚醒種だったわけですから出てこれる保証はないでしょう」
「なんだか面白いですねそれ、悪役は秋堂さんなのに警察を呼ぶって」
「ふふふ、悪役だなんてひどいですねー。これが私のお仕事なんですよ?」
性格悪いなー。友達少ないだろ、この人。
「タケルくん。悪いことは言わない。妹さんのことは可哀想だけど仕方のないことだよ」
「ッ……!!」
彼のことを思っての発言だったんだけど怒りの対象が僕に向きそうだ。悪いのは秋堂さんなのに。……いや、別に悪くないのか? 街に危ない人がいたらそれをどうにかするのがお役人のお勤めな訳ですし。
……はぁ……、仕方ないなぁ……。
「……タケルくん。そもそもこれは君が妹を止められなかったのが悪い。元を正せば君たちのご両親の問題だったんだろうけど、それでも妹さんを止められなかった君の責任だ」
恐らく、彼らは虐待を受けていたんだろう。
家出や深夜徘徊を行う兄妹の家庭がどこもそうだとは限らないけど、恐らくあの二人は両親による虐待を受けていた。妹思いのタケルくんが妹のさっちゃんを必死にかばっていたんだろう。そんなさっちゃんが思うことは容易に想像がつく。
――お兄ちゃんをいじめないで、だ。
自分も怖かったに違いない。親っていうのはあの頃の年頃にとっては絶対的な存在だから、でも……、
「どういう理由があったにしろ君の妹はご両親を殺した。あのうねうねの髪でね。それは事故だったのかもしれない。情状酌量の処置があり、秋堂さんもそれだけなら見逃してくれたのかもしれない。暖かいベットが待っていたのかもしれない……、けど」
けど、そうはならなかった。街にヒトゴロシが放たれてしまった。
「君は人を殺している。そうだね?」
「…………」
この街に潜んでいたヒトゴロシは三人。
一人はあのうねうね腕男。二人目がさっちゃん。三人目がタケルくん。
「猟奇殺人と普通の殺人は両立しない。隠蔽しようとしてそうしている場合もあるけど、隠す気がさらさらなかったからね」
一人で殺されていた死体はあの男が作り出したものなんだろう。
だけど多分、それも最初の一人か二人だけ。残りの死体は全てこの兄妹の仕業だ。
「妹の後始末をしていたんだろ?」
「…………」
沈黙は肯定だ。
想像でしかないので否定されてしまえばそれまでなんだけど、彼の心を砕くには彼にとっての真実を刺激してやるだけで十分だ。あの子たちは良い子だったから。
「君の妹が作った死体の目撃者を殺していた。それが君の行ってきたことだ。そしてそれは、君が妹を止められなかったからに他ならない」
止めろって方が無茶だけどね、あんな化け物。
それは口に出さないでおく。僕も篠乃枝さんを止めるには殆ど犯罪じみた方法をとるほかなかった。まだ幼い彼にはそんなことは不可能だったんだろう。
「……怖かったんだね、妹が」
「ッ……」
愛おしい妹といえどやはりアレは化け物の類だ。
理性があるのかもわからない。目の前で両親を殺害したソレを彼はどう思っただろう。
冷静を取り戻し、返り血に染まった妹に彼はなんと言葉をかけただろう?「大丈夫、僕が守ってあげるよ」そんなところだろうか。震える体を抱きしめる体が震えていることに気づかれないことが唯一の救いだっただろう。必死にお兄ちゃんぶって妹を守ろうとして、庇って。結局は守ることもできずに膝をつく。
兄貴ってのは面倒くさい立場だからな。でも――、
「……わかるよ、僕にも妹がいるからね」
それでも見栄を張るしかない。例えどれだけ強くても、妹の前では自分は「兄」でいるしかないのだから。
変身すると気性が荒くなるらしいというのは篠乃枝さんを見ていての憶測だ。
一体何がどう作用しているのかはわからないけれど、あの超人的な能力は引き換えに「理性」ってものを削り取っているように見えた。
ただ、欲望のままに人を襲い続ける妹。
それを守るためには目撃者を殺し続けるしかなかった兄。
化け物になってしまった妹のことを誰かに説明する勇気と人を殺す勇気、その天秤の傾きに文句は言えない。それがいくら悪だと言っても、彼にとっては唯一の正義だったんだろう?
