第09話:その音楽が示すもの
失意を胸に私は静かに舞台を降りる。
その足取りは重く、心はまるで鉛と化したかのように沈んでいる。まばらな拍手が会場にただ寂しく響く。
そして、そのパラパラと
そんな絶望的な雰囲気の中、今にも
多くの人を感動させてこそ音楽には命が宿る。特定の人にしか理解されない音楽なんて、結局は独りよがり。そんな音楽に一銭の価値もない……。その想いが私の心に重くのしかかり、一歩進むたびに全身から力を奪う。
それでも私は、懸命に表情を
しかしその時、私の頭にポンとのる温かい感触、優しい
「お疲れさま、
「は、はい。今日のために、昨日の夜……」
しかし、私が言葉にできたのはここまでで、心に残った無念さが、それ以上の言葉を紡ぐことを許さない。だから私は、両の手のひらを膝の上にのせ、それをぎゅっと握りしめる。手のひらに
「あ、あれだけの曲を、昨日の夜だけで……」
そんな
でも、そんなの当り前だ。この音楽宴で、私の音楽が届いたのは少数の人にだけ、多くの人の心には響かなかった。その事実は明らかで、疑う余地もないのだから……。
だから私は、悔しさと恥ずかしさで、まっすぐ
でも、この機会をくださった
「
精一杯の笑顔を作り、私は必死に言葉を続けてゆく。
「このような機会をくださって、本当にありがとうございました。この舞台に立てただけで……私、充分幸せでした」
無念の気持ちを無理やり心の中に押し込んで、私はゆっくりと視線を
「何を言っているんだ
そんな
そして必死に何かを考えている
もしかして
だから私は下を向き、自分の指先をついつい見つめてしまう。何を言えばいいのかわからなくなってしまう。
すると
そして身を寄せ、私に小声で話しかけてくれる。だから私は聞き逃すまいと真剣に耳を傾ける。すると
「
その
「大丈夫だよ、
「
それは私自身が音楽に込めていた、けれども言葉にできずにいた想いそのものであったのだから……。ずっと探していた答えを見つけたような気持ちになったのだから……。
「いいかい、
そう苦しそうに話を続ける
だから私は小さく頷いて、「ありがとうございます」と素直に気持ちを伝えることができた。そしてその瞬間、今まで重くのしかかっていた全ての不安が、春の雪のように静かに溶けていくのを感じざるを得なかった。
「
そのとき急に遠くから聞こえてくる
「すまない、
そんな
そして私は、肩に残るかすかなぬくもりを感じながら、静かに音楽宴の終わりを待つことにする。ただ、胸の内に気がかりなことが一つだけ残る。
でもそれは音楽の問題ではなく、まだ燃えるように熱い頬を冷ますという、
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