第12話:異世界の洗礼
初夏の陽気が
「こ、これが、
その荘厳な美しさに思わずこぼれる独り言。
でも、今日からここが私の職場。
私も宮人となり、ここで寝泊まりすることになるんだ……。ここから、宮廷音楽宴に出場するという次の夢へとつながってゆくんだ……。
そんな実感が、今更ながら心を覆う。
「よし」
そう小声で
「
「そんなこと言われましても……、私は今日から宮廷楽士として働く
「
一人の門衛さまが、もう一人にそう話しかける。しかしその門衛さまも首をひねるばかり。
「そういうことだ。悪いな、今すぐ消えろ」
門衛さまは追い払うような仕草で私に手を振ってくる。しかし私は必死に食い下がる。
「待ってください。この宮廷印章を見てください。迎夏節の音楽宴でいただいたものです。信じてください……」
「あぁ、よくできた偽物だな。お前がちゃんとした格好をしてきたら俺も
するとその時「大丈夫かい、
「じ、
そうだ、私はあの時、
「こ、これは、
「あぁ、おはよう。ところで、私の大切な友人が、お前に何かまずいことでもしたのかい?」
「いえいえ、なんでもございません。どうぞ
門衛さまはそう言って、深々と頭を下げながら道を開ける。
すると
◇
「あの……、助かりました、
朱雀門を
いや、その表現は少し正しくないかもしれない。なぜなら、目の前にあるものが、あまりにも圧倒的で、私は言葉を失っていたのだから……。
そう、いま私の目の前にあるのは、金箔で飾られた朱塗りの柱、玉石で精巧な彫刻が施された石畳、そして琉璃瓦の鮮やかな色彩の屋根。すべてがすべて初めて見るものばかり……。
「こ、これが宮廷……」
その豪華さに圧倒され、私は思わず心の中でそう
しかし
「ど、どうしたのですか、
その瞬間、
「
「
その言葉に「はい」と素直に答えた私は、
◇
まず服装について、宮廷内では必ず指定された朝服を身に着けなければいけないとのことであった。
また、私は三級楽士として、特級、一級、二級の楽士さまよりも派手な格好をすることは許されず、
そして高位の人物の前では、背筋を伸ばして礼儀正しく振る舞わないと命にかかわるとのことであった。
つまり、たとえ私が
そのとき私は、
そして着替えが終わるか終わらないか、ちょうどそんな時、部屋の外から「
その声に「はい、
そして「これで準備は終わりです。
その言葉を聞いて部屋に入ってくる
「ごほん……。じゃあ三級楽士がいる
そう優しく微笑みかけてくれる
「そうか、それならばよかった……。あと、この建物から出たら、質問されるまで決して自分から話さないこと。これは絶対に守ってくれ、
そんな優しい
その瞬間、私は自分が夢の入り口に立ったことを実感する。
そう、これから楽士としての実力をつけていければ、年始に行われる宮廷音楽宴に出場するという夢もきっと叶う。だからこれから必死に頑張ろう。そんな決意と希望が、今の私の胸の中には満たされていた。
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