第5話 鑑定
「おや、ソーカじゃない。何か買っていく?」
「スミネさん、じゃあ……バンナッチとキュールのジューセを一つずつください」
「はいはい、バンナッチとキュールジューセね」
そう言って、スミネさんは果物が練り込まれた焼き生地と紫色の飲み物を差し出した。
「ソーカ、キュールのジューセ本当に好きだよね」
「そうですね、凄くあっさりしてるのに甘味はきちんとあるから飲みやすいんですよ……バンナッチは暫く食べれそうにないですし」
「あ、旅に出るって話本当だったんだね」
「そうですね、自分のやりたいことはまだあるので」
僕は師匠の知らないことの方が多い。
知っていることと言えば、テラント魔術学校にいたこと、魔法がとてもできること、何かを研究していたことくらいだ。
彼が何故この地アストラルを旅の最終地点にし骨を埋めたのか、何を目的に旅をしていたのか、僕は知らない。
僕はベルキュートの身内でもない、ただ旅の途中で魔法を教わっていただけの同行者だった。
だからこそ、僕はベルキュートを、untitled journeyを知りたいと思った。
彼がこの大陸に限らず世界中を巡り、時に人を助け、時に研究し、その旅の記録を世に出した目的を。
「ソーカ、ここに来た時よりも逞しくなったよね」
「あれ、そうですかね」
「うん、また次会うときはどんな風になっているか楽しみだよ」
「そうですね。僕も楽しみです」
スミネさんに満面の笑みでそう返した。
二年程生活していた家に戻り、旅支度をする。
幸い、師匠が亡くなってからは家を移り住んでいたので、準備していた資金や食糧等がなくなることはなかった。
諸々の準備を整えたことを確認した後に再び焦げた家を訪れた。
今朝とは打って変わって、人はもう居ないし、水溜まりも乾ききっていた。
家の中に入ってみる。やはり、残された文献はないようだ。全て黒ずんでいる。
「――魔力鑑定《ジャッジ》」
確かにロトさんの言う通り、魔力が微かに残っている。この島の人間ではない。この手の魔力は見たことがないから。
それに、魔力の持ち主は恐らくかなり強い。
ここまで魔力漏れが少ないと言うことは、魔力漏れをしないように訓練されていないとおかしい。
続けて魔法を使ってみる。
「探索【サーチ】」
僕はロトさんより魔法ができる。
ベルキュートに直に長い間教えてもらったこともあるが、誰かに自分の才を認められたことがあったような記憶がある。それが誰かまでは思い出せないのだけれど。
範囲を自分のできる限界まで広げる。
……凡そここから500kmはいないな。
クラウディアが範囲にギリ入らないくらいか……。
似た魔力を持つものはいるが、魔力が小さいか、ちょっとだけ違う。
……いや待て、何故いない?
時間が経ったとはいえ、まだ半日も経っていないはずだ。短期間でそんなに移動できるものか。
それとも、完全に魔力を消しているのか……?
――あり得ない……。少なくとも旅をしている間は魔力を完全に消せるか持っていない人間すら見たことがないと言うのに。
ベルキュートですら、完全に消すことはできなかったのに……。
魔力切れか……? いや、相手は相当な手馴れだ。そんなミスをするはずがない。
魔力を消せる人間がもしいるとしたらそれはベルキュートより強いと言うことになる――。
「……あり得ない、と思いたいな。でないとこの街はまだ危ないと言わざるを得ない」
念の為、試作の魔道具を渡しておこうか。
そうして再び、家に戻った。
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