第8話 人助けの魔法
…………。
重たい瞼をなんとか開く。
ベッドと布団の間に挟まれた体をなんとか起こし、眼を擦る。
どれだけ眠ったのだろうか。それを確認するべく、カーテンを開いた。
明るい日差しがまだ順応していない目を眩ませる。日の位置からして、おおよそ半日眠っていたようだ。
とりあえず部屋に荷物をそのままにして、部屋を出る。
「おはようございます。よく眠れた?」
「ん……あ、はい。ありがとうございます」
「それは良かった。そうそう、アルガスが貴方のこと探してたわよ」
「わかりました」
やっと頭が回るようになってきた。アルガスが呼んでいる。引き取り手が見つかったのだろう。
宿の外に出て、再び体を照らす日光を受け、思いっきり伸びてみる。
「困ったな……」
何処からか声が聞こえる。その元を辿っていくと、広場に出た。
噴水近くに男性数人が集まっている。
「どうかされたんですか?」
そう声をかける。
「ん? いやね、何でもないんだ。噴水が壊れちゃって、予備の魔法があって、魔術式の復旧はしたんだけど、肝心の水が無くてさ。海から運んでくるわけにもいかないし、魔法を使える人間はここにはいないからね。まぁ、子供にできることは無いからあっちに行ってな」
そうやって現場から追い出そうとする。
「待ってください。要は水があればいいんですね?」
「ん、そうはそうだが……」
「分かりました。少し離れていてもらえますか?」
そう言って噴水から距離を置いてもらう。
噴水に水を満たす魔法。生活魔法では足りないし、中級魔法だと噴水ごと吹っ飛ばしてしまう。
だから、ただ水を出すだけ。
自分の魔力を水に変換する。
徐々に伸ばした手のひらの前に大きな雫が形成されていき、ある程度の大きさを超えた時、勢いよく噴き出した。
「おお! お前さん、水魔法が使えるのか! 大したものだよ!」
「凄い魔力だぞ! 大人でもここまで扱える人間は少ないってのに」
放出された水は徐々に噴水を満たしていった。
「こんなものでどうでしょうか」
「上出来だ。あとはここに魔力を流し込めば……」
男性は噴水の上に刻まれた魔法陣に手を伸ばした。
それと同時に響く鈍い音。
数秒後に噴水のてっぺんから水が噴き出した。
「やった! やったぞ! お前さん、お手柄だ!」
「いえ、そんな大層なことは……」
「あれはなんていう魔法なんだ?」
複数人に詰められてしまい、一歩後ずさりする。
「名前……ですか――」
不意に過去の記憶が掘り起こされる。
***
「ねぇ、師匠。師匠はもっと魔法を使わないの?」
「うん? どうした急に」
「だってだって、魔法ってもっとじゃーん! どかーん! って感じでしょ? 師匠ってそういう風に魔法を使わないじゃん」
ある村で植物を成長させる魔法を使って作物を分け与えたときのことだった。
師匠と次の村に向かう途中、僕は師匠にそう質問した。
師匠は歩きながら答える。
「――ソーカ。よく覚えておくんだよ。魔法は何も魔物を倒したり、ものを破壊するためだけに使われているんじゃない。逆に、どちらかと言えば人生を豊かにするもののほうが多いんだ」
「えー、でももっとかっこいい魔法もあるよ?」
師匠は微笑みながら返してくれた。
「確かに、強い魔法はかっこいいのかもしれない。人助けをするための魔法は名前もない、ただの人助けの魔法だ。でも、その魔法だけで笑顔になれる人は沢山いる。それだけで、もっとかっこいいものだと、そう思わないかい?」
今度は、歩みを止めて僕の頭を撫でながら言った。
「ソーカ、お前はもっと、人助けのために魔法を使えるようになるんだよ」
***
心の奥底にずっと眠っていた記憶。されど、今の今まで、一瞬たりとも消えはしなかった。
今度は僕が微笑みながら男性に言葉を返した。
「ただの、人助けの魔法です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます