第08話:私の旋律、私だけの旋律
李
「続きまして、最後の演奏者を紹介いたします。ここ
そして会場中に巻き起こるのは大きな拍手。その刹那、私の心臓は大きく跳ねる、手のひらに冷たい汗が滲む。
しかし今の私には恐怖に立ちむかう力がある。私を支えてくれるみんなからの想いがある。だからこの程度の緊張に負けはしない。
そんな決意を心の前に出し、私は頭に差してある
何も心配することなんてない。だって、今日の音楽宴は国事である迎暑節の音楽宴。ここにいるお客さまは、みんな音楽を聞きなれた貴族さまばかり。昨日、
だから大丈夫。きっと私の音楽を理解してくれる。
そう考えた私は「ふぅ」と大きな深呼吸をして、
そして椅子に座って目をつぶり、いままで起きたことを一つ一つ思いだす。
大丈夫、私はみんなから色々なものを借りてこの舞台に立っている。今の私はいままでの私じゃない。私を支えてくれる人々の想いをこの舞台に連れてきている。だから、きっとうまくいく。できるはずなんだから!
そんな言葉を心の中で繰り返し、私は音楽に心を集中させてゆく。そして、それが心の中で整ったその瞬間、私は、李
そういえば、
記憶もなく、食べるものもなく、街をさまよっていたあの頃、李
そう、
そんな淡い想いを
すると左手の指で優しく押さえた弦が、蝶の羽ばたきのように繊細に揺れ、あたかも初夏の
そのとき音楽を知った私は、
すると奏でる
一つひとつの音が、秋の夜空に浮かぶ星々のように
そして私は思い出す。街で飢えて困っている
私はそんな気持ちを音に込め、
しかしそこには前へ進む意志もしっかりと含まれていて、でも、どこか遠くで感じた記憶を呼び起こすような、風に乗って流れてゆくような、そんな切なさも生みだしてゆく……。まるで忘れかけた想いの一つひとつが、今この瞬間、音に姿を変えて現れてくるかのように……。
それから、私が企画した飢えた子供たちにご飯を食べさせてあげる食事会。そしてそれはいつしか大きくなって、いつの間にか私の
そんな思いを曲に込めると、その音は少しずつ厚みを帯びて、胸の奥に優しさが広がって、弓が弦の上を
確かに、それは痛みがあるけれど、そこにはちゃんと救いがあって、ちゃんと安心があって、そう訴えかけてくるような不思議な余韻があって……。まるで夕立のあと、湿った風がそっと頬を撫でてゆくような、そんな余韻を残っていて……。
そんな不思議な幸せに包まれた私の音楽は、次第に薄く、透明になってゆく……。あたかも手を伸ばした瞬間に消えてしまう夢のように、淡いうたかたの夢のように……。
そして私は最後の音を紡ぎ出し、
しかし現実は甘くない。演奏を終えて私が視線を観客席にむけたとたん、そこに広がっていたのは、お客さまの呆れた顔と退屈そうな顔であったのだから……。
そうか、やっぱり仙術のない音楽はダメなのか、私の音楽は通用しないのか……。そんな絶望感が私を包みこむ。まるで透明な壁にぶつかってしまったような感覚を味わってしまう。
どれほど美しい音色を出そうと頑張っても、仙術の光を持たない音楽はこの世界では通用しない。
そう痛感した私は、ただ「ごめんなさい」と、私を支えてくれた人たちにむかって謝ることしかできなかった。
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