天と繋がるアプリ『レーム』
ゆる弥
第1話 不思議な転職先
金髪の髪を振り乱し階段を上がる女性の姿があった。パンツスーツを着ているが、付けまつ毛でバサバサの目が印象的。ヒールの音を響かせながら階段を一生懸命上がっていく。
「ったく。なんでこのビル、三階にエレベーター止まらないのよ」
三階へ着くと薄暗い間接照明で鉄製の扉が怪しい光を放っている。こんな不気味なところが就職先なんて思わなかったのよね。
面接の時の社長さんはキャリアウーマンって感じだったし。それに、仕事内容は悩んでいる人のフォローだってきいていたのに。
こんなところ、逆に不安をあおるんじゃないかな。なにかがおかしいと感じて、一抹の不安を覚えた。重そうな扉を開け、中の様子を伺うと薄暗い広いスペースには、受付があるけど誰もいない。
「すみませーん」
呼びかけるが何の反応もない。中へと体を滑り込ませる。
「あなたが河野恵理さん?」
「わっ!」
不意に後ろから声をかけられたので心臓が跳ね上がり、同時に体も跳ねてしまった。
そこに立っていたのは前髪パッツンの腰まである黒髪。ピシッとしたスーツを着こなしている面接をした時の社長さんだった。この薄暗い空間で後ろから声をかけられるのはちょっと怖い。こういう霊的なものは苦手なのよね。
「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのよ。ここの受付に座ってもらえる?」
「私が受付……ですか?」
「予約のお客さんは一人だから、人が来たら奥へと案内して、戻ってきたら落ち込んでいることが多いの。その時はフォローしてくれればいいから」
「それが、私の仕事なんですか?」
「そっ。この会社は、パソコンの自社アプリ、レームを使って天界と現界の人を繋いであげるの」
それだけ言うと奥へと消えて行った。私の頭では理解できない。天界って亡くなった人が行くところとされているわよね。そこと現界。
つまり私たちの今いる世界を繋ぐということなの。そんなことできるんだろうか。というかやっぱり変な会社だった。妙に給料が良いと思ったのよねぇ。ヤバい会社だったかな。
でも、私にはパートのお母さんと働くことの難しい弟を養わないといけないという使命があるわ。逃げ出すわけにはいかない。昔は散々迷惑をかけたから。頑張って働かないといけないの。
受付へと座り、少しするとゆっくりと扉が開いた。顔を出したのは三十代くらいのおじさんだった。髪はボサボサ。ネクタイは曲がり、ワイシャツとスーツはヨレヨレじゃん。この人大丈夫かなと私が思ってしまうくらいのだらしのない感じの人。
「あのー株式会社レームはここですか?」
「はーい! ご予約の人ですか? こっちへどうぞー!」
私は社長に言われたようにパーティションの奥へとおじさんを通した。すると、どこから来たのか、社長がおじさんの前へと現れた。
「あれ? 冴木真理子さんですよね?」
「あぁ。あの時の……」
「その説は、申し訳ありません! まだ、動いてはいます!」
「もういいんです。ブツは持ってきました?」
「……はい。これです」
何かの怪しい取引かと思い、体を前のめりにさせておじさんが渡したものを確認する。それは、シルバーに輝く指輪だった。その指輪が報酬とかかな。
社長はその指輪を持つと天へと掲げ、パソコンの横に接続されているボックスへと入れて念じ始めた。仄かに光を放った後、パソコンに会社のロゴが映った。社長はそのおじさんに座るように促す。
おじさんの前のパソコンはウインドウが開かれ真っ白になった。一体これから何が始まるのかしら。ドキドキしながらもワクワクしている自分に気が付いた。
少しノイズが走った後、一人の女性が移された。青白い可愛らしい感じの白装束の女性。スマホにもなんか似たようなビデオ通話アプリがある。似たようなものだと名前の合点がいった。
「由紀! 由紀なのか?」
「もぉ。そんなに騒がない! 何その髪。スーツもヨレヨレ。ほんっとに私がいないとダメダメなんだから」
由紀と呼ばれた女性はにこやかにそう話すが、対するおじさんは泣き崩れていた。自分が不甲斐ないばっかりに死なせてしまってすまいとしきりに謝っている。
その姿はなんだかこの世から消えてしまいそうなほど気薄になっていく。本当に天界と現界を繋いでしまっているということに私は驚きながら、おじさんと由紀さんの会話を聞いていた。
話しぶりを聞くと、夫婦だったみたい。子供もいて、今は実家に預けているという。
「由紀、今は俺が容疑者にされそうなんだ。何かがおかしい。殺した奴に心当たりはないか?」
「うーん。後ろから襲われたし。抵抗はしたけど、顔は見てないからわからないなぁ」
「そうか」
おじさんは落ち込みながら突っ伏した。由紀さんは殺されたんだ。それなのにおじさんが犯人にされてるのはおかしいよ。警察はどうなってるの。やっぱり警察なんて信じられない。
おじさんは別れの言葉を言うとパソコンを閉じた。もういいのかと疑問に思っていたら、社長が口を開いた。
「十分しか繋げられなくて申し訳ありません」
「いえ。ありがとうございました。これ、利用料金です」
そう話すとおじさんは分厚い封筒を渡していた。一体いくら入っているのだろう。あんなに分厚い封筒。私の給料があそこから支払われるんだと思うと、不満だった。もう少しくれてもいいのではないだろうか。
「ありがとうございます。またのご利用、お待ちしております」
社長が深々と頭を下げるとおじさんは去って行った。私は、何も仕事していないことに気が付いた。まぁ、いっか。
次の更新予定
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