第4話 無神経なアイツ
彼氏から証言を受けた次の日、もう一度被害女性へとレームで話を聞いたの。社長に利用料金は無料にしてもらえるようにお願いした。
私の給料は無くてもいいとまで言ったのよ。そしたら、なんとか使わせてもらえることになった。繋がった被害女性は怪訝な顔をしていた。
「犯人、まだ捕まらないんですか?」
「捜査中です。そのことで、ストーカー行為にあわれていたんですよね?」
「……はい。でも、かもしれないという感じで、はっきり見たわけじゃないんです。見られている気がして。黒い影は何度かみたんですけど。警察にもその程度じゃ動けないって言われましたし」
「なるほど。対応した警察の人間はわかりますか?」
「私が相談へ行ったら、なぜか通りがかった捜査一課の人が出てきて。名前は……う……うつなんとか」
「内海ですか?」
「あっ。そう! そうです!」
女性は自分の答えを分かってもらえて嬉しそうに手を叩いた。そのテンションとは打って変わって落ち込んだ様子の真島さん。
知っている人だったのだろうか。捜査一課だから、真島さんと一緒だってことだ。知っている人だったらなんなんだろう。
「ありがとうございます。戻ります」
真島さんは焦ったように署に戻ると言って部屋を出て行ってしまった。取り残された私はやることもないし、そのまま家へと戻っていったのだった。
明くる日、一応レーム社へと出勤するとまた真島さんが現れた。今度は興奮していて今にも暴れ出しそうな雰囲気なのよね。何があったというの。これを聞くのもフォロー役の私の役目かな。
「どうしたんです? そんなに怒って?」
「妻の容疑者で私を起訴しようとしています。もう捜査はさせないと言われました。自宅謹慎だそうです。ありえない! アイツが俺を陥れようとしているんだ! クソッ!」
私には、どういうことなのかはわからなかった。だけど、まず落ち着かないと。カバンから電子タバコを二本取り出す。いわゆる、二台もちね。
「吸えます?」
「止めましたけど、貰います」
口にくわえると深く吸い、煙を吐き出す。同じように真島さんも煙を上へと出すと少し落ち着いたみたい。
「内海は、河野さんと一緒にいた防犯カメラを見に行った時の同僚です」
「あぁ! あの無神経男!」
「はっはっはっ! そうですね。アイツは無神経だ。そして、何かを隠している」
「わかるんですか?」
「長年一緒にいたんです。アイツは何か隠している時に耳を触るんです」
そう言われれば、ビデオを確認している間、ずっと耳を触っていた気がする。嘘をついているのかな。私のことも舐めるように見てきていたし。
気持ち悪かった。女好きなことは間違いない。真島さんの奥さんと追っている事件の被害女性は同じ清楚な綺麗系で似た雰囲気をしていると思うのよ。
もう一度話を聞きたいかも。社長に頼んでみよう。
「はじめまして。河野恵理といいます」
目の前の画面には真島さんの奥さんが映っている。社長に無理言って繋いでもらった。
「あらギャルかしら? かわいい! あれっ? 私達会ったことない?」
「ありがとうございます! 会ったことないと思います。ちょっと聞きたいことがあって」
「なにかしら?」
「内海さんって人に、言い寄られてたりしませんでした?」
奥さんは目を見開いて目を泳がせた。その反応を見た真島さんは食って掛かった。
「知ってるのか? 何があった?」
「その、ご飯に誘われて、無理だって言ったら無理やり連れて行かれそうになった」
「なに?」
真島さんが怒鳴った。
「落ち着いて下さいよぉ」
私が真島さんをなだめていると奥さんが手を叩いた。
「ほらっ! その時、あなたが助けてくれたじゃない! アイツ蹴っ飛ばしてさ!」
記憶を掘り起こして思い出してみる。こんな綺麗な女性を助けたっけ。
「マンションの前でさ!」
その言葉で記憶が呼びさまされた。気持ち悪いことしようとしていた奴をヒールで蹴っ飛ばしておっぱらったことがあった。
たしかあの時飛び蹴りくらわせたのよねぇ。あの時は就職が決まらなくて気が立ってたんだっけ。
「思い出しました。あの時の奴か! だから、見たことあったんだ!」
「その節は、ありがとうございます!」
「いえいえ! それで、事件の時になんか覚えてることありませんか?」
「えぇっと、あなたみたいにおっぱらいたくて、カバン振り回して怪我させてやったわ!」
身振り手振りでこっちに伝えようとしているのが可愛くて思わず笑顔になった。でも、真島さんは真剣な顔で画面を見つめていた。
「それ本当か? 遺留品にカバンはなかったぞ?」
「間違いないわ。っていうか女性でカバン持たない人なんている? 少し考えなさいよ!」
奥さんからの激が飛び、ペコペコしている。でも、これでなんとなくわかってきたわね。犯人が。
「だとしたら、アイツが……」
「真島さん、ちょっと強引になっちゃうけど、証拠掴んじゃう?」
お客さんをフォローするのが私の役目。
最後のフォローをしてあげましょう。
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