第12話 現在『辛愛』中の令嬢
好きだと何度も言ったのに、本気だと思われない恋……
控えめに言っても……辛過ぎる。
しかも、相手に『迷惑だ』とはっきりと言われてしまった。
好きだと言葉にすることさえ許されないなんて……
そう……私は現在辛い恋、――辛恋をしている。
「何度も言葉にしたのがいけなかったのかな……」
馬小屋で、愛馬アルタクスを撫でながら呟いた。
アルタクスは優しい目で私を見てくれた。
「ねぇ……どうやったら、エイドに本気だと思って貰えるかな?」
アルタクスを撫でながら呟くと、アルタクスが私を撫でるように首を私に擦り付けてくれた。
「ありがとう、アルタクス!! そうよね、本気だと思われていないのなら、本気だと思ってもらうしかないわよね!! 考えなきゃ……」
私はアルタクスの首元を撫でながら言った。
アルタクスも私を応援してくれているように見えたのだった。
だが試練というのは重なるもので、私へのエイドの愛を得るための試練は、それだけではなかったのだった。
◇
「失礼いたします」
私はいつも参謀として多忙を極める父に珍しく書斎に呼び出された。
「ああ、シャルロッテ……話がある。座りなさい」
「はい」
私は父に言われた通りにソファーに座ると、父がたくさんの封書を持って来て私の座っているソファーの前のテーブルの上に置いた。
(これは何?)
私が首を傾けていると、父が困ったように言った。
「これはすべて釣書だ」
私は首を傾けながら言った。
「釣り書? 今度は、釣りを極めろとおっしゃるのですか? どのような訓練ですの?」
父に呼び出されれば、いつも奇想天外な訓練の内容を告げられるので今回も訓練だと疑っていなかった。
すると父が盛大に溜息を付いた。
「訓練ではない……見合いだ」
「見合い?」
訓練じゃない?
見合い?
見合い……見合い……お見合い!?
ああ、釣書ってそういう意味!!
私がエイドが好きなことはもちろん、家族も使用人もみんなが知っているので、私にお見合いの話が来るとは全く想像もしていなかった。
「ええええ~~~!? お見合い!? 私はエイド一筋です!! お断りして下さい!!」
私の心からの叫び声に父は眉を寄せた後に、封筒の束の一番上の豪華絢爛な封筒を手にしながら言った。
「悪いが断るのは不可能だ。どうしてもイヤなら、お前が自分で知恵を絞って、向こうから婚約破棄を言い出すように策を練るのだな……」
なんとも参謀らしいが、一般的に親とも思えない返事に絶望のまま封筒を見た。
(この蝋封……)
「アイバル侯爵家……」
思ず呟くと、父が頷いた。
「そうだ……8侯爵家の一角……アイバル侯爵家の次男、ハンス殿に婚約を申し込まれた」
(ハンス様!? どうして?? あ、もしかして……ハンス様、私と話をしたからじゃ……)
きっとハンス様は家から『早く婚約する相手を決めろ』と急かされていたのだろう。そこでたまたま話をした私のことを思い出したのだろう。
知らない令嬢よりも知っている令嬢の方が名前を出しやすいと思えば理解できる。
それにハンス様もいつも令嬢に囲まれるのは疲れたのかもしれない。
(ハンス様、令嬢に囲まれてぐったりしていたものね……)
ハンス様が私に婚約を申し込んだ背景も理解できてしまった。
そんな侯爵家のハンス様から婚約を申し込まれてしまったら、子爵家の私は絶対に断れない。
呆然としている私に、父は口角を上げながら言った。
「聞いているぞ。エイドに『本気じゃない』と、フラれたのだろ? お前の本気を証明する好機じゃないか? まぁ、アイバル侯爵家は悪い噂は聞かない家だからな……そのまま嫁いでも問題ないと思うがな。とにかく、婚約は断れないだが……婚約した後、私たちはお前のすることには何も言わない」
これは父からのエールだと受け取った。
身分差があるので、婚約回避はできない。
だが……結婚するかしないか、それは私次第……さらにどんな手段を使っても口は出さないと遠回しに言われた。
私は、父を見据えながら淑女の礼をした。
「シャルロッテ・リンハール。この婚約のお話、お受けいたします」
父は私を見ながら「健闘を祈る」と言ったのだった。
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