第16話:宿泊施設、極上の体験

冒険者ギルドで噂される「飯ダンジョン」は、いまや単なる癒しのダンジョンを超えた存在として注目を集めていた。温泉や食事が提供され、ついには最近、宿泊施設まで登場したという話に、冒険者たちは興味津々だった。


ある日、4人の冒険者グループが調査のためにダンジョンに足を踏み入れる。彼らは癒しエリアを抜け、目の前に広がる宿泊施設に驚きを隠せなかった。


目の前に現れたのは、木造の温泉宿を思わせる風情ある建物。入口には柔らかな光が灯り、歓迎の雰囲気を漂わせている。


「ようこそ、ダンジョンホテルへ!」

妖精リリィが元気な挨拶をして迎え入れる。

建物内では小さなスライムがぷるぷると揺れながらトレーを持ち運び、犬に似た小型のモンスターが両手に洗濯物を抱えて歩き回っている。

冒険者たちは警戒を解ききれないまま、案内されるがまま施設の中に足を踏み入れた。


最初に案内されたのは、大浴場の温泉だった。湯気が立ち込め、静かな空間に湯の音が響く。冒険者たちはその美しい光景に一瞬息を呑む。


「本当に温泉があるとは……」

湯船を見た冒険者たちは、恐る恐る湯に手を浸す。適温の湯が心地よく、誰もが思わずため息をついた。


「これは……すごい。体がほぐれていくのがわかるな」

「魔法の仕掛けか何かだろうけど……罠の気配はないわね」


全員が湯に浸かり、次第にその心地よさに声を漏らす。湯の温かさが体の芯まで届き、全身の疲れが溶けていくようだった。


温泉でリラックスした後、案内されたのは和室風のレストランだった。木の温もりを感じる空間に、冒険者たちは次々に席へと着く。


「お待たせしました!湯上がりのお客様には特別な料理をご用意しております!」

妖精が笑顔で挨拶し、料理を運び始める。


テーブルに並べられたのはこの宿泊施設が完成記念の新メニュー。蓋付きの小鍋、炊き込みご飯、焼き魚、出汁巻き卵。冒険者たちはその香りに引き込まれるように箸を伸ばした。


「……この炊き込みご飯、やばいな。米がふっくらしていて、具材の味が染み込んでる」

「この鍋の出汁もすごい……魚と野菜の旨味が濃縮されてるぞ!」



食事を終えた冒険者たちは、それぞれ用意された客室に案内された。部屋にはふかふかのベットが用意され、枕元には柔らかな光を放つランプが置かれている。


「……これはベット?見ただけで寝心地が良さそうだな」

冒険者の一人が布団に横になると、その瞬間、驚きの声を上げた。


「やばい……柔らかさが絶妙で、包まれるような感触だ」

別の者も布団に倒れ込み、身動きが取れなくなった。

「これ、もう起き上がれないぞ……まさに究極の寝床だ」


全員が布団の肌触りと枕の高さに感動し、ここがダンジョンだということをすっかり忘れて深い眠りに落ちていった。


一夜明けて翌朝、冒険者たちは全員がすっきりと目を覚ました。体力も精神的な疲労も完全に回復し、清々しい表情を浮かべていた。


「昨日の温泉と飯、布団……全てが最高だったな。こんな経験がダンジョンでできるなんて信じられない」

「危険を感じなかったのが不思議なくらいだ。でも、このダンジョンの目的は何なんだ……?」

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