第8話 敏腕執事の手腕
ダンスパーティー当日、私はエイドの審美眼に感嘆することになる。
「一緒に踊ってくれませんか?」
「ぜひ、私ともお願いいたします」
これまではあまりダンスのお誘いはなかったが、今日はエイドの選んだドレスのせか、たくさんの男性に声をかけられた。
「……ぜひ」
自分より身分が上の人からお誘いは基本的に断れないので、私は断れない誘いを受けた。
そしてダンスパーティーも後半に差し掛かった頃。
ようやく誘いが落ち着き、私は飲み物を持ってバルコニーに出たが、そこにはすでに恋人たちが身を寄せ合ってイチャイチャラブラブしていた。
「今日のドレスも素敵だね」
「ふふふ、あなたも素敵よ」
「愛してる……このまま時が止まればいいのに」
「まぁ、私もそう思っていたわ」
(羨ましい……エイドにあんな風に言われてみたい……)
そして『愛している……このまま時が止まればいいのに』と言っているエイドを想像したが……
(もし、エイドがそんなことを言ったら、偽物の可能性が高いから本物を探し出す必要があるわ……)
私がそんな斜め上なことを考えていると、誰かに声をかけられた。
「こんにちは、リンハール嬢。先日のヴァイオリンも大変素晴らしかったですが、本日のダンスも目を奪われるほどの優美なダンスでした」
振り向くと、アイバル侯爵家のハンス様が立っていた。
私は急いで頭を下げた。
「これは、アイバル様。お褒め頂き光栄です」
私のダンスの練習相手はエイドだ。
普段は私に触れようともしないエイドが積極的に私に触れてくれる最高の時間なので、私は嬉しくてエイドと一緒に練習をしまくったのでダンスにも定評があるのだ。
そんな邪な理由でダンスが上手くなったなど知ることもないアイバル様は目を優し気に微笑むと穏やかな口調で言った。
「ところでリンハール嬢、少し休みたいと思ったのですが、ここで一人でいるもは少々居心地の悪い思いをしておりました。よろしければ、私と共の庭園に行っていただけませんか?」
(ええ!? なんで!? そんなに親しくないよね!?)
そう思ったが周りはイチャイチャラブラブしている恋人だらけ。
それにアイバル様は侯爵家。
きっと多くの令嬢に申し込まれて、ダンスを踊りまくって疲れているのかもしれない。会場に入ればお互いダンスから逃げられない。
(なるほど、これは休む口実ね。私と一緒に居れば割り込んでダンスを踊ろうという令嬢もいないはず)
アイバル様が一人でいたら、絶対に休めないだろう。つまり私は他の令嬢からの防波堤。生徒会長でもルミナ王女殿下と親しい私に普通の令嬢は手を出せない。私の取り巻き力にあやかって休みたいのだろう。
(侯爵家の方も大変ね……)
私は淑女の微笑みを浮かべながら言った。
「はい」
するとアイバル様は本当に嬉しそうに微笑むと手を差し出してくれた。
「では行きましょう」
そして私はアイバル様の手を取るとアイバル様はゆっくりと歩き始めた。
庭園には美しい草花が植えてあった。
アイバル様が「この花は美しいですね」とバラなどの近くに植えてある花に目を細めたので、「アイバル様、あの花の根には毒があり、あの花の根に切り込みを入れて部屋の花瓶につけて置くと毒が充満しますので、あの花が部屋に飾ってあったら要注意です」と忠告した。
「え? そんな危険な花を植えているのですか?」
するとアイバル様は目を大きく開けて私を見た。
「根を切らなければ美しい花ですし、他の植物の生育にいい影響を与えますので庭に植えるのは一般的ですよ」
アイバル様は「植物にお詳しいのですね。もしかして他の花もわかるのですか?」と目を子供のように輝かせた。私はなんだか可愛いと思ってアイバル様に植物の説明をする庭園見どころガイドをした。
「へぇ~~では何かあったら、この葉を見つければいいですね……」
「ええ。傷口の殺菌効果は抜群で、騎士団も遠征などで薬が足りない時などは採用しているほどです」
アイバル様と庭園の草花を結構ガチで鑑賞していると、最後の曲が始める合図が流れた。
「あ、そろそろ最後の曲ですね」
アイバル様は手を繋いだまま私を見ながら言った。
「リンハール嬢、最後の曲を一緒に踊りませんか?」
私も「はい、ぜひ」と答えて、二人でホールに戻ると最後の曲を踊ったのだった。
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