第15話 婚約


「リンハール嬢!! 待っていました。子爵もようこそ、本日はご足労いただき感謝します」


(笑顔がま、眩しい……!!)


 信じられないことに、侯爵家に着いた私たちをハンス様は馬車を降りた瞬間から、直々に迎えてくれた。

 普通は、執事や侍女が迎えて応接室に案内して、私たちがそこで侯爵家の人々を待つ。


「これは、ハンス殿。丁寧なお出迎えに感謝いたします」


 父が頭を下げると、ハンス様は「私が早く会いたかっただけだ」と言って、私に手を差し出した。


「リンハール嬢。お手をどうぞ。応接室まで案内いたします。すでに父と兄も待っています」


(ええ~~~ハンス様自ら案内してくれるの!? すでに、侯爵や次期侯爵もお待ちになってるの!? 嘘でしょう!?)


 私はあまりにも歓迎ムードで驚いてしまったが、どうやら父も同じだったようだ。

 応接室に向かう途中に、目が合うとハンス様に微笑まれた。


「あなたにお会い出来て浮かれており、遅くってしまいました。今日もリンハール嬢はお美しいですね。その装いを私に見せるためにしてくれたのなら、こんなに嬉しいことはありません」


(さ、爽やか過ぎる!!)


 どうしよう、ハンス様が爽やか過ぎるのだが!?

 

 私が眩暈を覚えていると、応接室に到着した。


「こちらです。どうぞ」


 ハンス様は何度か扉をノックした後に、応接室に入った。


「おお、あなたがシャルロッテ嬢か……ハンスから話は聞いています」


 部屋に入った途端に満面の笑みのアイバル侯爵が迎えてくれた。


「ふふふ、可愛い方だ」


 ハンス様の兄のロビン様がにこやかに迎えてくれた。

 想像を遥に超えるお迎えに、私は逆に怖くなった。


(これ……どんな条件で結婚を約束されるんだろう……)


 それから少しだけ自己紹介をして、場が和むとアイバル侯爵は本題に入った。


「今日はこのまま婚約誓約書にお互いがサインをしたいと思いますが、まずはこちらをご覧ください」


「拝見します」


 父は、書類に目を滑らせた後に息を呑んだ。


「アイバル侯爵、このような条件でよろしいのですか? 我が家に利ばかりがあるように思いますが……」


 父は婚約の書類を確認した後に珍しく焦っているようだった。

 一体どんな条件だったのだろう?

 不思議に思っていると、父が私にも書類を見せてくれた。

 私は書類を読んで驚いてしまった。


・婚姻の際、持参金は必要ない。

・婚姻準備及び、婚姻かかる全てをアイバル侯爵が負担する。

・婚姻の際には祝金として1000万ゼニーをリンハール子爵家に支払う。

・婚約期間中は定期的にアイバル侯爵に滞在すること。

・滞在中の衣装や生活費は全てアイバル侯爵が負担する。

・夜会やパーティーなどは婚約者として出席すること、その際の衣装や装飾品は全てアイバル侯爵が負担する。


 確かに……戦慄するほど、好条件だ。


 アイバル侯爵は、私の父を見ながら言った。

 

「これは代々アイバル侯爵が婚約する時の条件です。私の妻も、私の母も皆この条件でしたので、この家の伝統とでも思って下さればかまいません。何か、そちらからの希望がございますか?」


 父は、しばらく考えた後に口を開いた。


「いえ、何も言うことはございません」


「そうですか。では、こちらをどうぞ」


 父が同意すると、侯爵が婚約誓約書を差し出した。

 侯爵は一度私たちに見せた後に、署名をした。

 ちなみに婚約は、親同士の署名だけで成立するので、侯爵と父が署名をすれば婚約が成立する。


 そして、羽ペンが父に渡され、父も婚約証明書にサインをした。


「確かに、これを提出いたします」


 こうして、私の婚約が成立してしまったのだった。


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