それを決めるのは僕にはできない。ただあるのは社会としての罰だけだ。
「……怖かったね。もう、頑張らなくてもいいんだよ?」
「っぁ……」
作り笑いを浮かべると力なくタケルくんの肩が下に落ちた。多分もう、彼に抵抗することはできない。罪悪感はあったんだろう。
妹の死体と、それを作り上げた秋堂という男。
これから恨むことはあってもそれ以上はどうにもできない。
自分の罪は自分が一番よく知っている。彼は自分の殺してきた人々の恨みを自分で背負って生きて行く。訳も分からず殺されちゃった方が幸せだったのかもしれないなぁ……。いや、そんなことはないか。
「心配しなくて良いよ。児童保護施設の者が迎えに来る手筈になっているからネ」
「興味ありませんよ。……そんなことより、そんな恨めしそうな目で見ないでください。正当防衛です」
秋堂さんの視線は冷ややかで、お楽しみの邪魔をされたことに対する非難の声が伺える。
そりゃそうだ。なんならこの人は篠乃枝さんまで巻き込もうとしていたんだから。
「……仕方がない。でも、篠乃枝桜くん? 私を襲うつもりならいつでも相手になるヨ? その時は、しっかり殺すつもりでおいで?」
「っ……」
そんな発言に視線だけで睨み返し、コートを翻して去っていく秋堂さん。篠乃枝さんは何もすることができずただ小さく「許さないっ……」とこぼしただけだった。
静かに二つになった妹の体を抱きかかえ、項垂れるタケルくん。またここにいたところで何にもならないし用事は済んだので篠乃枝さんを抱きかかえ秋堂さんに倣う。
じっとしていれば後始末にやってくるであろう人たちに捕まることになるし、事情聴取とかあるならゴメンだ。現場には居合わせたし、それなりの面識もあるのだけれど、やっぱり僕らは小市民。清き平凡な一般市民だ。殺人鬼やヒトゴロシについてなんて知らないで当然だ。
体の自由が利かない篠乃枝さんは従うばかりだったけれど、しばらく歩いて声を発した。
「……おろして……」
「……ぉ。流石に動けるようになっちゃってる?」
「当然よ……」
少し残念な気もするけれど、それなりに周りの目も気になるので軽く腰を落とし、お姫様抱っこ状態だった篠乃枝さんを下ろす。それでもやはり体に力は戻らないらしく、自分の足で立つこともままならずに電柱に寄りかかってしまう篠乃枝さん。生まれたての子鹿とはこのことを言うのか。それにしてもこの町の電柱は役に立ってるなぁ。隠れるだけじゃぁない、か弱き少女の心を支える。か弱き少女の体を支えてるだなんて電柱サマサマ。もう町のマスコットにしてもいいんじゃないだろうか。電柱くん。
「ねぇ? 無理したって仕方がないじゃん」
「それ本気で言ってるのッ……?」
……噛みつかれるかと思った。っていうのは冗談にしても、勢いのまま胸ぐらでも掴まれても仕方がないと思っていた。だけどそうはならなかった。
「おっとっと」
突き出された腕は宙を切り、もたついた足は踏み外して彼女は僕に飛び込んでくる形になる。受け止めた体はとても軽かった。
「……はぁ」
例えどんなに超人離れした体を手に入れたって、所詮は生き物で、彼女は女の子だ。体に回った薬品は間違いなく効果を発揮し続けてる。気合いでどうこうなるって話でもない。
「彼のことは仕方がなかったと思うよ?」
「だからって……!! だからってあんなのあんまりじゃない!!!」
突きつけられる視線に殺傷能力はなくとも純粋すぎる意思は自分の邪な心を浮かび上がらせる。確かにサチちゃんの死は仕方のないことだとは思う。だけどそれが正解なのかと問われれば答えられない。犯罪者には刑務所を、化け物には殺処分を。
――そういうことなのだと思うほかない。
「篠乃枝さん。君はこの前の夜、あの男の人を殺したよね? それとさっきのこと、何が違うっていうんだい?」
別段問いつめるつもりはなく、ただ当然のことを当然のものとして突きつける。
篠乃枝さんは天然だから、伝わるかどうかはわからない。
だけどコニュニケーションを諦めちゃったらおしまいだろ?
