第3話 疑い

 外へ出ると軽口男のことをじっと見つめる真島さん。一体どうしたんだろう。今さら無神経さを恨んでいるのかな。今度はコンビニへと行くみたい。


 前を歩く男は道行く女の人をチラチラと見ていてなんだか気持ちが悪かった。生理的に無理というのはこういうことをいうのではないだろうか。

 

「真島さん、何かわかったんですか?」

 

「あぁ。いえ。ちょっと気になることがあっただけです。後でお話します」

 

 気になるけど、それを聞くのは後にしてコンビニの防犯カメラを一緒に確認することとなった。カメラに映るのは、先ほどと同じ様に女の人の後を追う黒ずくめの男の映像。

 

「さっきと同じだな。参考にならん。さっさと戻るぞ」

 

 無神経男はいそいそとコンビニを後にする。真島さんはカメラの映像を早送りしながら何かを見ていた。通り過ぎた後なのにどうして早送りしているんだろう。私にはなんにもわからない。不思議に思いながらも一緒に見ていが、後ろから声をかけられた。

 

「おいっ! 早く戻るぞ!」

 

「あぁ。わかった」

 

 最後まで私は抵抗してみていたが、真島さんに呼ばれて後を追う。コンビニの店員さんにお礼を言うと私たちはコンビニを出た。


 真島さんは何やら眉間に皺を寄せて考え事をしているみたい。その後に警察署へと向かうという。証拠品の鑑定が終わったんだとか。


 警察署の中へは、私は入ることができないので、近くのカフェで待つことになった。

 案内された席へと座り、カフェオレを飲みながら真島さんを待つ。外では主婦っぽい人や、会社員が道を行き交っている。


 こんな中で女性が襲われるという事件が起きた。そんな事件が起きたのに、この周辺の人でさえ何も気にせず日常を過ごしている。それが不思議だった。


 こっちとあっちの世界が違うかのように、刑事さんと一般人というのは見えない壁が存在しているのだろう。それは犯罪者と私達の間でも同じような壁があると思うのよね。


 だって、事件を犯す人の気がしれないから。理解できないし、理解したくない。人を殺す人なんて頭がおかしいと思う。

 

「待たせてすまん」

 

 真島さんは曲がったネクタイを直しながら向かいの席へと腰を下ろした。何かひっかかっていることがあるのだろう。悩んでいるように見えた。

 

「何か、わかったんですか?」

 

 私は耳に髪をかけて落ちないようにしながらカフェオレのストローへと口をつけた。

 

「被害者女性の彼氏が犯人の名前にあがった」

 

「ふーん。揉めていたんですか?」

 

「昨日レームで聞いた限りは、被害女性は彼氏が犯人だということはありえないと、そう話していました」

 

 死ぬ間際に喧嘩したわけでもない。何も被害者女性に心当たりがないなら彼氏というのは、考えにくいのではないだろうか。

 

「なら、なんで犯人に?」

 

「現場に手袋が落ちていたそうなんですよ。その手袋の皮膚片が彼氏のDNAと合致したんだそうです」

 

「その彼氏はなんて?」

 

「なくしたと言っているようです」

 

 なくしたというのはよくある言い訳のように聞こえる。だから、警察もまったく信じていないのだろう。本当になくしていたのだとしたら、誰のものかわかっていれば利用できる。


 でも、現場に手袋を落とすって、あまりにも不注意なんじゃないだろうか。さっきのコンビニの防犯カメラに犯行現場から戻ってきた黒い人が映っていた気がする。それを真島さんへ話した。

 

「本当ですか?」

 

「あの無神経な男は早く真島さんと帰ろうとしてましたけど、私が最後に出るとき、映っていた気がするんです」

 

「もう一度見に行きましょう」

 

 真島さんともう一度コンビニのカメラを確認しに行った。店長さんが嫌がったが、私が頼み込んでなんとかオッケーをもらった。


 まぁ、半分脅しにちかかったけど。カメラを確認すると被害者女性を追う黒い男、その二十分後、犯行現場の方向から黒ずくめの男が戻ってきていた。なんか違和感がある。

 

「あれ?」

 

「どうしました?」

 

「あっ! 手袋、両手にしてますよ?」

 

 真島さんは目を見開き、巻き戻してもう一度確認する。

 

「本当だ。ということは、別の手袋を落としたことになる」

 

 一応どこで落としたのか、彼氏に聞こうということになった。彼氏の家は現場からそう遠くない。被害者女性は彼氏の家へと向かいところだったのかもしれない。


 それもまた聞いてみればわかることだから、今度聞いてみよう。コンビニを出ると彼氏の家へと向かった。綺麗なアパートの一室の呼び鈴を鳴らすと今風のシュッとした男性が出てきた。挨拶をすると話を聞く。

 

「手袋をなくしたと言っていましたが、なくしたんですか?」

 

「家にあったはずなんですけど、知らない間になくなったんです。本当なんです! 僕が彼女を殺すなんて、そんなことあり得ません!」

 

 盗みに入ったとしたら手に入れられるんだろうけど、彼氏の家をわかった上で手袋を盗み、彼女を殺して落として犯人に仕立て上げた。そんなこと普通の人ができるわけないという考えが頭をよぎる。

 

「あの……失礼ですけど、警察に何か届け出をしたことはありますか? 落し物とか、探し物とか」

 

「それなら、彼女のストーカーの被害届だそうとしたことあります」

 

「ストーカーがいたんですか? そんな情報なかったですが」

 

「数回、後を付けられている気がしたって程度なんで、はっきり見ているわけではないですし、受理されませんでした」

 

「なら、記録には残ってないか……」

 

 この証言をきっかけに事態は動き出した。

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