〇3
1 守りたい、この笑顔
● 3
あまり難しいことはわからない。
大切な人がいて、その人が泣いていたらどうにかしてあげたいと僕は思う。
慰めて泣き止むのなら頭を撫でてあげるし、袖を引っ張ってくるならそのまま抱きしめてあげる。
駄々をこねるようなら時には叱ってやればいいし、言葉で通じないなら黙って傍にいてあげればいい。
頭じゃなくて経験でそういうものだって知ってた。
なんで大切なのかとか、どうして大切にしなきゃなのかとか、そういう問題じゃなくて、ただ僕が大切だと思うから大切なわけで、それを人にどうこう言われたところでどうしようもない。守ってあげたいとか、どうにかしてあげたいって気持ちは理屈じゃなくて心で生まれるものだと僕は思うから。
だから、最初“そうされた”時もあんまり難しいことは考えてなかった。
ただなんとなく、どうすればいいかよりもどうするべきなのかが先に出てきて、頭でわかるよりも先に体で動いていて。守るためには自分を義勢にしないといけないのは当然で、その時の僕には自分を守る力はなくて。それで困らせちゃうことになるのは後々わかったことで、結局そのことでも困ることになるのだけど、やっぱり何も出来ないよりも何かできてる方が安心できた。
体の傷が増えるたびに、心の傷も増えていった。
体の傷口がふさがるたびに、心の傷口は大きくなっていった。
自分の中で得体の知れない“化け物”みたいなものが鼻息を荒くしていて、気をつけないとそいつに体を乗っ取られてしまいそうになる。
叩かれ、蹴られ、踏みつけられてその足を噛みちぎってしまいそうになる自分を必死に抑えて、その守りたい気持ちは一体誰に向けられたものなのかもわからず、ただただ守り続けた。
でもそんなことは長く続かない。
一度生まれ落ちた怪物は知らぬ間に大きく育ち、僕の中でその時を待ち続けていた。
どうしようもないことが続いて、どうしようもなくなって、どうしようもない状況で、どうしようもないとわかってしまった時。それはすでに手遅れで、どうしようもなかった事がさらにどうしようもなくなるのを止められなかった。そうなってしまったらもうどようしようもなくなるまでどうしようもし続けるだけの話で、僕は人を殺し続けた。
そう、大切な人を守るために。
あまり難しいことはわからないから、この先どうなるのかはわからないけど……。
ただ、この笑顔を守りたかった。
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