「君と秋堂は立場が違うだけで同じことをしている。違うかい?」
「ちがっ……わないけどっ……!」
いろんな表情を観れるのは楽しい。でもそれで命の危険にさらされるような真似は極力させていただきたい。一般市民のその他多数に属する僕としては命がいくつあったって足りないわけで、妹印の魔法のハンカチはあまり使いたくない。
「あの男の人だってあの兄妹と同じような境遇だったかもよ?」
無論、そんなことはわからない。
尋ねようにも彼はもう肉片になって処理されちゃっているわけで尋ねることはできないし、生きている肉とかいて生肉だったとしてもそれは変わらないだろう。聞く気さえも起きない。生きている肉でも、ただの生肉だったとしても、だ。
「僕の興味は君だけさべいべー」
「ほんと……ふざけていると思うわ」
ふざけているわけではなく大真面目な話なのだけれど、彼女にはそれは伝わらないらしい。
無論、伝えようとは思っていないけど。
「気持ちってものは誰かに伝えるよりも自分一人、大事に抱えていることが大事なんじゃないかな」
「もっともらしいこと言って誤魔化さないでくれないかしら」
「他に言うこともないからね」
でも、もし、もしも、篠乃枝さんが秋堂に襲いかかる気であったとしても、僕にはどうしようもない。
二度目の不意打ちは不意であっても悟られてしまうだろうし、結局のところ根本的な解決になっていない。
あの手この手と手段を変えるのを試し続けてお姫様抱っこしたところで王子様ではなく誘拐犯ってだけのこと。そもそも手段を間違えてる。
「ねぇ、一つ聞いてもいいかな?」
「……なんです」
「篠乃枝さんはどうして正義のヒーローやってるの」
「……はい?」
疲れ果てた顔に困惑が浮かぶ。
おっと、差込口を間違ったかな?
「君はこの街の平和を守るためにあの男を追ってたんじゃないの? 違った?」
腕をうねうねさせてジェスチャーで人を表す。
とはいえ、半分確認のようなもので半分もう確信してるし、この質問は間違ってるのはわかってる。
「……違うわよ」
ほらね。
「……わたしは……そんなんじゃないわ……」
ボソボソと、自分自身を誤魔化すかのように呟く言葉。
いつも不機嫌そうな顔をしている篠乃枝さんだけど、彼女はこれはこれで表情豊かというかただの照れ屋さんというか。
「じゃあ、どういうの?」
「っ……」
つつけば突いただけ反応が返ってくるのだから、これほど揶揄い甲斐のある人はいないと改めて思う。あー、楽しいナー。棒読みだけど。
「君はさ、あの兄妹が無実だと信じてたみたいだけど残念だったね」
「……別に……、そんなんじゃないってば……」
「ふーん?」
助けられなかった罪悪感。
止められなかった無力感。
信じたかったが故に後手に回ってしまって、結局のところ疑ったほうが助けられたんじゃないかって感じだろうか。
……難しいなぁ、生きるのって。信じることと疑わないことは同意義のようで別物なんだろう。
信じたいから疑わないのか、疑えないから信じるのか。
今となってはもう兄妹は半分になってしまったわけだけど。
あの男を探していたのは兄妹の無罪を確信するため。
この街で起きる犯罪を終わらせる為ではなく、人を襲っているのが兄妹ではなく他の何者かなのだということを確信するため。
篠乃枝さんの夜のパトロールはそれが目的だったんだろう。
街の平和よりも自分の平和。自分の平和は自分の世界を守ることだ。
篠乃枝さんとタケルくんたち兄妹の繋がりはわからないけど、彼女なりに心配していたんだろうなぁ……。
家庭の事情には踏み込めないけど、心配……か。……実に中途半端だ。偽善と言われても仕方がない。
守るつもりなら方法が間違ってる。前提が間違ってる。
遠くから見守るべきではなかった。無理矢理にでも抱え込んでやるべきだった。
それができなかったのは、それが彼女の限界だったんだろう。
……所詮はやっぱりただの女の子なんだよなぁ。
「ゆがんでらぁ」
「……?」
ほんと、面白いなこの人。
「ねぇ、篠乃枝さん? 篠乃枝さんはこの後どうするつもり?」
タケルくんはもう安心してるっていうか、解放されたっていうか。妹の災難からはぽいちょされたわけだから、彼らのことは放っておけばいい。彼を保護すべく大人たちは動き出しているわけだし、僕らがしてあげれるのは彼を守ることではなく待つことだ。
施設から出る日を待ち望み、会いに行ける日は会いに行ってあげる。
それぐらいしかできることはないだろう。
どうせ秋堂さん含む関係者を皆殺しにする、なんてことはできないんだろう。彼女には。
そんなことになったらそれこそ秋堂さんの思惑通りだし。
「秋堂さんは君が復讐に来るのを望んでるわけだけど、襲うの?」
「……襲わないわよ、私をなんだと思ってるの」
「だと思いたい」
ふらふらと僕から体を離し、自分の足で帰路につく。
肩でも貸して支えてあげるべきなんだろうけど、触れた途端に弾き飛ばされそうだなぁ。
