第2話 無神経な人
レームでのお客さんはあのおじさんだけだった。なんと一日に一組しか対応できないという。社長の力の関係らしい。よくわからないけど、社長からそれだけ説明があった。後は帰っていいと言われたので、目を剥いて驚いたのよね。
次の日も同じ時間に出社したんだけど、仕事はないらしい。お客さんはそんなに多くないということだった。帰ろうと思っていた所に、飛び込みのお客さんがやってきた。顔を覗かせたのは昨日のおじさん。
「あっ! 昨日の。どうしました?」
「すみません! 今日ってお願いできますか?」
社長に確認すると予約はいないから大丈夫なんだとか。
「真島様。料金は頂きますよ?」
「大丈夫です。捜査費用としておとしてもらいます」
今、捜査と聞こえてきたような。一体何の捜査だろう。というか、何者なんだこの真島というおじさんは。何かを社長に渡すとレームを起動する。画面に映った女性は昨日とは違う人だった。あっち側の人の方が驚いた様子だ。
「あの、どちらさまでしょう?」
「突然失礼します。警視庁捜査一課の真島と申します」
あのおじさんが、まさか刑事さんだったとは。ヨレヨレの姿からは想像できなかった。あんな格好で刑事だと言われても私なら信じることができないと思うけど。画面に映る女性も殺されたんだという。手掛かりがあまりないんだとか。
でも、その女性は後ろからいきなり襲われたから誰に襲われたのかわからないって。わかれば捕まえることができるのに。せっかく、天界の人とやりとりできるのにもどかしさを感じる。
「はぁ。何にもわからないなんて……どうしたものか」
「わからないと困るんですか?」
「犯行の仕方が、妻と同じなんです。犯人を特定できると思って期待したんですけど」
それはかなり期待して来たのね。だから、慌てていたんだ。自分の奥さんも犯人はわからないと言っていたものね。私なら、どんな手を使ってでも犯人を突き止めるわね。
そう考えたことで真島さんの気持ちがわかった。自分と同じ考えなのかもしれない。なんでもいいから犯人につながる糸口を探したくて必死になっているんだ。
「何もわからなかったので、利用料どうにかなりませんか? 経費でおちないかも」
そんなこと言われても困る。自分の給料の為だから是非とも払ってほしいところではあるけど、事情も知っているし、力になってあげたい気持ちはあるけど私に何ができるってわけでもないし。その考えが顔に出ていたみたいで。社長から予想外のことを宣告された。
「恵理さん。真島さんのフォロー、してあげて?」
「えっ? 捜査の手伝いをしろっていうんですか?」
「利用料もらえないとお給料でないかもしれないわよ?」
昨日、たんまりもらっていたではないかという罵声が頭の中で響き渡るが、入社二日目の私がそんなこと実際に口に出せるはずもなく。
「は、はい。わかりました。これも仕事のうちだということですね」
「えぇ。利用料をもらえる目途が着くまでここに来なくてもいいわ。フォローお願いね」
社長は奥へと消えて行った。もしかして、帰ったのだろうか。それにしても私が刑事さんの助手とは面倒なことになった。
「あの……お願いします」
真島さんに頭を下げられ、私は絶望した。これから一緒に捜査へ向かわなければいけないのか。これも利用料金を取りたてるためだ。ようするに、私は取り立て屋ということだ。この刑事さんを監視し、ちゃんと利用料金が支払えるように事件を解決しなければいけない。
「まずは何を?」
「別の者と合流して、犯行現場の近くの防犯カメラを確認します」
私と真島さんは犯行現場へと赴いた。鑑識は既に終わっていたが、血痕であろう黒いシミはまだ地面に残ったままとなっていた。ここで被害者の女性は襲われて亡くなったんだ。体がブルリと震えた。
この暗がりで後ろからいきなり襲われたら自分も大した抵抗はできないだろうと思われた。最寄駅からここまでの道のりは街灯があるが、人通りは日中でも多くなさそうだ。
「おう。真島。その人は新しい彼女か?」
「お前が来たのか。この人は取り立てだ。その傷どうした?」
軽口を叩いて近づいてきた男の人は真島さんの知り合いだったみたいだ。この人、真島さんが奥さん亡くしているのによくそんな無神経なこと言えるなと逆に感心した。
刑事とはそういう無神経な人の集まりなのだろうと勝手に推察する。じゃなければ、奥さんの死体もみているだろうにそんなこと言える人なんて皆無だろう。なんか見たことある顔な気がするのよね。そんなわけないけど。その男は額に傷を負っていた。
「取り立て? ちょっとぶつけてな」
刑事なのに間抜けな事だ。ぶつけて怪我をするなんてよっぽど気が抜けていたのだろうな。その男の案内で私達は近くのマンションの防犯カメラを確認することになった。
管理人さんにお願いして見せてもらう。犯行があったとされる時間帯に、被害者女性の後ろをあるく黒ずくめの男が映っていた。
「こいつか?」
「そうみたいだな」
こんな真っ黒な人ってだけで何もわからない。こんなので何かわかるのかと疑問だ。やっぱり私には何も手伝えることはないみたい。
「コイツ……」
真島さんは何かわかったかのように考え込んでいる。それに比べて、無神経男はさっさと帰ろうとしていた。本当になんなんだこの男は。真島さんが無神経男の後を追ったので、私もついていった。
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