第6話 旅立ち
「そうか、もう行くんじゃな?」
「はい。今までありがとうございました。何か御礼をしたいのですが、何も持っていないもので……」
船着き場。僕はロトさんを呼び出して、別れを告げる。
もし、皆を呼び出してしまったら僕は泣いてしまうかもしれない。これは永遠の別れではないのだから、涙は見せたくない。
「御礼なんて要らん。その代わり一度でいいからここにまた戻ってきて欲しい。またあの日のように、旅の話を聞かせておくれ」
漸くさっき乾いたと言うのに、再び頬筋に涙が流れる。そこまで泣き虫じゃないはずなのにな。
「泣くな、これは島の総意だ」
「……ありがとうございます。……それと、これを」
「これは……もしや……!?」
「はい。試作品なので、不具合はあるかもしれませんが」
ロトさんは渡したものを返そうとする。
「どうしてこれを? お前が持っていればいいじゃないか」
「受け取ってください。先程魔力漏れから探索をかけました。その結果、ここからクラウディア手前までは同じ魔力を持つ人間は見当たりませんでした。ロトさんならこの意味がわかるはずです」
ロトさんはとても驚きつつも、納得したような表情で魔道具を受け取った。
「わかった。お前の意思はきちんと儂が受け継ぐ」
「それは、この街だと一つあたり五人分の魔力が必要になると思います。それと、ポーションの備蓄はありますか?」
「充分だよ」
「わかりました」
「ソーカ!」
街の方から船着場にゾロゾロと人が集まってきた。
「何も言わずに出て行くなんて水臭いじゃない。出て行く時は言って欲しかったわ」
「そーだそーだ!」
「ニーナさん、クレハ、みんな……」
先ほどまで流れていた涙はさらに大粒のものとなり目から溢れてくる。
「ほらこれ、旅の足しにしなさい。街のみんなで集めたの。ちょっとしかないけど、貴方のものと合わせたら十分だと思うから」
手渡された袋の中には銀貨がそれなりに入っていた。
「こんなに……? ありがとう、みんな……」
「それと、これ。あなたの旅の記録をつけなさい。いつでも見返せるようにね」
「ありがとう、ニーナさん……」
「お礼なんて今更水臭いだろ! その代わり、また帰って来いよ! 絶対な!」
「うん……うん! ありがとう!」
船着場のおじさんに合図を送り、船を出してもらう。
「頑張ってね!」
島のみんなの声が響く。胸の中で決意が固まり、涙を拭った。
日は真上から船を照らす。その光は、一つの物語の区切りでもあり、新たな旅の始まりでもあった。
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