ぽつりぽつりと点在する街路灯は夜に染まった街を照らし、うっすらと僕らの輪郭を浮かび上がらせる。
「……貴方って、やっぱり変わってるわ」
「へ……?」
思いもかけない言葉に首をかしげる。
「こんな事になってそんな風に笑っていられるだなんて、ちょっと頭おかしいんじゃない?」
もしかするとそれは彼女なりの精一杯の反発だったのかもしれないし、その言葉は確かに僕の胸のうちにずしーんと突き刺さってはいるのだけど。
「平気なものは平気だからなぁ……?」
それに取り合うほど僕も暇じゃない。
「そういうところ、どうかしてると思います」
「そうだねぇ……」
実際問題どうなんろう。変わり者の自覚はあるけれどそこまで面と向かって言われると照れるな。
「そういうところ、むかつきますね」
「およ」
どん、と拳を胸に打ち付けられた。口元は拗ねて上目遣いに睨んでくる。
やばい、とても可愛いです。はい。
「むかつくってどうして?」
「わかってるでしょ。こんなことになって……、平然としていられる方がおかしいわよ」
なるほど。それもそうか。
とはいえ、僕自身はどんなことにもなっていないのでそれに頷くのはかなり難しいんだけど……。それは言わずにおこう。ますます機嫌を損ねかねない。
「私たちって一体なんなの? なんでこんなことになってるの……? わけわかんない……」
俯いて顔を隠す姿はやっぱり女の子だ。あの怪物の面影はどこにも感じられなかった。
突然体が変身するようになって、しかもそれで「駆除」される羽目にもなって。
まぁ、普通に考えたら責任者出てこいこのやろーって感じなんだろう。その責任の在りどころが分からないから彼女はうじうじしてる。そりゃそーだあの秋堂さん殺る気まんまんだったし。どうみても責任取ってくれそうな感じもしない。
だから彼女は僕を必要としてくれてるんだろうか。
同じ悩みを抱える僕を。……彼女にとっては勘違いなのに。
「とりあえず、僕は君の味方だよ?」
誤魔化すように笑ってそう答える。誤解部分は曖昧に誤魔化して。本当のところはさてはてさて、どうでしょう?
そんな風にヘラヘラしていたら落ち込んでいた顔が拗ねはじめた。効果はてきめんの様だ。
「……やっぱむかつく」
「あら、そう」
でも僕の想いは通じなかったらしい。割と本音だったんだけど。
再び歩き始める背中は当然のように小さく暗闇の中に溶けていってしまいそうだ。
「ねぇ? 今晩、うちに来ない?」
だからその背中に向かって提案してみる。
「……はい?」
「沈んだ時に一人になるのはよくないよ。妹がカレー作ってくれてるハズだからさ。どう?」
兄離れがまったく進まない困った妹だけど、料理の腕前は自信を持って推すことができる。最近じゃ母も妹に料理の教えを請うぐらいで、全くもって兄好きがどうにかなってくれさえすればいつでも嫁に出せるのに。
「……いきなり“あんなもの”を押し付けてくる人を信用しろって言うんですか」
一理あった。もうそれはもう当然のごとく一理ありすぎた。
護衛の為とはいえ、全身の自由を一時的に奪われるようなものを押し付けられれば身構えるのは当然だろう。というか、これでほいほいついてきたら流石に篠乃枝さんも天然が過ぎるってものだけど。
「平気だよ、うちには妹もいるし僕が篠乃枝さんに何かしようものなら妹が黙ってない」
実力行使で篠乃枝さんを排除するか、嫉妬に暴れ狂って僕が締め上げられるか二つに一つだ。個人的にはどちらも推奨できないので大人しくできた妹であってほしい。
兄が女の子を連れ込んでもにこやかに対応してくれる心優しい妹で、だ。
……できれば母にも内緒にはして欲しいところだけど。
「放任主義だから親は気にしないと思うよ?」
平気で1日2日、家を空けて出歩くような人だから。
「……信用して、いいのかしら……?」
「……さぁ? どうだろ?」
僕への警戒心がどの程度のものなのかわからないけど、いまの彼女に頼れる人もいないのも確かだ。少なくとも、夜のパトロールに出会ったばかりの僕を駆り出すほどに彼女の交友関係は壊滅的と見た。
これは猫好きな祖母の受け売りだけど、猫が好きな人は孤独を抱えているらしい。
孤独を抱え、それでも人との馴れ合いをよしとできない複雑な心境が彼らの生態系にマッチしてチョベリバなのだと祖母はよく言っていた。
後半は必要無い僕のアレンジだ。意味がわからない。
「少なくとも僕は君を信用しているし、できれば変な気を起こさないように監視しておきたいってのもあるかな」
結構な激情型だからなぁ。このまま返せば闇討ちにでも出かけそうな気がする。
「……わかった……。お邪魔させてもらうわ……」
「んっ」
暗い表情は帽子のつばでいつも以上に影が落ちている。室内でも外さないんだろうなぁ、この帽子は。
そんなことを考えていた僕は自宅に着いてから仰天する事になった。
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