第10話 優秀な執事の功績




 私は馬車を降りると、エントランスで待ってくれているエイドの元に急いだ。


「エイド、ただいま!!」


 エイドに抱きつくと、エイドの声が聞こえた。


「おかえりなさいませ」


 エイドは相変わらず淡々と言った。

 私はエイドから身体を離すと、エイドを見ながら言った。


「エイド、このドレスの効果、凄かったわ!! たくさんの人に声をかけられて……これまでで一番ダンスをしたわ!! さすがエイドの見立てだわ!!」


 エイドに一緒にドレスを選んでもらったので、今日のダンスパーティーの成果を報告した。私がエイドの審美眼を褒めると、エイドは唖然とした顔をした。


「え……」


「エイド? 聞いてる? 疲れたの?」


 あまりにも反応のないエイドの顔を覗き込むとエイドがはっとしたように声を出した。


「……いえ、疲れてはおりません。そうですか……それはよかった。そんなことよりお嬢、早く着替えを……折角のドレスが汚れます」


 エイドが冷たい瞳を向けながら言った。

 いつものエイドにほっとしながら私は笑いながら言った。


「うん、じゃあ、着替える!! ありがとう、エイド~~~。アイリーンただいま、着替えに行きましょう!!」


「はい、お嬢様!!」


 私はアイリーンに話かけた後に再びエイドを見た。


「エイド、おやすみなさい。よい夢を!!」


「おやすみなさい……お嬢」


 私はエイドに手を振ると、着替えるために部屋に向かったのだった。







 シャルロッテが屋敷に入った後に、シャルロッテの弟のジーノがエイドに近づきながら言った。


「お前さ……何考えてるわけ? 折角俺たちが気軽に姉さんに声をかけられないように演出してたのにさ……本気で姉さんのことを他所の家に嫁に行かせたいのか?」


 エイドはジーノの問いかけには何も答えずに立っていた。


「だんまりかよ……姉さん、男見る目なさすぎ!!」


 ジーノが悪態をつくと、エラルドがジーノとエイドに近づきながら言った。


「よせ、ジーノ。エイドはわきまえているだけだ。そうだろう? 自分と姉は釣り合わないからと、姉さんが他の男と結婚するように仕向けているのだろう?」


 エラルドに真顔で問われて、エイドは何も答えずにガリッ奥歯を噛んだ。

 それを見たジーノが引きつった顔で言った。


「ああ、なるほどな。姉さんにあれほど愛されながら……大したヤツだ」


 今度はエラルドがエイドに向かって変わらず真顔で言った。


「エイド……お前の策は大成功だ。きっと姉さんには近々高貴な人から……見合いの話が来るだろう……絶対に断れない家からな……」


 そう言って、エラルドはエイドから視線を逸らすと屋敷に入った。

 ジーノもそんなエイドから視線を逸らして屋敷に入った。

 他の執事や侍女も屋敷の中に入ると、一人になったエイドは石の壁を思いっきり殴った。


「俺にどうしろっていうんだ……」


 エイドは再び奥歯を噛み締めると、血の流れる手を見た後に、シャルロッテの部屋を見つめながら呟いた。


「お嬢には……幸せになってほしいんだよ……」


 だがそのエイドの声がシャルロッテに届くことはなかったのだった。

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