第7話 デートと仕事
「どうかな、エイド?」
私はエイドの瞳の色、紫色のドレスを選ぶとエイドが眉を寄せた。
「ダンスパーティーですよね? ……もっと明るい色の方がいいと思います」
エイドが真剣に意見をくれるので、私も嬉しくなる。
「そうかな、例えばどんな色?」
エイドは、「そうですね……」とかなり華やかな色のドレスを選んだ。
「これなんかどうです?」
エイドが手に取ったのはよく晴れた日の青空のような明るい空色だった。
私は、エイドが私のために選んでくれたことが嬉しくて声を上げた。
「試着してみる!!」
試着室に入ると、着替えを手伝ってくれた店の方が「とてもお似合いですわ」と言って絶賛してくれた。
鏡の中に映っている自分は、確かに華やかだったし、私を良く見せてくれていた。
(エイドの選んでくれたドレス……素敵……だけど……)
私はドレスを着たまま試着室を出て、エイドに見せた。
「どうかな?」
エイドは表情を変えることなく「いいと思います」と言った。
このドレスは私を良く見せてくれるし、エイドが選んでくれたのだ。少し胸に何か引っかかりを感じるが、このドレスを選ばないという選択肢はない。
私は着替えを手伝ってくれたお店の方に言った。
「では、こちらを……サイズ合わせをお願いいたします」
「かしこまりました」
ドレスが決まって私はエイドと食事に向かった。食事が終わった頃、私はエイドに言った。
「エイド、今日はドレスを選ぶのを手伝ってくれてありがとう」
するとエイドは「いえ、仕事ですから」と素っ気なく言った。でもそれはいつものことなので問題ない。
「ふふ、とても素敵なドレスを見つけてよかったわ。ねぇ、エイド……どうしてあのドレスを選んだの?」
私がずっと胸に引っかかっていたことを尋ねると、エイドが無表情に言った。
「そうですね。あのドレスならお嬢にダンスを申し込む者も多いと思います」
「え?」
私は思わずエイドを見た。
「初めに選んだドレスもお嬢の雰囲気に合っていたのでとても似合うと思いますが、ダンスパーティーという男女の出会いの場には向かないと思います。もっと華やかな雰囲気の方が声をかけやすいと思います」
そう、エイドは私が他の男性から声をかけやすいようにこのドレスを選んでくれたのだ。
なぜだろう、急に胸が痛くなり胸を押さえた。
「お嬢、どうしたんです?」
エイドが怖い顔で私を見ていたが、私はなぞの胸の痛みが治まらない。
「エイド……ごめんなさい。今日はこのまま戻ってもいいかしら?」
「もちろんです。すぐに戻りましょう」
エイドが私に触れようとした。いつもなら喜ぶはずなのに、私はエイドの手を無意識に払い除けてしまった。
「あ……ごめんなさい……でも自分で歩けるわ」
エイドは呆然とした顔をしていたが、私は席を立った。そのままエイドは私の後を慌ててついて来て、その日は馬車で家に戻った。
なんとなくその日はどうしても誰にも会いたくなくて部屋に籠ってしまった。
部屋に入るとなぜだか涙が流れた。
でも自分ではどうしてこんなに涙が出るのか全くわからなかったのだった。
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