第13話:仮面の向こう、世界の向こう
「さぁ、いこうか、
初夏の陽光が真上から降り注ぎ、石畳を白く照らしている。そして空を見上げた
「今日も暑くなりそうだ」
そのとき右手に伝わるのは
私はそんな右手に少しの恥ずかしさを感じながらも、導かれるまま、その道を進んでゆく。
「さぁ、ここだ。この建物だ」
さっきまでいたお屋敷と比べると数段落ちるものの、
そんな宮廷独特の建物に圧倒され、私は思わず息を呑む。冷たい汗が、じんわりと背中に
「大丈夫だ。安心しなさい」
そんななけなしの勇気をいただいた私が、
すれ違う人々が皆、驚きの表情を浮かべている。そして私をじっと見つめてくるのだ。
だから私は、そんな視線に耐えきれない。心の中は申し訳ない気持ちですぐにいっぱいになり、みすぼらしい自分がどんどん情けなくなってゆく。
「さぁ、ついた。ここが
「
聞きなれないその言葉に、私は思わず言葉を返す。
「あぁ、説明していなかったか……。すまない、すまない」
「三級楽士は、
すると目の前に広がるのは、ところどころ塗料が
その格式のある光景に、思わず私は圧倒される。しかしそれ以上に圧倒されたのは、戸が開いた瞬間に巻き起こる驚きの声。
「じ、
そんな声を代表して、初老の白髪の男性が
「この子が迷子になっていたから、ここに連れてきただけさ」
そう言葉を続ける
するとその刹那、楽士団長さまは私の存在に気がついて、少しの冷静さを取り戻したかのように私のことを話題に上げる。
「あぁ、この娘が
そんな楽士団長さまの言葉に、
「では楽士団長、あとはまかせたから……。それと、
◇
そしてその
「なに、あの田舎者。よりによって
「あんな田舎臭い女が宮廷楽士だなんて、
そんな容赦のない言葉が徐々に教坊を包みこむ。そしてその声はどんどん大きくなってゆき、私は、自分の心が押し潰されそうになってゆくのを実感する。
市井の私が宮廷に入るのだ。だから、ある程度の
しかし、これは私の予想をはるかに超えている。いままで経験したことのない憎悪が、私ひとりに向けられている。
「はいはい、静かにしてください」
そのとき楽士団長さまが、やや困惑した表情で場を収めようと試みてくれる。
「今日から、私たち
その言葉と共に起こるのは、まばらな形だけの拍手。その薄い拍手が、かえって私の居場所のなさを際立たせる。
教坊にいる楽士さまたちは、男女問わず、あからさまな
しかし楽士団長さまは、そんな重苦しい空気を打ち破ろうと急いで言葉を継いでくれる。
「そうだ、
この雰囲気に耐えきれなかった私は、その言葉に小さく
でも私は深く息を吸い、丁寧に
そして
私は
でも、そこに仙術はない。ただ
だから演奏中なのに聞こえてくるのは、嘲笑を
そして演奏が終わり、私が弓を引く手を止めた瞬間、
「なに、この基礎も何もできていない演奏は? これでも音楽なの?」
「仙術なしの音楽とか、初めて聴いた。街の大道芸人でもこんな演奏はしないよね?」
そんな非難の嵐の中、私は必死に拳を握る。そこに冷たい汗がじっとりと
そしてその時、私の心を満たしていたのは、
だから私は、その悔しさと悲しさに、全身を震わせることしかできなかった。
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